『聖女の横顔1』




マグナ・トリス・ネスティは後ろ髪引かれる思いでゼラムを後にする。

を捜したい。
でも手段が無い。

窮地を助けてもらった冒険者、フォルテ・ケイナの目的地から帰る時に再び流砂の谷に寄るとの条件。
つけて二人の冒険者と一緒に、聖女の住むレルムの村へと彼等は出発したのだった。


その頃。
陽光を浴びながら はゼラムの巨大な門の前で、立ち止まり。
王都と名を馳せるに相応しい大都市を眺める。

「ふむ、思ったより早く着いた。さて……どうしたものかな」
顎に手を当てて考えながら、門を潜る。
警備兵が驚いて を眺めていたが、それはスルー。

召喚師風でもありシルターン色色濃い の装束。
旅人と呼ぶには幼い外見。
全てがアンバランスで珍しい。

「まずは、蒼の派閥の本部にでも足を運ぶ事にしよう。グラムスあたりが居れば良いが」

若しくは、去年共に戦ったギブソンかミモザ。
この三人さえ見つければ、ネスティ達の居場所も分るだろう。

簡単に考えて は歩き出した。

サイジェントとは比較もならない商店街。
朝も早いのに街を闊歩する人々。
活気満ち溢れるゼラムの街に は足を止める事しばしば。
どれもこれもが目新しく、珍しい。

「ふむ……迷うな」
目的が蒼の派閥からサイジェントの家族へのお土産選びへシフト。
時間を忘れて小物類やら調味料類を見て回る である。

余所見をしていた は誰かに追突され、危うく商品を展示してるガラスケースへ頭から突っ込むところだった。

「ご、ご、ごっごごごめんなさい! ……って、えええええ!?  ?」

と同じくらいか少し高い身長を持つ、少女。
金色の髪に愛嬌のある金の瞳が印象的な少女である。

裏返った声音で の名を呼ぶ少女はミニス。
マーン兄弟の姪にあたる少女で以前サイジェントで知り合った召喚師だ。

「ミニスではないか? どうした?」
思わぬ場所での思いがけない再会。
ガラスケースに突いた手を外し、店主に謝ってから はミニスを振り返る。
驚いているのはミニスも同じで何度も瞬きをしていた。

「それはこっちの台詞よ。サイジェントに住んでる筈の が、どうしてゼラムに居るの? もしかしてトウヤ達と一緒? ハヤトもクラレットなんかも来てるの??」
怪訝そうな顔で に尋ね返すミニス。

「いや、二重誓約されたようだ。誤召喚で、誓約自体は交わされてはおらぬ。ただ、召喚師達とはぐれてな。さっきゼラムにやって来たところだ」
大分事情を省いて はミニスに説明する。
の簡単な説明にミニスは顔を顰めた。

「呆れた〜。その召喚師達って金の派閥だったりする? もしそうなら」
ミニスは言いながら、 の新しい服を興味深そうに眺めている。

前はハヤトの服に近い衣装だったが、改めてサイジェントに住むと決めた に皆がくれたプレゼント。
全て身に着けているので、些か判断に困る姿となっていた。

「いや? 蒼の派閥だ」
はミニスのささやかな願いを打ち砕くように、至極アッサリした調子で答える。

「最悪……! こっちの派閥なら手伝ってあげられるのに、召喚師探し」
どの道、自分の所属する派閥の者だったならお仕置きだ。
考えていたミニスがガッカリして口先を尖らせる。

は小さく笑って有難うと礼を述べた。

「気持ちだけ受け取っておく。まずは知り合いの召喚師にサイジェントへの連絡を頼もうと思っておる。蒼の派閥の召喚師なのだ」
そういえば二つの派閥の折り合いはよくなかった。
思い出して は難しい顔になったミニスへ更に説明を加える。

「ふぅーん……そうね、高級住宅街に居るか、派閥に居るかでしょう。でも蒼の派閥って雰囲気変だし……近づかない方がいいかも」
腕組みして考え、ミニスは へ注意を促した。

破天荒な が蒼の派閥に行こうものなら、確実に騒動がおきる。
治まるものも納まらない。
大胆不敵・唯我独尊を地でいく に暴走されるのはマズイ。

 なんでこう……タイミングが悪いのよ〜。
 アレさえ失くさなければ、 を金の派閥のわたしの家で引き取ったのにぃ〜!!!

