『彼女の決意3』




運動の後の爽やかな一服?

持参した水筒から水を飲み、喉を潤す の寛ぐ場所は先程の休憩所。

段差になった石造りの椅子に腰掛けたリューグもカノンから水筒を貰って休憩中。
足元に転がるのは見るも無残な野盗達。
数十分前までは 達の身包み剥ごうと息巻いていた連中だ。

「結構呆気なかったですね〜」
足先で容赦なく野盗の剣を蹴って休憩所の下へ転がし、カノンが朗らかに言う。
「キュッ、キュキュ、キュゥ〜」
ガウムも伸縮自在の身体を伸ばし伸ばし、勝利の舞? 披露中。

は眺めてのほほんと笑いつつ野盗の懐を漁り金貨だけを奪う。

「所持品には手を出すな? いかに悪党と申せど、身に着けている品の中にはかけがえのないものもあろう。それまで剥いでいくのは無粋だ」
リューグが物珍しそうに転がった誰かのペンダントを見据えていて。
それに気付いた が軽い喋り口で釘を指す。

「ああ、そうだな」
態度は悪い、口も悪いがそれは不器用だから。
リューグは 達に対する壁を崩しつつあり、リューグにしては珍しく穏やかに相槌を打った。

「装備品を整えなければあの黒の旅団に囲まれた時不便ですし。リューグさんは鬼属性の召喚術と相性が良いので、ボクが多少の手解きをしますね」
カノンが未契約の赤いサモナイト石を掲げてみせる。

驚いて瞬きをしたリューグにガウムが近寄って何かを訴えるように鳴く。

「戦いの一つの手段として用いるべきだろう? 我は召喚師見習いだからな?」
ちょっぴり得意そうに胸を張る と、納得したリューグ。

白目を向き口から泡を吹いた野盗さえいなければ長閑な光景だ。
頭上高く上っていく太陽と綿雲が上昇気流に流され動く平和な風景。
全員がまったりしていれば、その空気を打ち破るものが一つ。

 ひゅんっ。

風を切る棒切れ。
リューグの座っている真横に突き刺さる、弓矢。

「なっ……なな、なん……」

 奇襲か!?

どもりながら意味不明瞭な言葉を発し、腰を浮かすリューグ。
カノンは一瞬だけ驚いて感情を直ぐに殺し。
ガウムは弓矢の匂いを嗅いでから へ鳴き注意を引いた。

弓矢へ目を向けた は満足そうに微笑む。

「マグナ達の動向を調べておる仲間からの連絡だ。一度やってもらって欲しくて、弓矢に文をつけた形にしてもらったのだ」
ウキウキした足取りで弓矢に近づき、弓矢に結び付けられている手紙を取り外す。
の酷く楽しそうな姿にリューグは顔を引き攣らせた。

「普通に……会って話を聞けばいーだろうが」
心臓に悪い情報伝達。
バクバクと激しくリズムを刻む心臓を右手で押さえ、リューグは呻き文句を口にする。

「次回からは普通に会って話をする。一度やってみたかったのだと申したであろう?」
リューグの文句など意に介さない。
平然と言い切った と、肩を落とすリューグ。
「慣れれば楽しめますよ、今みたいなものも」
慰めているのか、リューグの肩を軽く叩いてカノンが朗らかに告げる。
「……」

 絶対に慣れねぇよ。

なんて、とてもじゃないが言い出しにくい。
奥歯に物が挟まった気分でリューグは曖昧に頷いた。




迎えるはその日の夜。
真夜中。

月明かりだけが頼りの頼りない街道手前。
仮眠をとってすっかり身体の疲れも取れたリューグは、何故かギブソンやミモザと共に居る。
「ほらほら、辛気臭い顔しないの〜。 の合図を見逃さないようにね、ボク」
笑顔を浮かべていても、何処か周囲を警戒しているミモザ。
眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ周囲の気配を窺う。
「マグナ達が何処へ行くかは分らないけど、手助けは必要だろうからね」
杖を掲げてギブソンが悪戯っぽく笑ってみせる。

リューグの緊張を解そうとしての発言だ。

気遣いが分ってリューグはぎこちなく笑う。
少し先の街道ではマグナ達が戦っている気配がしていた。

タイミングを計って飛び出すべく、今は我慢。
アメルの悲鳴が聞えても懸命に堪えるリューグである。

「……そろそろ、ね。ボク、もう一度言うけど目的は黒の旅団の足止めよ。解散の合図があったら逃げなさい」
ミモザは表情を引き締め真正面を見据えた。
マグナ達が緊張を緩めた声音で喋り出し、街道を囲むように灯りが出現する。

