『真なる罪人1』




エクス襲撃事件が未遂に終わり、 の口から出た爆弾が一つ。

「それにしてもエクスが無事でよかったな。
マグナとトリスが暴走した時は、我が全ての力を使ってでも止めるとエクスに約束したのだ。蒼の派閥からの干渉を最小限に留める為に。
派閥でも高位の人間だとは考えていたが、エクスは総帥だったのだな」

呑気に笑っている を笑えない。
イオスは朝知った衝撃の事実と、己の気持ちを天秤にかけガックリと項垂れる。

「わ、笑い事じゃないだろ!! いいか ! テメーが神だからってホイホイ安請け合いすんな」
呆れ怒るリューグの意見は全員の意見を代弁していて。
「本当だよ! いいかい? 自分の持つ力が巨大だからって、何でも一人で解決しようとするのは感心できないね」
リューグと並んでモーリンが。
相手が神だとか少女だとかは関係無しに、その耳を引っ張って へ説教を開始する。
「そうよ、そうよ!! ルウの事を子供だって笑えないじゃない。 の方がよっぽど子供よ。そういうのは仲間同士で支えあうものでしょう!」
ルウは腰に手を当てて笑いを引っ込めた を睨む。

ついこの間、甘党のギブソンと並んで大量のケーキを平らげたルウを『子供だな』なんて。
鼻であしらわれた一件を根に持っての発言だろう。

「しかし……」
「「「しかし、じゃない!!!」」」
おずおずと反論しかける を、えらい剣幕で遮るリューグ・モーリン・ルウ。
遠巻きに見守るシオン・カザミネ・カイナが予想済みの表情を浮かべた。

「サイジェントでも似たような場面がありましたね」
カイナが昔を懐かしむ口調で当時を振り返る。

あの時はガゼルやハヤトに良く叱られていた
フィズ達にエドス、レイド等が程よく間に割って入ってくれたのだが。

の今回の台詞に、流石のカイナも を助けようという気にはならない。

反省してくれなければ困るのだ。
どれだけ自分が無茶苦茶な約束をして周囲に心配をかけたかを。

殿は皆に心配される気質を持っているでござるからなぁ」
打つ手なし。カザミネも傍観しつつしみじみと言った。

「アカネさんとは違った意味で危なっかしい方ですから」

派閥の内部を考慮して、留守番役に回ってくれたセルボルト兄妹&誓約者二人。
彼等がこの場に居なくて矢張り正解だった。

心裡だけで考えシオンも相槌を打つ。

「やっぱり って進歩ないのね、そういう部分じゃぁ」
カイナやカザミネ、シオンの意見に耳を傾けていたミニスが、盛大に空を仰ぐ。


「エクス様…… さんとそんな約束してたんですか!?」

頭をガツーンと殴られた気分でパッフェルがエクスへ詰め寄る。

「ファナンに居た時にだよ。 さんは僕達、蒼の派閥に干渉して欲しくなかったみたいだったから」

エクスだってここまで隠してきたクレスメントの罪が公になるとは想像もしてなかったのだ。
こればかりはパッフェルへも笑って誤魔化すしかない。
クレスメントの末裔が暴走し、被害が出たら幾ら がある程度を防いだとしても。
本来の咎と非難を受けるのは蒼の派閥。
総帥であるエクス本人だ。

エクスとしてもこれは一つの『賭け』だった。

「でもマグナもトリスも、自分を見失わずに立ち向かってくれて。本当に助かったね」
愛想笑いを浮かべるエクスに。
「だからって、安請け合いしないで下さいよぉ〜、エクス様も さんも!!!」
悲鳴をあげて叫ぶパッフェルの言い分は尤もだった。






朝靄立ち込めるゼラム。
街並みを眺めイオスは胸のしこりを持て余し、気だるげに身支度を整える。

二度目だ。

胸中に木霊するのはこの言葉。

実は元帝国軍人だったイオス、デグレア攻略の部隊に所属されルヴァイドと対峙した過去を持つ。
一人生き残り周囲はデグレア軍。
死を覚悟した時、ルヴァイドによって救われた命。

そして今回は。

執拗に狙っていた聖女一行に命を救われた。

だから、二度目。

つくづく悪運だけは強いらしい己の運命を僅かに呪い、イオスは宛がわれた部屋の窓を開いた。

「はっ!」
誰かの声と何かが動く音。
朝靄に紛れて霞むが、人影が四つ。

動く人影が二つで、それを見ているらしい人影が二つ。

イオスは目を凝らし、俄に納得できない状況に我を忘れ。
取る物も取りあえず眼下に見えた庭へと飛び出した。

「そんなもんか……素人が訓練したにしちゃぁ、まぁまぁだな」
大剣を構え荒い呼吸を繰り返すのはマグナ。
対するバノッサは呼吸一つ乱さず、平坦な声音で率直な意見を口に出す。

