『話題休閑・真なる罪人3後』
久方振りに流れる和やかな空気。
アメルはクラレットと意気投合した流れで、一緒に夕飯の調理。
らーめんを求めるトウヤとハヤトの願いを聞き入れて今日はらーめんと相成る。
シオンも多少は覚えがあるので、アメルとクラレットを手伝い台所で作業に勤しんでいた。
「レイムの竪琴は一種の暗示を齎すんだと思う」
キールの発言にトウヤも同意して頷く。
操られたマグナ・トリスの双子は真剣な面持ちでキールの説明に耳を傾ける。
「微弱な魔力を込めてクレスメントの血に作用するよう、操作している筈だ。そうでなければ、君達だけが操られたという事実に対する説明がつかない」
続けて喋るキールに、矢張り双子は揃って首を縦に振った。
「メルギトスが乗っ取ったあの召喚師の身体、あれはわし等を遺跡へと案内した召喚師のものだ。それに関連があると思うか?」
「恐らくは」
アグラバインの疑問に今度はトウヤが答える。
「まぁ、要は自分の気持ちをしっかり持てば大丈夫なんだけどね? 悪魔に憑依されるのと原理は一緒で、自分の気持ちを強く持てば案外防げるものなのよ」
カシスが の髪を梳かす手を止め口を挟む。
屋敷の外を出れば普段の子供姿でも、現在の屋敷内では本来の姿をとっている 。
彼女の傍らにはハサハとユエルが安心しきった表情でベッタリ。
本来の魔力は安心感を与えるものなので、幼子召喚獣二人には居心地が良いのだろう。
「
を守りたいなら、クレスメントの家名が押し付ける過去の意識を吹き飛ばせ! 悪魔に負けるな〜!! ってコトだろ?」
的を得ているようなそうでないような。
ハヤトの発言にカシスが乾いた笑みを浮かべた。
クレスメント『調律者』の子孫が護りたいのは、天使アルミネの生まれ変わりのアメルで。
しかも過去の遺恨の元であるゲイルの遺跡も敵から守りたいのであって。
妹を、 を護るというのは違う気がする。
なんてカシスと同じ考えを抱くトウヤが早計なハヤトを宥めるように口を開くものの……。
「間違ってはいないけど……方向性が違うんじゃ」
「そうだよね! マグ兄!! わたし
を絶対護るって決めてるもん!!」
「ああ、そうだよな! トリス!! 俺達で
を護るって誓い合ったもんな!!」
妙に納得したトリス・マグナの元気な声に、意見がかき消される。
「……まぁ、あの子達ね?
に精神的に救われちゃってるから……、とーっても懐いちゃってるのよねぇ」
あはははっは。
トウヤ・キールから刺す様な殺気を向けられ、ミモザが苦しい言い訳片手に誤魔化し笑い。
可愛い後輩なので一応は誤解を解こうとミモザなりのフォローなのだが。
「ハサハもまもるの」
にベッタリ抱きついたままハサハが一見無邪気に微笑み。
瞳は宣戦布告でもするかのように好戦的に輝いている。
「はいはーい!! ユエルも!!! ユエルも頑張るよ!」
こちらは純粋に困ったところを助けてもらって、その恩返し。
ユエルがいまいち状況を飲み込んでいない様子で元気一杯に挙手した。
「微力ながら僕も彼女を護ると誓った。卑劣な大悪魔の罠から僕達を救ってくれ、僕達がまっとうだと信じてくれていたから」
すると居間で成り行きを見守っていたイオスが、さり気に自然な流れで自分も『 を護る』宣言を出す。
ミモザは口をパクパク開き彼女にしては珍しく二の句が継げない。
「小説より面白いからなぁ〜、俺としちゃ〜この先の展開が気になる」
壁に凭れたままのフォルテが格好つけて顎に手を掛けたまま、無駄に歯を光らせる。
「フォルテェエェェ!!!」
野次馬根性丸出しのフォルテの台詞に、すかさず飛ぶのはケイナの一発。
へ純粋に好意を寄せている(とケイナには見えている)仲間を下品なジョークのネタにしてたまるか、なんて意思が篭った一発である。
「うがぁっ」
仰向けに倒れて壁に後頭部を激突させるフォルテ。
ケイナはすっきりした表情で手の埃を払った。
そんな夫婦漫才を眺めるカイナは、カザミネ・エルジン・エスガルドと共に「サイジェントと同じ展開ですね」等と感心しきり。
が持つ吸引力は何処でも如何なく発揮される、強力な魅了の魔法。
サイジェント同様、ゼラムでも威力は健在だ。
「微力ながらわたしもぉ〜、ですねぇ。
さんのお役に立てればと思ってまして」
愛想笑いを顔に貼り付けたパッフェルがおずおずと口を開けば、シャムロックとルウも笑って頷く。
振り回されてばかりの神様だけれど中々ボケていて、こちらがハラハラさせられる。
でも彼女と居て息苦しさを感じないのは、彼女が人を対等の『友』だと見ているから。
それが純粋に嬉しいし、その気持ちに応じたいと思う。
「
が暴走したら大変だもん、どっちみち一緒に行動しなきゃ駄目に決まってるじゃない。目が離せないわよ」
諦めろ。
殺気立つキールとトウヤの肩を叩き、ミニスは大人な意見。
「信じられないが、俺達地球の結界を護るカミサマなんだろ? 普段護って貰ってる身分としちゃ、そこそこのお礼っていうのをしないと拙いかもな。とは思うぜ」
ふぅ〜。
子供が多いので今晩は禁煙。
レナードが口寂しそうに息を吐き出し、片眉を器用に持ち上げ の保護者達の反応を窺う。
「やっぱりこーなるんだ」
カノンに聞いて予想済みでも見せ付けられると、笑うしかない。
カシスは会話の内容を分かっていない
の髪へ再び櫛を入れ始める。
「
が可愛いのは誰だって知ってるじゃないか!! 何が不満なんだよ、カシス」
妹馬鹿のハヤトが頓珍漢な発言をかまし、キールの一睨みで押し黙る。
「ハヤト、視点が違う、論点も違うよ」
怯えるハヤトにトウヤが呆れた表情を浮かべ律儀にツッコむ。
「俺は……君達が妹を困らせるような、無神経な人達だとは思わないから。安心して
を任せられるよ。いざとなったらカイナもカザミネもシオンも居るし」
ともすれば奇妙な雰囲気へ流れてしまいそうな居間で、トウヤが穏やかな口調で最後を締め括る。
トウヤの遠まわしの牽制に、全員が黙り込んだのは言わずもがなであった。
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