『流砂の谷1』



双子の新米召喚師はこれ以上ない位。
猛烈に反省していた。

好奇心・身から出た錆。
兄弟子に認められたい一心で向かった流砂の谷。
強面の盗賊達と戦う羽目になって、現在戦闘中。
戦闘といっても慣れない行為に泣きそうだ。


 ネス、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。


双子揃ってお呪いの様に呪文を心の中で唱える。
兄弟子は双子を庇うように立ち、召喚魔法で盗賊達と向き合う。
その前方では助けに入ったつもりの冒険者達が戦っていた。


 ごめんなさい、ごめんなさい!
 神様〜、助けて〜!!!


両手を合わせて双子は祈る。
丁度同じタイミングで、兄弟子は無色のサモナイト石から、何かを召喚しようとしていた。


 ああああっぁぁぁあああ!
 神様! 助けて!!!!


双子の心の悲鳴がシンクロし、尚且つ兄弟子が魔力を込めた時。
その者は召喚術の光とともに現れた。
「……はて? 我を呼ぶ声がしたと思ったが、誰だ?」

小さな小さな子供。
八歳くらいだろうか?
少なくとも十歳にはなっていないだろう。

黒い髪と瞳を持つ子供は、兄弟子と双子の間に立って周囲を窺う。

「なっ……なっ……子供!? 子供だよ! トリス」
「神様じゃないよ! マグナ!!」
二卵性双生児、片割れの少年は叫び、同じく片割れの少女『トリス』も少年を『マグナ』と呼んで悲鳴をあげる。
召喚した本人、兄弟子のネスティは眼鏡を思わず落とした。

「アレは敵か?」
子供は酷く冷静に盗賊達を顎で示す。
マグナとトリスは何度も首を縦に振った。

「そうか。落ち着いて話も出来ぬ、片付けて参る故待っておれ」

 は?

なんて疑問符も挟む時間はなかった。
駆け出す子供は素早く、しかも戦い慣れしているよう。

短剣を抜き放ち、軽々と宙を舞い次々に盗賊達を倒していく。
懸命に戦っていた冒険者達も呆然として子供を見ていた。

ものの五分か、もっと短かったか。
気がつけば盗賊達は全員ダウン。
目を回して大地に転がる。

「この子、さっきから居たの?」
長い黒髪の女性。冒険者の一人、ケイナが弓を片付けつつネスティへ尋ねた。

「いや、それが……」
口篭るネスティ。

「ヒヒヒッ! 二重誓約だぜ、コレは」
愉快そうに肩を揺すって笑う、羽のある少年。
黒髪の子供を指差して言った。

「バルレル!!」
慌てたトリスが護衛獣の名を呼び、宥めようとする。
しかしバルレルと呼ばれた少年はトリスを無視して高らかに。

「五月蝿い、小童」
笑おうとして、容赦なく子供にどつかれ地面と仲良くなった。

「我が名は だ。サイジェントの兄上の家で手伝いをしておったのだが、ここは何処だ? 我は召喚されたのか?」
小首を傾げた子供・ にトリスとマグナが土下座する。

「ご、ごめんなさい。ピンチだったから……ネスが召喚魔法使った時に、一緒に魔力込めちゃった」
涙目になって謝るトリス。
「悪気はなかったんだよ! ネスがピンチで俺達もピンチで……思わず、神様助けてってお願いしちゃって」
同じく、トリスと一緒に頭を下げるマグナ。
興味深そうに は双子を見下ろし、小さく笑った。

「そそっかしいな、汝等は。トリスとマグナ、で良いのか?」
愉快そうに笑う
の強さから言って殴られるかもしれない。
覚悟していた双子はキョトンとして、笑う を見詰める。

 よ、よかったぁ〜。怒ってないやv

なんて、揃って安堵していたら。
「君達は馬鹿か!!!!」
額に青筋浮かべた兄弟子から、超特大の雷が降った。





冒険者のもう一人、草色の髪を持つ青年フォルテとケイナ。
二人が盗賊捕獲の連絡をしに街まで向かい。
マグナ達は に事情を説明する為、盗賊の見張りも兼ねて流砂の谷に留まっている。

「ふむ、眼鏡の汝が兄弟子のネスティで。羽の小童がサプレスの悪魔・バルレル。そこな着物の子供がハサハ、だな?」
自己紹介をしたマグナが改めて全員をもう一度紹介した。
確認を込めて は全員の名前を復唱した所である。

