『まだ見ぬ故郷1』



何故かファナンに集っている正体不明連中。

「いや〜v 助かっちゃいますぅ〜♪」
自称アルバイター。
パッフェルがニコニコ顔で、厨房内のリューグへ声をかけた。
「……(怒)」
ショートケーキの仕上げ。
綺麗に洗われて、ゼラチンでコーティングされた苺を載せていくリューグの額には青筋が浮かぶ。

「怒らないで下さいよ、皆さんでバイトして武器代を稼ぐって。うちの二号店を頼ってくれたんですから! 働からざる者食うべからず、ですよぉ」
眉根を寄せ、表向きは困った顔で笑うパッフェル。

その態度、言動。
何処をどうとっても正体不明の怪しい女。

リューグの目にはそう映る。


とカノンは配達と受付。
らしいのだが、厨房に押し込められたリューグには確かめる術がない。

ガウムは店のマスコットとして客寄せに多大なる貢献をしているようだ。
鳴き声と、黄色い声をあげはしゃぐ女の声が店先から聞こえてくる。

「うちのお店、バイト料は良いですから。頑張りましょう!」
リューグを誤魔化せと から袖の下を貰ったパッフェル。
白々しい台詞を口に出しながら、一人拳を天井へと振り上げたのだった。




その頃。
はカノンと金の派閥本部へ殴り込み、基、話し合いをするべく。
イムランの紹介状を片手に議長のファミィと対面していた。

「あら、まぁ、可愛らしい」
頬に手をあて とカノンを見詰めるファミィの視線。

本心で思っているのか、半分本音で意図する部分は別にあるのか。
判断するに難しい。

「要らぬ腹の探りあいは我の性に合わぬ。それが汝の地なら構わぬが」
ファミィの仕事机。
イムランの紹介状を投げ捨て、 は言うべき部分を最初に告げた。

「あらあら、ごめんなさいね? わたしにも娘がいるものですから、あ、ミニスちゃんはご存知よね? つい、子供扱いしちゃって」
気を悪くした様子は微塵もみせない。
イムランの手紙の封を開け、中身に目を通しながらファミィは へ謝った。
ちゃんに、カノンくんね? サイジェントでは危ないところを色々助けてもらったようで。改めて感謝しますわ」
ほんわりオーラを出してファミィが言う。
「お互い様だろう? 過去の遺恨は水に流して欲しい」
ファミィの煽てには乗らない。
は澄まし顔で言葉を返した。

「用件は他でもない。汝の娘が行動を共にしている蒼の派閥の召喚師の一団の事だ。聖女を狙って地道に頑張っておるデグレアの軍隊。黒の旅団は存じておるな?」
勧められた長椅子に座り は真っ直ぐにファミィを見据えて直球。

一年前に散々見ていた の勇姿にカノンは知らずと微笑をたたえてしまう。

「ええ、ファナンにもちらほら。姿を見せているようですわ」
ファミィもイムランの手紙を読み、素直に現状を把握していると認める。

異界の神とはいえ、あの魔王召喚儀式を容易く収めた中心人物。
本気になればどれだけ恐ろしいか。
ファミィ自身が感じる の膨大な魔力。

底なしかと疑ってしまうほどの魔力は、脅威でもあり頼もしくもあった。

金の派閥にとって、ヒトにとって。
彼女がどれだけの存在なのか見極めなければならない。
職業病も相俟ってファミィはついつい を観察してしまう。

「目的は何か分らぬが、軍事都市の軍隊が考える事だ。その目的が聖王国にとって有益でないのは確かであろう」
理知的に、客観的に自体を見極めている

当事者の娘より遥かに事の重大性を理解しているのかもしれない。
だからこそこうして、紹介状を携えて己に会いに来たのかもしれない。

自身が知る霊界サプレスの上位の存在とはまた違う現実派。
毛色の違う神に興味を惹かれるファミィである。

「同感ですわ。あまり良い考えがあるとは思えませんね」
に同意してファミィは窓の外へ目を遣った。

「事実、対デグレア用の都市として名を馳せる、トライドラの砦。スルゼン砦が襲撃されたようですから。どなたの仕業か、まだ確証はありません。ですが恐らくは」

派閥としては軽々しく動けない。
巨大な組織となればなった分、動きは鈍るものだし。
何より他派閥・蒼の派閥との折り合いもある。

「唯一の救いは、娘を通してマグナくんとトリスちゃんに知り合えた事でしょうか」
暗く流れそうな会話を引き締める。
意味合いを込め、ファミィが茶化して言えば は呆れた顔で小さく笑った。

ファミィの気遣いを正しく理解した顔で。

「交流するなり、可愛がるなり。好きにするがよい。彼等に不利にならないのなら、どう動こうが汝の自由。
所でファミィよ、我には疑問点が一つある。黒の旅団が『聖女を鍵として手に入れる力』の情報をどこから手に入れたか、だ」