朝の訓練をするといった とバノッサ兄妹。
発見した幸運なマグナはこれ幸いとバノッサに訓練の相手を願いいれ。
三人連れ立ったところでミモザに見つかり、四人で早朝の庭へ出で訓練に勤しんでいる。

「ふふふふ、バノッサ兄上もマグナも怪我には気をつけて」
カイナやクラレット達が配慮して、ギブソン・ミモザ邸を覆うように構成した結界。
お陰でサイジェントでは馴染みとなった本来の姿のまま、 は兄と友を応援する。

「もう一回御願いします」
動いて血流が良くなっただけではない、頬の紅潮。
隠す術もなく本人もやや無自覚気味。
マグナは の励ましに再度バノッサへ頭を下げた。

「ははぁ〜ん、成る程ねぇ」
面白い場面が見れるかもしれない。
密かに期待していたミモザの直感は大当たり。

奮闘するマグナに彼の心情を理解せず応援する
マグナの気持ちを把握しながらも妹の手前黙っておくのが得策だと、我関せずを貫くバノッサ。

「流石は ご自慢の兄上様だわ〜、あしらい方が見事! 見事すぎる!」
黙ってバノッサが剣を構え直したのを見て、ミモザが隣の へ話を振る。
「当然であろう。バノッサ兄上の剣術はラムダと互角かそれ以上だぞ」
言葉の意味だけを正しく捉え返事を返す にミモザは相好を崩す。

バノッサは雄叫びを上げ向かってくるマグナを適度にあしらいつつ眉間の皺を深めた。

「そうね。彼の逆鱗に触れないよう、気をつけなくっちゃ」
眉間の皺に気付いたミモザが愛想笑いを浮かべひとりごちる。
「? バノッサ兄上は理由も無しにミモザを攻撃せぬと思うが?」
小首を傾げる へ「いーのよ、こっちの話」なんて曖昧に誤魔化したミモザの耳に、誰かの足音が飛び込んできた。

にもその足音は聞えたようで、ミモザと一緒に音源の方へ顔を向ける。

「き、君は!?」
祭りの夜。
自分にピアスをくれた名も知らぬ少女が眼前に居る。
全力疾走してきたイオスは軍人らしくない冷静さを欠いた調子でそれだけ言った。

「あら、イオス。お早う〜」
「お早う、イオス」
焦るイオスに何かを察したミモザは含み笑いをして声を出す。

片やイオスの激しい動揺と歓喜を知らない は、普段を変わらない朝の挨拶をイオスへ送った。

「……????」

何がなんだかさっぱり分らない。
彼女がゼラム出身だとは聞いていたけれど、こうして朝早くにココへ尋ねてくるほどの間柄なのか?
それとももう彼のパートナーとなってしまったのか?

訝しい顔のイオスに も漸く己の失態に気付く。

「ああ!! イオス、汝にも説明してはおらなかったな」
立て続けの事態の急変で肝心な事を忘れる所だった。

「謀るつもりは無かったのだが……。汝等の心根はまっとうだと我は信じておった故、マグナ達と衝突して欲しくなかったのだ。
だからあの夜、災い避けのお守りとしてピアスを汝に託した……この、我の本来の姿で」

はにかみ笑う の笑顔に危うく眩暈を起こしかけ、イオスは回転してくれない己の頭を鼓舞して考え始める。

つまりなんだ?
あの少年の姿は仮で、本来の はこんな少女の姿をしていて。
黒の旅団、つまりはルヴァイド様と自分とゼルフィルドが心配でお守りを託したと。
そう言っている……らしい。

「つ、つまり……メルギトスが君を異界の神と云ったのは正しい表現なのか?」
今の の容姿を見れば、召喚術に疎いイオスだっていい加減分かる。

清浄な空気(そうイオスが感じるだけで本来は の魔力)を振りまくこの存在はヒトではないと。
あの時はメルギトスの揶揄かとも思ったので、取りあえず疑問は棚上げしておいたのだ。

恐る恐る問いかけたイオスに はニッコリ微笑む。
の背後のマグナは髪を逆立ててイオスを威嚇し、そんなマグナをミモザはニマニマ笑って眺めている。

「我は名も無き世界、地球の結界を護る神。だがここでの肩書きはサイジェントの =セルボルト。バノッサ兄上達の末妹だ」
兄を振り返って心底幸せそうに笑う の姿に、イオスは黙り込むしかない。

の生まれはわたし達と同じじゃないけど、作り上げた絆は本物なの。実の兄妹も同然だから、不用意な発言は慎むようにね? 見ていたら分かるでしょう?」
ミモザの小声の忠告にイオスは改めて へ目線を送る。

「自分の直感を信じて人を助けて自分が損しても。平然と笑ってられる優しい神様よ」
近づいてきたバノッサに髪を乱され嬉しそうに笑い声を立てる

何処から見ても毛色の変わった兄妹にしか見えない。
二人の間を流れる空気は自然だった。



Created by DreamEditor                       次へ
 書いてる側は楽しい兄(バノッサ)と妹(主人公)イオスさんへネタバラシ編? ブラウザバックプリーズ