内心だけで盛大にため息ついて、ミニスは気持ちを切り替える。
助けて上げられるところまでは、 の助けになってあげたかった。

「派閥本部には案内してあげられないけど、高級住宅街なら結構知ってるの。よかったら連れて行ってあげるわよ」

正体を知りそびれているミニスにとって、 は不思議な友達という枠内に居る。
フィズとは親友だけれど、なんだか少し人間離れした不思議な友達。
でもミニスの気持ちを理解してくれる大切な友達でもある。

 ミニス、大分元気になって良かった……が、あの気配がせぬぞ?
 しかも音が乱れに乱れておる。
 焦りと不安と憤り???
 少々の焦燥に……??? 悩みでもあるのか。

答えない の沈黙を肯定と受け取り、ミニスが の手を引いて歩き出す。
ミニスに連れられて歩きながら は眉間に皺を寄せた。

 波乱の予感が次から次へと押し寄せる。
 このゼラムを覆う薄い膜のような、粘着感のある悪意は如何なものか?
 サイジェントの時はダイレクトな悪意だったが、こちらは狡猾さを感じる。

災難が向こうからやって来るのか。
自分から厄介に巻き込まれているのか。
そもそも持っている体質なのか。
はゼラムを覆い始めた見えない悪意にため息。

 見捨てては……おけぬではないか、厄介な。

項垂れた は気がつけば閑静な住宅街に立っていた。
!!」
ミニスが無反応の をガクガクと揺さぶっている。
揺さぶられながら、 は左右にブレる住宅街を眺めた。

「これはまた、高級感溢れる居住区だな……」
手入れの行き届いた庭先に、品の良い玄関。
二階建ての家々が立ち並ぶ、高級住宅街。
は率直な感想を言った。

「も〜、 ってば何呑気な事言ってるわけ!? そうじゃないでしょう」
マイペースを崩さない にミニスは呆れ果てる。

勝手に召喚され、迷子になって、挙句自力でサイジェントへ戻らなくてはならないかもしれない。
召喚した召喚師がどんな人物か知らないが。
はぐれにされてしまって、一人ぼっちにされて。
身に降りかかる災難としては結構タイヘンな部類に入る。

 今頃サイジェントじゃ大騒ぎじゃない。分ってるのかな、

ミニスの想像範囲を遥かに上回る大騒ぎは、リアルタイムでサイジェントを多い尽くしていたが。
生憎、 もミニスもそれを知らない。

「ああ、うっかりしておった。知り合いの召喚師が居るか探さねばな」
ミニスの心配を分っていない は、ノンビリ当初の目的を口に出した。

自分に言い聞かせるように。

こうしてミニスの案内で高級住宅街を歩き出す
最悪、ミニスと別れた後に蒼の派閥へ出向けば良いのだから。
心配も不安もない。
寧ろ、トゲトゲしいミニスの音の方がよっぽど心配だった。

「ミニス……話は変わるがシ」
「あ、ああ! そうだ、 。その蒼の派閥の召喚師の名前は? 苗字、知ってるんでしょう??」
ギクシャクした空気を更に硬くして、ミニスがぎこちなく話題を変える。

「? ああ、ギブソン=ジラールか、ミモザ=ロランジュだが。心当たりは……」
「えっと、えっとね!! ここら辺が蒼の派閥の召喚師達が住んでるの。ほら、あそこの玄関に出てる人の顔見えない?」
の会話の先先を潰しながらミニスは、ある一軒の屋敷の玄関に出ているローブ姿の男を指差した。
可愛らしいオレンジの服を着た女性からバスケットを受け取っている。

 ああああ〜もぅ、 ってどーしてこう鋭いのよぉおおぉぉぉ!!!
 出来ればもう一度捜してそれで……。

極力話題をアレへ持っていかない為に、ミニスも必死である。
咄嗟に見ず知らずの召喚師を へ見せて話題を変えた。
変えたはいいけれど、この後どうしようとうろたえるミニス。

「……凄いではないか、ミニス」
逆に驚かされたのは の方。

大方、適当にミニスが指差したのだろうなんて。
半分義理で男を見れば、大当たり。
一年前より余裕の出てきたギブソンの笑顔が の目に入ってきた。

「はぁ?」
の褒め言葉にミニスは間抜けな相槌を放つ。

「凄いな、ミニス。あれは我の知り合いの召喚師だ。どうして分かったのだ?」
屈託なく笑って、 はミニスの顔色を窺う。

なんだか見透かされてしまいそうな、黒い瞳に自分の姿が映って。
ミニスは気まずくなった。

 駄目!
 これ以上 と一緒に居たら、わたしバラしちゃう。
 きっと助けてくれるんだろうけど、出来れば自力で何とかしたいの。

突拍子もない行動を取る だが基本的にはお人好し。
ミニスが、友達が困っていたなら助けてくれるだろうけど。
でもミニスは頑張ってみたかった。

「え、えーっと勘。じゃ、じゃあ時間がないから! またね〜」
目を泳がせ、言ってから駆け出していくミニス。
が声を掛ける暇はなかった。



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 変則的に物語は進みます。ブラウザバックプリーズ