『再会と別れ1』




ミモザとギブソンに断りを入れ、ゼラムの街をうろつく ・カノン・ガウム。

繁華街をブラブラしていると、目をつけられていたのか。
怪しげな酔っ払いに捕まった。

「にゃははははは〜♪」

能天気な笑いを振りまく自称『メイメイさん』
シルターン出身であるらしい、占い師である。

酒臭いメイメイの切り盛りする店内。
ガウムは身体を震わせて の腕の中でグッタリしていた。

「成る程ねぇ〜、あの時わたしを知ってた筈だわ〜」
酒焼けした顔を へ近づけ、メイメイは一人納得する。
「我には面識がないが、これから先面識が出来るのだな、汝と」
動じず、 はメイメイの無遠慮な視線を受け止めて応じた。
メイメイは の指摘に目を丸くしてそれから笑い声を立てる。

「にゃははは〜♪ 参っちゃうわねぇ、相変わらず鋭いんだから! そういう部分では。時間がたてば分るわよ。重なり合う物語♪ ってな感じね、にゃはっ」
グビグビと酒を煽って上機嫌。
メイメイは殊更明るい口調で言ってケタケタ笑う。
「底の見えない方ですね」
純粋に感じ入りカノンがメイメイの食えない態度を言い表した。
は黙って肩を竦め、メイメイに向き直る。

「運勢を見てくれると申したな? ならば見てもらいたい」
「にゃはははは〜、りょ〜かい〜」
手を差し出した の手のひらを見詰めるメイメイ。

カノンは自身に関わりある世界、シルターンの占いに興味津々。
身を乗り出して占いの様子を見守る。

ガウムは身体を一層縮めて訴えていた「早く店から出よう〜」と。

「そうね……相変わらず破天荒な行動してるのねぇ、 は。まぁ、貴女らしくて良いんだけど。お人好し過ぎると足元を掬われるわよ。
それから力だけで解決できる部分と精神面は別って事ね」

眼鏡をかけ直し真剣な面持ちで。
じっくり の手相を観察し、メイメイは言った。

「そうか」
対する は淡々とメイメイの忠告? らしき、占い結果を受け止める。

「だが力で解決しなければならない厄介に我は巻き込まれている、とも考えられるのだな。面倒だぞ……ここの地理は聡くない、追い剥ぎが出来ぬではないか!!!」

肝心な事をギブソンとミモザに聞き忘れて は呆然とした。
そんな に、メイメイは「あるわよぉ〜、稼ぎ場所」なんて。
酒瓶片手にニヤニヤ笑った。





頼るべきところが他に無い。
いや、一つあっただけでも幸せか。

ネスティは暗く落ち込む思考を努めて隠し、頼れる先輩を見る。

「ねぇ、ミモザ先輩。誰か泊まってるんですか? この屋敷に」
使われていない部屋が多いのに、ある部分だけ鍵が掛かっている。
見つけたトリスは早速ミモザへ質問をぶつけた。

「ええ、泊まってるわよ。出掛けちゃって今は居ないけど。サイジェントに居た時、散々助けてもらった子なの。見かけとの差は大きいから、会って驚かないでね」

生家に泊めてもらった流れでマグナ達が助けた、レルムの村の聖女・アメル。
アメルと一緒に紅茶の準備をしながらミモザは答える。

「へぇ、楽しみだな……ネス? どうしたの?」
トリスはネスティの存在に気づき、キョトンとした顔をする。

「ああ、門番詰め所に行って来ようかと思う。確かめなくてはいけないだろ?」
流石にミモザの前で誤召喚した人間を間違えて見捨ててきました、とは言えない。
村を襲われたショックが抜けきらないアメルにも聞かせたくなかった。

「あれ? お兄ちゃんが朝行ったみたいだったよ? さっき居間でロッカとリューグと話してたけど。聞いてない?」
トリスが首を傾げる。
「いいよ、トリス。僕が直接聞いてくる」
首を傾げつつ居間へ向かおうとしたトリスを留め、ネスティは台所を去った。

ネスティも兄のマグナもなんだか変だ。
どうしてだろう?