「しかし僕達三人分の魔力で二重誓約だなんて……一体、どうしてなんだ?」
一人ネスティは浮かない顔で、己のサモナイト石を眺める。

刻印が現れるはずのサモナイト石は変化無し。
を送還しようと試みたが、無駄に終わっていた。

「構わぬ。二重誓約とはいえ、強固なものではないらしい。サイジェントには自力で帰るゆえ気にするでない」
呼ばれた本人は至ってマイペース。
岩の陰でのんびりと寛いでいる。

「いやしかし、僕達は蒼の派閥の召喚師として責任が」
生真面目なネスティが言ってる傍で、好奇心旺盛なトリスが を質問攻め。

「サイジェント!? どんな所?」
見知らぬ世界への好奇心。
トリスが の隣を陣取る。

「織物が盛んで、最近は農作物も生産し始めた。森と川が近くにあり、召喚鉄道も走っておるぞ。居心地の良い街だ」
あの事件から落ち着きを取り戻した街。
家族の姿を思い浮かべて は微笑む。

「えっと、えーっと。 って召喚獣なの? 召喚されたのに平気そうだったし」
気持ちばかりが逸る。
トリスが間髪入れずに次の質問を口にした。

「ああ。召喚されるのは二度目だ。召喚獣となるのか、どうか、分らぬがな」
一回目は故意に。
二回目となる今回は本当に偶然で。
今頃、兄はどれだけ大騒ぎしているか。

考えて はちょっぴり心配した。
サイジェントの街が壊れないように、と。

「元居た世界当ててあげる! シルターンでしょ!」
古風な喋り方。
兄マグナの得意とする鬼属性の召喚獣にそっくり。
衣装も着物に似ていて、シルターン風だ。確信を持ってトリスは言った。

「ハズレだ」
唇の端を持ち上げ、 は笑いながら否定。
「えー!? だって、喋り方だって着てる物だって……」
頬を膨らませトリスが拗ねる。
はクスクス笑ったまま。

「違うよ」
トリスの腕を引いてハサハが否定した。
ハサハは に近寄って嬉しそうに、幸せそうに微笑んで更に言う。

「シルターンじゃないよ。でも、本物なの。おにいちゃんとおねえちゃんのお願いを叶えてくれた、神様だよ?」
たどたどしい口調で説明したハサハに、マグナが固まった。

トリスを叱ろうとしたネスティも固まった。

密かに復讐のチャンスを窺うバルレルも動きを止め。
当のトリスも大口を開けたまま を凝視する。

「「「あははははははっ!!!」」」
数秒間の沈黙の後。
トリス・マグナ・バルレルが笑い出した。
堪えきれないと言いたげに笑い出す。

「……ごめんなさい」
親切心から、助けてもらったから。
正直に言ったのに、相手にされなかった。

に申し訳なく思ってハサハは に謝る。
笑い転げる面々に は呆れた視線を送り、頭を振ってため息をつく。

「良い、ハサハ。我が神だと思われぬのは承知の上だ。気にするでない」

そう。
一年前の は散々散々笑われていたのだ。

今更神だと信用されなくても、気になどしない。
また己の場所も分らないココで正体を曝す真似は避けたいとも考えていた。

 まったく……一年前のフラットのようだが。
 まあ良い。分る者には分るが、分らぬ者には分らぬままで。
 それよりもココが何処で……はて?
 ネスティーは蒼の派閥と申していなかったか?

ふと我に返って はネスティを見上げる。
「?」
からの視線を感じてネスティは目線を下げた。
「汝は蒼の派閥の召喚師か? 先程そう申したな?」
まだ笑い転げる面子の肺活量を関心しつつ、 は現実問題の片付けにかかる。
「ああ、僕達は蒼の派閥の召喚師だ。ここから王都ゼラムは近いし、そこまで行って対策を考えよう」
最後まで責任を取りたいが、子守状態のコレでは無理だ。

ネスティは我ながら情けないと考え、それでも精一杯出来る部分を に説明する。
ネスティの気持ちを知ってか、知らずか。
は満足そうにニッコリ笑った。



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 こうして始る2の世界。折り返しまでは波乱万丈〜。ブラウザバックプリーズ