『真なる罪人3』



長閑なティータイムを愉しんでいればテラスへ侵入する無粋者が一人。
結界に阻まれテラス出入口手前で気障ったらしく竪琴をかき鳴らす。

「懲りないというか……ワンパターンというか……一応それは汝のトレードマークか? にしてはインパクトに欠ける」
駆けつけた は開口一番レイムへ問いかけた。

「う〜ん、似合ってるけどラスボスって感じじゃないなぁ。どっちかっていうと速攻ヤラレキャラみたいな雰囲気だ。服装もなんかイマイチだし……」
ハヤトは早くも大物振りを発揮してレイムをじろじろ眺め感想を漏らす。

「矢張りハヤト兄上もそう思うか?」
「おう、んな感じじゃねぇ?」

意見の一致をみて笑い合う兄妹。
その間もレイムは額に青筋浮かべつつ竪琴を操るが、ハヤトと はスルー。
大悪魔で、虚言と奸計を司る最大の敵は完全に無視されている。

「や、そんな場合じゃないと思うんですけど……しかも二人が言ってる意味が分からない。『らすぼす』って?? 『やられきゃら』って???」
トリスが顔を引き攣らせ とハヤトの言葉に疑問符を飛ばし、マグナ・ネスティはレイムを親の敵とばかりに睨みつけた。

アメルは底の窺えない笑顔を湛えるのみである。

 こほん。

軽く咳払いをしてレイムは語り始める。

「人はそんなに簡単に性根を入れ替えるものでしょうか? 貴女方が信じるように、人も応えてくれると?」
表向き冷静を保つレイムの問いかけ。

ハヤト& は同時に小首を傾げ、互いの顔を見遣って「「入れ替えない(のではないか)んじゃない? 応えるとも限らないし」」なんて。

兄妹してアッサリ否定の言葉を吐いた。

「……そうですか」

 ビキ。

レイムの額の青筋が一本増える。

「勘違いしてないか? 俺達は慈善家を気取ってるワケでもないし、ましてや正義の味方を気取ってるワケでもない。必死に自分の仲間を守ってたらそーなっただけだって。
買い被りすぎなんじゃねぇの? 俺の妹の事」

困った顔でハヤトは笑い傍らの へ目線を送った。
兄の困惑の視線を受け取り、 も大真面目な顔をして首を縦に振る。

「悟りの境地とはああゆうのを言うのか?」
ハヤトとしては事実を言っているだけでも、ネスティには伝わっていない。

最近知り合ったシルターンの仲間達の言葉を思い出し、一人思考に耽り始める。

「違うと思うよ、ネス」
ハヤトは と同じで比較的単純に物事を捉えるのだろう。
察したマグナがネスティへ訂正の言葉を入れた。

「それにしてもやっぱりお兄ちゃんだけあって、 と似てるのね! ハヤトさんって」
「うんうん、無自覚な所がそっくりだね! アメル」
アメルもさり気にレイムをシカトしてトリスへ話題を振り始める。
レイムの額の青筋がもう一本増えた。

「人とはかくも愚かなものなのです、証拠をご覧に入れましょう」
これまでの会話の流れを無かった事にして、レイムは澄ました顔を崩さず再度喋り出す。

「だから、人が賢いなどとは申しておらぬだろう、話の分からぬ奴だな」
が、 は不可解な言動を取るレイムを少々哀れむ目線で見遣って呟き。

「悪魔だから仕方ないのかもな? 人間じゃないし」
対する兄・ハヤトも に負けず劣らず無意識にレイムを貶めて。
「うむ……確かに、メルギトスに人道的発想をせよというのが間違いかも知れぬな」
「だろ?」
ハヤトの発言に が納得し、ハヤトが得意そうに胸を逸らす。

レイム、またもや無視。

 ビキビキ。

レイムの額の青筋が更に二本追加された。

「はいはい、彼をおちょくるのはそれ位にしてあげなさい。蒼の派閥から煙があがっているの。留守番はわたし達でしているから、マグナ達で見てきたらどうでしょう?」

 パンパン。

レイムの用件が済まない内に。
クラレットが手を叩き注意を引いて登場し、事態を収拾。蒼

の派閥方角を眺めたマグナ達が を掻っ攫い、テラスからあっという間に姿を消してしまう。

「何を仕込んだかは知りませんけど、余程暇なんですねぇ、大悪魔って」
去り際にクラレットが満面の笑みを以てレイムへ言い捨てる。

取り残されたレイムはワナワナと身体を震わせ何かを叫んだが、結界は誓約者&護界召喚師作なので破れる筈もなく。
最大・最悪の敵な筈の大悪魔は屈辱を味わったままトボトボ帰っていった。





