『祭りの夜2』




最初にアイスを食べて、それから蒸かした饅頭のような物を買い。

食べ歩きながら、他愛もない話を交わして移動するマグナ・ハサハ・

実は結構人見知りするマグナだったりするのだが、初対面に近い彼女からは不快さを感じない。
寧ろ居心地の良ささえ感じる。
不思議な懐かしさも感じていたりするのは、マグナだけの秘密だ。

「見聞の旅なんて大変ね」
マグナがゼラムからファナンへ来ていた理由。
アメルの件を除いて説明すれば、 は当たり障りのない相槌を打つ。

まさか知っていて、マグナ達の保護の為に動いているとは。
口が裂けても伝えられない事実である。

「最初はそう思ってた……今もちょっと事件に巻き込まれていて、大変は大変なんだけど。譲れない部分も出来たから」
喋りながらマグナの脳裏に浮かぶ仲間達。

アメルと知り合うきっかけになった、頼りになる冒険者フォルテとケイナ。
悲劇に見舞われながら笑顔を忘れないアメルとロッカ。
派閥のこだわりを綺麗に消してくれた、金の派閥の召喚師・ミニス。

ファナンで困っている自分達を助けてくれた拳法家のモーリンと、侍のカザミネ。

禁忌の森を監視し続ける一族の召喚師・ルウ。
森での危機を救ってくれたエルゴの守護者・カイナ。
砦で出会った、はぐれのレナードに砦の陥落とトライドラの崩壊から立ち直った騎士シャムロック。

夕刻、バイト料がと泣きついてきたパッフェルも。

皆、大切なマグナの仲間だ。

「あっという間に仲間も増えて、結構楽しいよ。仲間に加わった理由はそれぞれ違うけど、家族みたいな感じがする」

マグナを成り上がりとしてではなく。
お荷物としてでもなく。

マグナ、一個人として受け止め接してくれる仲間達。

蒼の派閥に居たなら一生知りえなかっただろう温もり。
初めて得た温もりにマグナは癒されている。

「俺って妹と二人っきりだったから、あ、兄貴分は居たけど。ネスは厳しいしさ。沢山兄弟が出来たみたいで毎日が楽しい。今迄が嘘みたいに楽しいんだ」

楽しい毎日を送れば送る程、マグナの胸に突き刺さった棘が存在感を増す。

己の無力さを嘆く声と。
森で遭遇した悪魔が言った単語。
日増しに湿度を増していくネスティの不審な態度と。

攻撃の激しさを増す黒の旅団。
黒の旅団と繋がりのある怪しい召喚師。
陰謀渦巻く己達の周囲に戦慄さえ覚える。

胸を過ぎる痛みを無視してマグナは笑う。

「マグナの毎日が楽しいのは良く分かった。でも」
不自然なマグナの笑みに は口先を尖らせた。

これがマグナなりの強がりなら、 も黙って見逃しただろう。
マグナのは強がりなどではない。
負の感情と正の感情。
両側に大きく揺れながらバランスを保つ危うい心。
隠す為の笑顔だから。

「心配事だってゼロではないでしょう? わたしに教えてとは言わないけど、一人で溜め込むのは駄目」

 めっ!

擬音がつきそうな顔つきでマグナを見上げ、叱る の真剣な眼差し。
思わず母親に叱られた気分になってマグナは身体を小さくした。

「(こくこく)」
と一緒になってハサハもマグナの抱え込みをちゃっかり非難する。

護衛獣の裏切り? にマグナは孤立無援。
乾いた笑みを浮かべる。

「心の中の秘密まで曝け出す必要なんてない。でも時には身近な誰かを頼って欲しいの。でなければマグナの心が破裂してしまう」
「おにいちゃんはひとりじゃない。ハサハも、みんなもいるよ? たすけるよ?」
→ハサハの順に繰り出される口撃にマグナはタジタジだ。

言われている事が図星を射抜いているだけに反論も出来ない。

 あうううぅ……。当たってるかもしれない。

胸中だけで呻いてマグナは項垂れる。

「……困っているのに直ぐ黙り込むんだから。心配をかけさせたくないマグナの気持も分らなくはないけれど、そこが凄く心配」
呆れ半分で はマグナに囁き、とある屋台で立ち止まった。

見慣れない鉱石が所狭しと並ぶ装飾品を販売する屋台。
足を止めた の姿に売り子の女性は瞳を輝かせた。

「いらっしゃいませv 珍しい品が揃ってますよ♪」
美少女とその恋人らしき少年の二人連れ。
ハサハは屋台の高さに隠れて売り子の女性からは姿が見えないで居る。

揉み手をする女性に は愛想笑いを返す。
マグナは見たことのない輝きを放つ宝石や鉱石を物珍しそうに眺めていた。

「こちらは今好評のカップルで着けるピアスなんです。彼女さんもピアスしてるようですし、ここは一つ如何ですか? 彼氏さん」

 狙った獲物は逃さない。

言いたげに瞳を光らせ女性はマグナの鼻先へ商品を押し付ける。

「か、かかかか、彼女!? しかも俺が彼氏ぃ!?」
マグナは裏返った奇声を発し、きっちり五歩分屋台から遠ざかった。
「ふふふふ」
初々しいマグナの反応が可笑しく、 は否定も肯定もせず笑い声を立てる。

