『超えた先の物語1』



二人を欠いたものの、メルギトスに勝利した事実には変わりなく。
マグナ達は蒼の派閥・金の派閥双方から称えられ、国からは褒美の言葉を頂戴した。

「拙者は再び旅に出る出御座る」
元々剣を極める旅の途中の参戦。
カザミネは本来の目的を果たすべく、旅装束を調えギブソン・ミモザ邸の玄関で仲間達へ別れの言葉を交わしていた。

「うむ、気をつけてな」
「てかさ。路頭に迷うなよ〜、カザミネ」
結界の張られたギブソン・ミモザ邸。
本来の姿の が微笑み、その背後にべったりくっついたハヤトがカザミネを茶化す。
茶化しつつ「これは餞別な」なんて。
多めのバーム入り金貨袋をカザミネに投げつけた。

「忝い」
仲間からの厚意は有り難く受け取る。
カザミネは不器用に片目を瞑って、それから後ろを振り返らずにあてのない旅へ向かって行った。

カイナ・エルジン・エスガルドは源罪の影響がないかを調べるべく既に旅立っている。
カイナとケイナの間で何が話し合われたかは不明だ。
それでも巫女の姉妹は互いの立場を尊重し、一先ずは別の道を歩むと決めたらしかった。

「次はミニスとモーリンとユエルだね」
屋敷奥から出てきた面々と一緒に出てきたトウヤが、 とハヤトに笑いかける。

「またサイジェントに遊びに行くからね! ユエルも、モーリンも連れて行くから」
ペンダントからシルヴァーナを呼び出して旅立ちの用意は万端。
ミニスがニカッと笑って とハヤト、トウヤへ手を振った。

シルヴァーナの咆哮とモーリン・ユエルの別れを告げる声が見る間に遠ざかる。
豆粒になる彼女達へ手を振り続けたハヤトは、トウヤへ気になっていた話題を持ち出した。

「さて……と。トウヤ、それで例の団体の立ち上げはどうなったんだ?」

故郷を滅ぼされたルヴァイド、帰る場所を失ったイオス、矢張り守っていた場所を失ったシャムロック。
騎士組は互いに相談し合い、検討に検討を重ねた結果ある一つの団体を立ち上げるに至った。

「自由騎士団の創設だろ? フォルテの後押しでなんだか上手くいったいみたいだ。シャムロックは領主の地位よりも、騎士の育成に力を入れたいらしいからね」
ミモザから事情を聞いていたトウヤがハヤトと に答えた。

合併されたデグレア・トライドラ。
領主に推されたシャムロックは辞退して、巡りの大樹という名の自由騎士団を作ろうとしていた。
家系に囚われず、志を共にするなら誰でも受け入れてもらえる騎士団である。

「ルヴァイドもイオスも乗り気でおったしな。よかった」
がにっこり笑えばつられてハヤト・トウヤも笑顔になった。

騎士組の育った複雑な環境と状況。それから騎士という職業自体を取り巻く保守的な思考。
打ち破りたいと願う彼等の努力が実るのは仲間として嬉しい。

「ああ、そうだね。なんだか知らないけどルウも召喚師として招かれてるよ。それからレナードも暫くは騎士団と一緒に居るって。
魔力を上げる修行をする為にサイジェントへ誘ったんだけど……」

トウヤが続ければ、ハヤトと は何度か瞬きをする。

「どこでも修行が出来るなら、厄介に巻き込まれた時にもうちょっと色々出来るように世界を見て回るって。凄いよね、地球に一番帰りたいのはレナードさんなのにさ」

こう締め括ってトウヤは微苦笑を浮かべた。

「まあ良い。レナードなりに落ち着きたいのだろう、我等と一緒であると恨み辛みが出てしまうかもしれぬと。考えておるかも知れぬし」
「そうだよなぁ。俺なんか直ぐ地球へ帰れるし……うう〜、罪悪感」
とハヤトの返答に「そうかもしれないね」と。
短く返事を返し、トウヤは屋敷内部に とハヤトを誘う。

サイジェントに既に帰っているセルボルトの兄妹と、シオン。

誰も居ない屋敷で寛ぐ……ではなく、レルムの村の彼等には真実を伝えるという仕事が待っているのだ。

アメルを護ろうとしたのに護れなかった。

アグラバイン・ロッカ・リューグの焦燥は激しく、その様子を見るにつれマグナとトリスが落ち込み。

予想済みとはいえ、レルムの村の住人達の落胆は周囲に暗い影を落としていた。
戦いが終結して二週間もたつのに、彼等に笑顔が戻る気配はない。



「で事情は飲み込めたか?」
が居間へ入るなりそう言ってアグラバインとロッカ・リューグ。
愕然とする彼等三人の顔を順に見る。

ギブソンから説明を受けていたアグラバイン達は絶句。
最終決戦の場から既に先まで見越した に畏怖すら感じていた。

「敵を騙すには先ず味方から、と申してな。本当にかつての生活を取り戻したいのなら、権力に胡坐をかく面々に灸を据えてやる必要がある。
我の独断のお節介だが、功を奏しておるであろう」