マグナとトリスの追放を決定した、蒼の派閥の幹部。
フィリップと、暗殺請負い外道召喚師カラウスとの繋がり。
パッフェルにより露呈したネスティへの脅迫。

これらの罪で牢に繋がれていたフィリップを解き放ったレイムの小賢しい罠は、マグナ達により数分で片付けられた。

「成り上がり、か。エクスよ、成り上がりはそんなに品位がないものなのか?
寧ろ己の力だけで確たる地位と家名を得たのだ。クレスメントの家名を得るより大層な事を成し遂げたのだと我は感じるのだが」

カラウスに刺される直前、クレスメントの宿世を羨んだフィリップの発言を受け は隣のエクスへ問いかける。

「人それぞれ……ううん、人の脆さそのモノなのかもしれないね。僕は彼等を差別したつもりもないし、一人前に、立派になってくれた事に感謝もしてる。
だけど全員がそうだとは限らないっていう見本なのかもしれない」

自嘲気味に笑い、エクスはアメルによって怪我を癒されるフィリップを眺めた。

「新参者に対する偏見と、古くからある家の僻みとやっかみか。こればかりは一部が騒ぎ立ててどうこうなるものでもあるまい。……だが、好機はあるぞ」
最後の一言だけ声のトーンを落とした がエクスへ囁く。

エクスは目だけを動かし、 に話しの先を促した。

「大悪魔メルギトスが再びリィンバウムを侵略しようと試みておる。呆れるほど物好きだが、あ奴は真剣にリィンバウム攻略を目論んでおってな。
恐らくそう間もないうちに、ファナンやゼラムへ向け進軍を開始するであろう」

は淡々と事実だけを口に出す。

「そこで、だ。ゼラムの、いや王都の兵も出るのだろうが、蒼も金もそれなりに兵を出せるであろう? 相手は人ではない。悪魔の軍勢だからな?
一致団結しなければ勝てない強大な相手だ……逆手に利用できぬほど汝も耄碌しておるまい」

喉奥で小さく笑う は完全に策士の顔。
エクスは一回だけゆっくりと瞬きをし、口だけで笑みを形作った。

「参っちゃうな…… さんは、一番敵に回したくない相手だね。派閥内のしこりをある程度取り除けるとは思う。僕自身のしこりも」
事実上、 の提案を受け入れた形のエクス。
明言はしないものの肯定の意思を示す。

「二人でコソコソなにやってんだい?」
そこへ戦いを終え、クールダウンしたモーリンがエクスと の間に割って入る。

「家名の無意味さについて語り合っていたのだ」
は内容を大幅に端折ってモーリンへ答えた。

エクスも細かい内容を説明する気がなく の説明に頷く。

「ああ、あんまり良い気分じゃないわよね。ルウも気にした事無かったけど。一族の名前は一族の歴史を示すもので、召喚師の優劣を示すものじゃないのに……」
モーリンに続いて近くに居たルウも口を開く。

見たこともない世界で見たものはいがみ合う召喚師の派閥と、家名に縋り付く性根の腐った召喚師。
家の名はある種の誇りであって他者へ優位を示す道具ではない。
考えるルウの発言は正しい。

「うん。僕もそうあるべきだと思ったよ、本当に」
「はっ! だいたい蒼の派閥の総帥はお前なんだろう? そう成っていくよう、お前がしっかすればいいじゃねぇか」
素直に応じたエクスへリューグが憤りながら悪態をつく。

後手後手に回った蒼の派閥の対処は、思い返すだけでも腹立たしい。
リューグは真っ直ぐエクスへ怒りをぶつける。

以前の子供じみた癇癪ではなく、間違った事を声高に間違いだと叫ぶ意思がそこかしこに見受けられた。
の影響はしっかり受けているようである。

「やっちまった事は戻らねぇ、だが、これからは違う。直せるんだったら直していけよ。あいつ等と知り合った以上、一般人であっても、俺は無関心では居られないからな」
リューグが顎先で示すのは、マグナ・トリス・ネスティの三人組。

複雑な顔をしてフィリップの治療を行うアメルを取り囲む。

「……大丈夫だ、エクスは愚かではない」

己の非を認める器があるのなら、今回の件も公平に処理するだろう。
一年前のサイジェントの時のように。
尚も口を開きかける三人を はこの一言で制した、まではよかった。


「それにしても……」なんて続けた の発言に怒る、リューグ・ルウ・モーリン。
途中からイオスも輪に加わり、ああでもない、こうでもないと への説教大会へと早代わり。

「僕達人間からあれだけお小言を貰う神様も珍しいね、パッフェル」
「あははは……、あれがあの御方の長所で短所なんですよ。エクス様」

愛されてるから心配もされる。
だから説教ばかりを頂戴する神様の不服顔。

見ながらパッフェルはさり気なくフォローをした。




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