『再会と別れ2』




「ふぅ〜ん、マグナ達が犯人だったのね。やっぱり」
項垂れるネスティ・トリス・マグナを横に並べ。
ミモザは腕組みしながら第一声を放つ。

互いにこれまでの事情を説明しあった結果、 を誤召喚した相手も判明した。

「悪気があったわけではあるまい。互いに不可抗力だったのだ」
は普通に三人を庇った。

挙動不審なトリスを問い詰めようとした矢先襲われたので、先延ばしになっていた尋問。
ミモザの考えた通りの結果が出て、ギブソンもフォローできないらしい。
困った顔で笑っている。

「それよりも、アメルとやら。気分が悪いなら正直に申せ。災難に見舞われて精神的にも辛いであろう」
青い顔をして座るアメル。
両隣をアメルの兄代わり、ロッカとリューグの双子に挟まれている。
の気遣いにアメルは無理矢理笑顔を形作った。

「カノン」
秀麗な眉を顰め、 が一言。
「はい、 さん」
それだけでカノンには十分伝わる。
笑顔を崩さない見た目は可愛い系。
中身は??? のカノン、アメルの身体をお姫様抱っこして階段を登っていく。

「あ、あの! あたし歩けますから」
階段からは上擦ったアメルの声音が。
「いいんですよ。辛いときは無理しなくて〜♪」

 トン、トンと。

音を立てて階段を登るカノンは穏やかな口調で応じる。

「あたし歩けます〜」
悲鳴をあげるアメルにミモザが思わず噴き出す。
トリスも なりの優しさに表情を輝かせ、ネスティとマグナは難しい顔をそれぞれにした。

「アメルさん、軽いですよ? 気にしないで下さい」
飄々としたカノンの返答。
聞いて思わず腰を浮かすのはロッカとリューグの双子。

「汝等は後で食事でも持って行ってやれ。アメルが、妹が心配なら、その辛気臭い顔を何とかしてからにしろ」
言って は双子を手で制する。
双子は言われて互いの顔をマジマジ観察し、顔色のよくない互いの顔に苦笑し合った。

、お前小さいのにやるじゃないか〜」
ニヤけた面を下げてフォルテが の頭に手を置く。
「将来立派な男になるぜ」
親指を立てて卑下た笑みを浮かべるフォルテに、ケイナの鋭い一撃が飛ぶ。
「フォルテ!」
「おぷす」
見事な肘鉄が決まり、フォルテの体が廊下に沈む。
夫婦漫才に慣れてきたネスティ達は『またか』という感じで。
双子は驚き。
ミモザとギブソン、 にガウムは笑いを噛み殺した。

「悪いな、フォルテ」
意地の悪い笑みを浮かべて何故か が謝る。
理由は言わずに。

やがてカノンが二階から降りてきて、アメルを部屋へ送ってきたと へ報告する。
ここで漸く落ち着いた空気が全員を包み始めた。

「食事の準備、しましょうか」
気を取り直してミモザが提案する。

固まりそうな雰囲気を解すミモザの動き。
ミモザとギブソンが料理の支度をするべく台所へ。
トリス、ロッカも手伝いに台所へ抜けた。

「ガウム、ハサハを部屋へ運んでやれ」
「キュッ」
眠そうに船を扱いでいたハサハも二階に運ばれ、一気に人数が減る。

「それで……」

「助けに来なかったクセに」

口を開きかける の言葉をこれ以上聞けなかった者がいた。

の言葉を遮るマグナ。
俯いたままマグナは静かに を非難する。

「それだけの力があったら助けられた! 自分で言っておいてなんだよ! 助けに来なかったじゃないか!! 村の、レルムの村の人達を なら助けられたのに!!」

マグナは怒りの矛先を へ向け始める。
必死に抑えていた箍が の戦いぶりを見て再燃したのだ。

あれだけ鮮やかに戦っておきながら、どうして?