ニンマリ。

目を弧にして笑う に文句も言えない。

ロッカはグッタリしてソファーへ沈み、アグラバインは身体の緊張が一気に抜け呆然。
リューグは何も言いたくないとそっぽを向き盛大にため息をついた。

「ごめんね、アグラお爺さん、ロッカ、リューグ。わたしね、アメルを見てて思ったの。確かに聖女としてレルムの村の為に我慢してたアメルは凄いと思う。
でも……本当のアメルはアグラお爺さんの孫で、ロッカとリューグを兄代わりに育ったただの女の子なの。
天使アルミネの生まれ変わりなんかじゃない、ただの女の子なんだよ」

項垂れていたトリスが初めて口を開いた。

「だからアメルを利用しようとする人達を許せないって思う。わたしみたいに、蒼の派閥の召喚師でもないし、アメルも自分が有名になるのは望んでないと感じたから。
だからサイジェント行きを勧めたの……ゴメンナサイ」

トリスは口早に言って上目遣いに三人の顔色を伺う。

「アメルが無事だと分かっただけで良いさ。時期が来たら戻ってくるんだろう?」
苦笑いのアグラバイン。
彼なりの了承の台詞にトリスは顔を輝かせ、何度も首を縦に振る。

はハヤトとトウヤの間に挟まれソファーへ座り、兄の顔を交互に見て心底安心した笑みを浮かべた。
なりにアグラバイン達の不興を買わないか、そこそこは心配していたのである。

「俺達はサイジェントへ行って来ます。表向きは に誘われてって事で、本来はアメルとネスと一緒に過ごす為に」

一回り、いや二回り大きく成長したマグナがアグラバインへ説明する。

「一年後。聖なる大樹の下で復活したアメルとネスに会いに来てください。更に一年経ったら派閥へ報告するつもりです」
「あら、マグナ。二年も二人を隠しておくの?」
マグナが言うと、ミモザが頬に手を当て小首を傾げた。

最初、ネスティが樹になったと聞いた時には不覚にも涙してしまったミモザ。

それが のした悪戯だと知って、思わず を着せ替え人形にして遊び憂さを晴らした、相変わらず強引な幻獣界の女王様である。

彼女は着実に我が道をズンズン歩んでいた。

「少しは反省して欲しいんだ。俺達の先祖がした事も褒められたもんじゃないけど、派閥も王家も似たような事してるし。
ルヴァイドや、イオス、シャムロック。騎士の皆が味わった苦汁を理解して欲しいし、ネスやアメルがどれだけ苦しんだかも……察して欲しい。だから二年くらい」

マグナが生真面目に応じれば、ミモザはまじまじマグナの顔を眺め。
少し嬉しそうな寂しそうな笑みを湛えた。

「そっか……マグナもトリスも。この場に居ないネスティも。この戦いですっかりオトナになっちゃって。寂しいような、嬉しいような。複雑よねぇ」
「喜んでおくべきじゃないのか? ミモザ」
紅茶のお代わりを淹れていたギブソンがやや呆れた口調でミモザを咎める。

「あらギブソン。マグナ達をからかえなくなると思ったら、残念じゃない?」
ミモザは片眉を持ち上げ腕組みしてギブソンへ挑発的な視線を送る。

「ならば余裕があるならサイジェントへも来るが良い。いつでも歓迎するぞ」
ミモザとギブソンが派閥の仕事で忙しいのを知っていての の台詞。
澄まし顔で誘いの言葉を口にする に、ミモザとギブソンは曖昧に笑った。

「そうそう。ギブソンのレヴァティーンでひとっ飛びだろ」
指先で何かが飛ぶ仕草をしてハヤトが呑気に提案して。

「あれは……目立つんじゃないのか?」
トウヤが在る意味その問題以前のボケをかます。

はぐれ召喚獣でエルゴの王。
とてつもない肩書きを持つのに彼等は自然体で自分らしくて、強くて。

マグナとトリスは取り戻した? 押し付けられたクレスメントの家名を、無理せず背負おうとアイコンタクトだけで改めて誓い合う。

レルムの村へ戻ってアメルを待つと言ってくれたアグラバイン達。
彼等を見送ってから はマグナ達を伴ってサイジェントへ帰って行った。

「あぁ〜あ! もーちょっとマグナで遊べると思ったのに」
一気に人口が減った屋敷。
久しぶりの静寂を愉しみながら、ミモザが余り残念そうでもない様子でぼやく。

「暇が出来たら何時でも会えるさ」
報告書の束を抱えたギブソンが励ましになっていない、フォローをミモザに入れる。

「そうね……早く暇にしましょうね。この一年と最近は忙しかったし」
こうなったら師匠のグラムスでも脅すか。
算段をつけながらミモザはひとりごちた。



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 ってなわけでゼラムの問題はこれで解決? 主人公いよいよサイジェントに帰還します。ブラウザバックプリーズ