長椅子の肘掛部分を指先でトントン叩き、鋭い指摘を はファミィへ飛ばす。

「そうですねぇ、武器関係なら鍛冶屋ですし、武力なら兵士を鍛えれば宜しいですし。基本的にデグレアは召喚師には冷たいとも聞いています。
軍人が一人の女の子を追い掛け回すのには矛盾があるように感じますけど……、裏で手を引いているどなたかが、いらっしゃるんでしょう」

ファミィはにっこり笑顔で不穏な問題点を口に出す。

「禁忌の森、なる存在はこの付近にあるか?」
唐突な話題転換。
の真意が分らずファミィは何度か瞬きをした。

「さぁ……どうでしょう? 森の場所までは不確かですが、森に関する伝承なら。豊穣の天使アルミネス。大悪魔メルギトスと戦い、リィンバウムを護った天使の伝説が」
が片眉を持ち上げ、ファミィに説明の追加を求める。
無言の訴えを察してファミィは説明を始めた。

「その昔、リィンバウムが魔力満ち豊かであった頃。様々な異界の侵略者がリィンバウムの覇権を巡って攻めて来ました。
中でも大悪魔・メルギトスは大軍勢を率いてリィンバウムへやって来たのです。そして豊穣の天使アルミネがその身を犠牲にしてメルギトスからこの世界を救ったと言われています。
絵本になるほどの古い伝承です。
噂によると、そこは森だったとかそうでなかったとか。本来こう云った伝承に詳しいのは蒼の派閥。お知り合いが居るなら、確かめてみると良いかもしれません」

「……成る程、参考になった。ファミィ、時間を取らせてすまなかったな」
無言で成り行きを見守るカノンへ目配せし、 は椅子から立ち上がった。

ファミィの人柄を知りファナンは余程がない限りは安心だと認識する。

となると、当然心配するべきはアメルの故郷探しに躍起になっている彼等だ。
別れの挨拶をする にファミィが突然真顔になって、こう尋ねた。

「そこまで骨身を削って、リィンバウムを救う事にどれだけの益がありますか?」
の感情を読み違えまいと、ファミィは瞬きもせずに を見据える。


酔狂だ。
誓約に縛られているわけでもない。

まして、娘や、その友達の蒼の派閥の新米召喚師に頼まれたわけでもないだろう。

なのにここまでリィンバウムを、ヒトを助けようとするのか?

表現は悪いが物好きにも見える。

「……金の派閥とは考えが違うが。我にとっての家族がこの世界に存在し、我にとっての友が住む世界だ。
我の助力で世界の均衡が保たれるならば、骨身を惜しんでも働こうぞ」

苦にはならない。

は言外に言い捨てて扉へ手を掛ける。
扉に手を掛けた格好で、 は上半身だけを捻った。

「金で買える物は遥かに多い。金銭的余裕は人を豊かにする。しかしながら我は人ではなく、違う存在だ。
我が尤も心地良いと思う『居場所』が荒らされようとしているのだ。我は笑って見過ごせるほど寛容ではない」
悪戯っぽく笑って はファミィへ軽く会釈をした。

「ごめんなさいね……失礼だとは思ったけど、貴女を試してしまいました」
ファミィはしおらしい態度で へ再度謝る。

単純で身勝手な の行動理由。
でも誰よりも自分にとって何が一番大切か分っている者の答え。

乱暴に殴り書かれていたキムランの単語の意味、よく分かった気がするファミィ。


 不器用で尊大で、しょっちゅう腹が立つ暴言を吐くが。
 こんなに優しい神様はお目にかかった事がない。
 姐御、穿った見方をしないでやってくれ。


キムランの一筆に感謝しながら、ファミィは口を開く。
「こんなに優しい神様を見捨てたら、娘に恨まれてしまいますわ。出来る範囲で協力は致します。困った事があったら是非、こちらに寄ってくださいな」
ファミィは小首を傾げて の反応を窺った。

「有難い、困った事があったならば相談に乗って貰おう。……ファミィ、一つだけ汝の認識を訂正しておいてはくれまいか?」
はファミィの言葉が少し間違っているので、立ち話を無作法だと考えつつも。
再度椅子に座るほどでもないので、そのまま口を開く。

「何を、でしょう?」
失言でも口にしてしまったのか?
少しドキドキしながら、表面上は顔色一つ変えずにファミィは問い返した。

「我は優しいのではない。只のお節介焼きだ」
不敵な笑みをファミィの脳裏へ残し は去って行く。

「あらあら……一本取られてしまったかしら」
外見は幼い神の堅実的な返答。

好ましく感じながら、矢張り表向きでは困った顔で笑いファミィは再度キムランの殴り書きへ目を落とし。
その文字列を指先でなぞった。




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 主人公はキムランとは花園仲間なので仲が良い。余談ですけどイムランとは未だに仲が悪いです。ブラウザバックプリーズ