ハサハは眉間の皺を深くして頬を膨らませた。
手にしたハサハの水晶が怪しく光り照準をマグナへと定める。

「あら〜、違うんですか……」
ビロードのような布の台座に鎮座するピアス。
手元に引っ込めて、女性は残念そうに言った。

醸し出す雰囲気はそうだったのに、どうやら読み違えたようである。
落胆する女性を他所にマグナは両手を動かして何かを必死に弁明していた。

「彼とわたしは友達なの」
頭から湯気を噴き出しそうなマグナを見かね、漸く が助け舟を出す。

の発言に何度か頷いて見せた女性は腕組みして思案顔。
祭りの浮かれた空気に乗じて何かを買って貰いたく、次なる商品を勧めたいのだ。

 シルターンの気配を感じる赤い玉(ぎょく)に、ロレイラルの力を感じる黒い鉱石。
 様々な商品が揃えられていて興味深いな。
 キール兄上やトウヤ兄上、クラレット姉上が見たらさぞや喜ぶだろうに。
 この様な状況下でなければ兄上達を呼び寄せられたものを。

ハサハの水晶が稲妻を帯び、慌てて謝るマグナの声。
をバックに、 は並べられた商品を物色しながら兄姉へ想いを馳せる。

「(ぐいぐい)」
物思いに耽る女性・
そんな のワンピースの裾を激しくハサハは引っ張った。
「どうしたの? ハサ」
目線を下方に向け が口を開いた瞬間。
考えても居なかった人物が驚愕に目を見開き、同じく驚愕するマグナと対峙しているではないか。

 イ、イオス!?
 何故、私服姿でファナンの祭りを楽しんでおるのだ!?

だって驚いた。

黒の旅団も人の集まりである。
無論、彼等にも息抜きをする権利はあり、娯楽だって楽しんでも構わない。

場所さえ考慮して貰えば、だ。

 ルヴァイド!!!
 お主何を考えておるのだ!
 ええい、ゼルフィルドも着いておりながら!!
 どうしてイオスの『ぶらり祭り楽しみ旅』を許可したのだ!!!

腹の煮えたぎる怒りを懸命に押し隠し、 は唇を真一文字に結ぶ。

黒っぽいロングコートではなく、深緑色の膝丈の長い上着と同じ色のズボン。
軍人らしくない服装をして紙袋を両手に抱えたイオスは、マグナと見詰め合ったまま硬直中である。

「致し方あるまい」
は口内で呟いた。

埒が明かない。
付け加えるなら、ここでマグナとイオスが戦うのは祭りの見物人に迷惑が掛かる。
引いては注目を浴び、ネスティ達にイオスの存在がバレようものなら。
騒ぎどころではなくなり、確実に不味い展開が繰り広げられるだろう。

「これを貰うわ」
は言って、マグナとイオスの見詰め合いに驚く女性の注意を引く。
商品を選んでいる時間などなく先程女性が勧めてきた『カップルで持つピアス』を指差す。
「え!? あの??」
マグナ達から視線を へ戻し、女性は目を丸くする。
「ソレを入れる布袋があれば二つ頂戴」
付け入る隙は与えない。
金貨を数え屋台の空いている部分へ乗せ、 は女性に要求した。

女性はマグナ達を気にしながらも、商品を買うと言った の要求通りピアスと布袋を取り出す。

「有難う、お釣はいらないわ」
女性の差し出したピアスと布袋を乱暴に奪い取り、代わりに はピアスの値段よりも多い金貨を屋台の台の上に落とした。
「ま、毎度有難う御座います」
女性はどもりながら感謝の気持を込めて へ言葉を送る。
「そう思うのなら、この光景は他言無用だ。良いな?」
多少の威嚇が込められた蒼い瞳が眼光を鋭くして女性を見据えた。
条件反射で女性が首を何度も縦に振れば、 は表情を和らげふっと笑う。

「感謝するぞ」
小首を傾げて女性に礼を言い、 は商品をポーチへ仕舞う。
それからハサハの手を握ってマグナの元へ駆け寄っていく。
女性はそんな の背中を呆然と見送った。


「マグナの知り合い?」
マグナの隣に立ち、 は確信犯でマグナに尋ねる。

マグナとイオスの注意が へと逸れ、同時に場を支配していた奇妙な緊張も消えた。




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 書きたい事を詰め込むと大変なことになりますね。3への大いなる伏線(笑)ブラウザバックプリーズ