「ちょっとマグナ、幾らなんでもそれは無理でしょう?」
マグナの様子がおかしい。
ケイナはマグナに手を伸ばし、肩を撫でて気持ちを落ち着かせようとする。

フォルテもケイナも を責めるつもりは無い。
幾ら強くてもその場にいなかった者を責めるのはオカシイ。
普段の素直なマグナの態度が消え、あるのは刺々しいオーラを纏ったマグナ。
フォルテも何かを言いかけるが、結局は黙り込んだ。

「なんで助けに来なかったんだよ!? 来てくれれば沢山の命が助かったのに。罪も無い村人達が助かったのに……この、役立たず!! 嘘つきじゃないか!」

自分でも止まらない。
驚くネスティとカノンの気配を感じているのに止められない。
マグナは自分でも驚く位、 への文句が口をついて出ていた。

「おい、マグナ?」
流石にリューグも驚いてマグナへ近づく。

言っている事が無茶苦茶だ。
聞けば迷子になっていたという、召喚獣? の
勝手に呼び出して迷子にさせて、その場にいなかったからと言って。

マグナの言い分は八つ当たりだと、リューグでも思う。

「どうして! どうしてあの時」
マグナは叫び立ち上がって、衝動に任せ の胸倉を掴む。

脳裏をよぎるのはレルム村の夜の悪夢。
燃え盛る炎に殺されていく人々。怯えるアメルと必死に黒騎士へ挑んだアグラ爺さん。
逃げ道を作ってくれたロッカとリューグ。

「どうして……」

 神様だったら、どうして助けてくれなかったんだ。

声無き悲鳴をあげ、マグナは の胸倉を持ち上げる。

「マグナ! 止めるんだ」
「落ち着いて、マグナ!」
ネスティとケイナが必死にマグナを宥める。
尤も、今のマグナに二人の声が届いているかは分らない。

「……マグナさん、余り さんを泣かせないで下さい」

 そっと。

マグナの腕を掴みカノンが口を開く。
驚いたマグナが を見詰めると、 は無言で涙を流していた。
真っ黒い漆黒の瞳から零れ落ちる涙。
透明な滴はマグナの両手を濡らす。

「すまない」
震える声で はマグナに謝った。

 痛い……身体を襲うこの痛みはきっと。
 村の人々の痛み。
 生き残ったアメル達の痛み。
 何より傷ついているマグナの痛み。

身体が軋み心が痛い。
マグナの感情に引き摺られて の心も悲鳴をあげる。

「ボクは本来なら、一度死んだ身です。 さんが助けてくれなかったら、ボクはこうして皆さんと会えなかった。
ボクは、 さんがとても優しくて傷つきやすい心を持った人だと知っています。知らないマグナさんに理解を求めるつもりはありません、でも」

マグナの手の拘束を解き の身体を取り戻す。
カノンは笑顔を崩さず喋った。

「でも。二度はありません。土足で さんの心を傷つけるなら、ボクが貴方を殺します。遺書、用意しておいて下さいね? マグナさん」

心の底から冷える。
カノンの冷たく光る赤い瞳。
真っ直ぐにマグナを射抜き、近くに居たバルレルでさえも、その圧倒的な殺気に押し黙った。


「先に食事をしていて下さい。ボクは さんを落ち着かせますから」
次の瞬間には殺気を四散させ、カノンは穏やかな雰囲気を纏い去って行く。

嵐が去った後の家のドアを空けた時感じる開放感。
近いものを感じて全員が身体の力を抜いた。

「……俺……どうして……」

 責めるつもりは無かったのに。
 どうしてあんなに に怒ったのだろう?
 謝って欲しかったんじゃない。
 泣かせたかったんじゃない。

拳に落ちた の涙。
見下ろしてマグナは力なく呟く。

「ヒヒヒヒ。おい、ニンゲン! 分らないのかよ?」
意地悪く唇の端を持ち上げ、バルレルがマグナを嘲笑う。

 へっ!
 俺を呼んだ人間と同じ魔力持ちのクセに、分かんねーのかよ。
 面白ぇ。

 俺には分かったぜ。
 オメーは、あの存在に惹かれ赦しを乞うてるんだ。
 それにしても不思議な魔力の持ち主だぜ、あのガキ。

マグナから噴出する負の感情。
敏感に感じ取ってバルレルは薄く笑った。

「マグナ、 が落ち着いたら謝るんだぞ?」
バルレルの口を押さえてネスティがマグナの頭を撫でる。

「……マグナも疲れてるんだ。あんまり引き摺らないようにしろよ」
決まりが悪そうに頭を掻いてフォルテもマグナをフォローした。
リューグだけは眉間に皺を寄せて腕組みして沈黙。
ケイナも戸惑いながらマグナを慰める。


「おっまたせ〜、料理できてるよ〜って……あれ?」
ロッカと共に皆を居間へ呼びに顔を出したトリス。
葬式の後の雰囲気を醸し出す面々にロッカと首を傾げた。



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