その時、紫色の光を放つサモナイト石が夜空を彩った。


見守られているとは知らず。
マグナ達は絶体絶命。

イオスを撃破したまでは良かったものの、援軍に追いつかれ四面楚歌。
身動きが取れない。

「くそっ……」
フォルテが盛大に舌打ちして悔しがった時、不思議な霧が流れ始める。
「え!?」
トリスが驚いて周囲を見渡すが、立ち込める霧はトリス達を護るように黒の旅団を惑わす。
困惑するトリスの手を意外にもバルレルが掴み無言で走り出した。
「霧があるうちに逃げなさい」
誰かが自分達を援護してくれている。
視界を掠めるのはギブソンとミモザ。

嬉しいやら悔しいやら、申し訳ないやら。
ざわめき立つ敵を一瞥し、マグナもハサハの手を取って走り出す。

「逃がすかぁ!」
黒騎士の声がするも、誰かの攻撃に阻まれたのか。
金属同士がぶつかる音がして、黒騎士の声もそれっきり途絶える。

「お土産よろしくね〜」
走り去るマグナの背に、ミモザがなんとも悠長な別れの言葉を投げかけ。
改めて目の前の敵と向き合った。

槍を構え額に青筋を浮かべたイオス。
銃を構えてルヴァイドの号令を待つゼルフィルド。
リューグの斧の一撃に仮面を壊されたルヴァイド。

「恨みはないのだが、互いの信じる道が違う以上拳で語り合うのみ」
低い位置で の声がして、ルヴァイドは激しい剣の一撃に押される。
「!? お前は」
「恨みはないんですけど……ボク達にも譲れないものがありますから」
申し訳なさそうに眉根を寄せ、カノンは剣を押し出す力を込めた。

小柄なカノンの外見を裏切る強力。
長身で体躯も軍人として鍛えてきたルヴァイドの剣を受け止め、尚且つ押す。
ギチギチ音を立てる剣と剣。
イオスは驚愕の光景に一瞬だけ動きを止めた。

「甘いぞ?」

 ふわっ。

湿った風がイオスの頬を撫でたかと感じた刹那、 の声がして巨大な竜の大口がイオスの目の前に出現する。

「……なっ……」
槍を片手に今度こそ立ち竦むイオスと、竜の傍らに立ちイオスを見据える

「めいとるぱノ召喚獣げるにかノ反応ヲ確認」
イオスの後方支援に回っていたゼルフィルドが呑気に状況を報告した。

「高温の炎に捲かれ死にたくなくば、引け」
凛とした の声音。
醸し出す雰囲気は王者のもの。

「グルウゥウルゥァアアァアアア」
ゲルニカの口から溢れる煙と、威嚇の咆哮。
とゲルニカに気圧されて黒の旅団一般兵士達は大幅に後退する。

互いに拮抗した力をぶつけあう、ルヴァイドと。
竜に狙いを定められて動けないイオスに、その後方で律儀にルヴァイドの撤退の合図を待つゼルフィルド。
彼等だけが引くに引けず、取り残された格好となった。

「キュキュ〜」
ガウムは素早くゼルフィルドとイオスの間に割って入り、ミモザとギブソンも油断なく杖を構える。
言葉を交わさなくとも互いの補助をし合い戦う。
見事な連係プレイにリューグはポカンと口を開けて見惚れた。

「すげぇ……」

ルヴァイドに復讐する。
その一心で斧を振るっていた己が子供じみている。

彼等はアメルも守り敵も傷つけず彼等の信条を掲げて戦う。

何者にも付け入る隙を与えない絆だけで。

比べて自らの行動のなんと幼い事か。
空から降ってきたにわか雨の様に自分の頭に考えが降ってきて。

リューグは恥ずかしくなった。

リューグの心の移ろいに気付いたミモザが器用に片目を瞑る。

「ふふふ、ボク? これが の持つ力よ。物理的な強さじゃなくて、精神的な強さと器の広さ。それからボケね♪」
は動けないイオスを無視してゼルフィルドに近づき、二三言葉を交わす。
次にゼルフィルドとイオスに何かを手渡して、顎で方角を示しイオスとゼルフィルドを撤退させた。

の持つ優しさが……裏目に出ないといいが……」
互いに剣を収めたカノンとルヴァイド。
見守ってギブソンが悲しそうな顔で呟く。

「優しい!? アイツがか??」
裏返った声でリューグは思わず叫ぶ。

はこれ以上なく優しい。だが、それは心に闇を抱える人間には痛くて仕方ない甘い毒になる。頑なな心を持っていれば持っているほど、 の優しさは痛い」
去って行くルヴァイドを見送る を見詰め、ギブソンがこう零した。



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 こうしてリューグも段々主人公の行動に慣れて?? あ、弓矢を放ったのはシオンさんです。ブラウザバックプリーズ