不思議に思うトリスの背後でミモザが囁いた。

「ねぇ、トリス? ちょっといいかしら?」

振り返ってトリスが見たものは、怪しい笑みを湛えるミモザの姿。
アメルもびっくりして紅茶をカップに注ぐ手が止まっている。
ミモザににじり寄られ言いようの無い恐怖をトリスが味わおうとした、正にその時。


招かれざる訪問者がギブソン・ミモザ邸へ押しかけてきたのだった。
アメルを狙う黒装束の一味。
正門からはギブソンが。
裏門からはミモザがアメルを連れて。

二手に分かれての行動は功を奏したかに見えた。
リューグの振るう斧が敵に傷を負わせる。
横目で確認してマグナも懸命に戦っていた。
「甘いっ」
槍使いが放つ隙のない一撃。
フォルテでさえ受け止めるので精一杯である。

戦い慣れしていないネスティが終にバランスを崩し、そこへ敵兵が間合いを詰めた所に。
ソレは舞い降りた。

「ギブソン……後で説明をして貰いたい」
真横に短剣を流し、ネスティへ槍を振り上げた敵兵を倒す。
は何処か疲れた口調でギブソンへ注文をつけた。

「説明は構わないが、どうしたんだい?  らしくもない」
珍しい の態度。
ギブソンはリューグとマグナを支援しながら首を傾ける。

「色々あるんですよ、 さんにも」
敵の放った銃を剣で防いで、カノンがニコニコ笑う。
ガウムは召喚兵士に忍び寄り、あっという間に魔力を削り取っていた。

「カノン、足止めを頼む」
「はい、分りました♪ さん」
が言い終わるか終わらないか。
カノンと は駆け出す。

互いに適度な距離を保ち、 が切り込みカノンが仕留める。
ある程度進んでからカノンが敵の進行を抑えるかのように立ちふさがり、 だけを先へ進めさせた。

「君達は……?」
「サイジェントから来ました。 さんの保護者代理で、ボクはカノンと言います」
何がなんだか分らない。
呆然とするネスティにカノンが笑顔を崩さず挨拶する。
ハサハはなんだか嬉しそうにカノンへ近づいた。

「(くいくい)」
人懐こいとは言いがたい、ハサハがカノンの上着を引っ張る。
「ハサハ」
自分を指差しハサハが自己紹介した。
「ハサハ、ちゃんですね? 宜しくお願いします」
礼儀正しいカノンは律儀にハサハへ挨拶を返す。
「挨拶はいいから、先に追い払わないかい? 彼等を」
ともすれば、まったりした空気が漂いそうな戦闘。
引き締めるべくギブソンは、最前線で槍使いの槍を受け止めた を示した。

金属がぶつかり合う音。
が両手を交差させて槍使いの刃先を受け止める。

「そうか、少しは疑うべきなのだな」
動揺の色が走った槍使いの深い紫色の瞳。
一瞬の感情の揺れ。
見咎めて は唇の端を持ち上げた。
「……」
槍使い。
流砂の谷ではぐれ、街道をウロウロしていた を叱った槍使い・イオス。

違う立場で対峙する。
でさえ想像していなかった状況だ。

イオスはもっと驚いているだろう。
顔に感情は出てこないが。
硬く口を閉ざして次の一撃を放つ体勢に入るイオス。
は槍の刃先が離れた瞬間、短剣を投げ、イオスのロングコートの裾を地面に縫い付けた。

「フォルテ!」
自分は横に飛び、イオスへの道を作る。
背後の、ギブソンの回復魔法を受けたフォルテへ は叫んだ。

「おうよっ」
気合十分。
フォルテは へ返し、渾身の一撃をイオスへ放った。
フォルテの一撃はイオスの槍を折り。
他の兵士達はカノンとガウムの活躍によりほとんどが戦意を喪失している。

「まだ戦うか?」
サモナイト石を手に はイオスを見下ろす。

の瞳はイオスへ「撤退しろ」と語りかけていた。
イオスが逡巡していると、屋敷の裏手で空砲が鳴り響く。

「総員、撤退しろ」
イオスはコートを破り、短剣を残して撤退して行った。

「いや〜、助けられちまったなぁ。また」
手際よく撤退して行ったイオス達を見送り、フォルテが の背中を叩く。

「困った時はお互い様だろう。しかし新顔も増えて居るな」
見知らぬ赤毛の少年を横目に はフォルテに耳打ち。
「ああ、ちーっと訳ありでな。 の知り合いも紹介しろよ」
カノンとガウムを顎先で示すフォルテ。
はリューグとマグナからの視線を感じつつ、笑顔でもってフォルテへ了承の意を表したのだった。


Created by DreamEditor                       次へ
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