『傀儡戦争・岬の屋敷2』




古びた屋敷内部に召喚師達の成れの果てが無造作に転がる、岬の屋敷。

「ギブソン達が捜していた召喚師達が、ここで犠牲になったんですね」
手にした投具を構え、カイナが硬い声音で第一声を発した。

眼前には余裕を滲ませるキュラーが立ち、悪鬼を大量に従えて悦に入っている。

「許せないわ。罪も無い人達の心を、身体を、命を弄ぶなんて!」
弓矢を構えるケイナも怒りを滲ませキュラーを睨む。

「心外ですね……わたしは彼等に自身の心の闇を教えて差し上げただけ。抗議を受ける筋合いはありません」

 ニタァ。

理知的に語るキュラーの外見は、誤魔化す必要もないと本来の悪魔の身体だ。

笑うキュラーの残忍さを醸し出す口元にカイナとケイナは揃って眦を吊り上げる。

「誰しも心に闇は持っています……。ですが無理矢理闇への扉を開き、闇に招き入れる行為が許されると思っているのですか。
わたし達であっても、神であっても許される行為ではありません!!」

 シャリン。

カイナの動きにあわせ、彼女が召喚術の媒介とする鈴が涼やかな音色を奏でた。

はカイナの発言を笑顔で肯定。
『シャムロックに道をあけよ』目だけで他のメンバーへ合図を送る。

「不安な心に闇を押し付け、人が苦しむのを笑ってみているなんて。貴方達のドコにそんな権利があると言うの?」
カイナを庇うべく、迫り来る悪鬼へ弓矢を放ちケイナも怒鳴った。

「権利? ならば逆にお尋ねしますが、召喚獣をモノ同然に扱い非道を働く人間が正しいとでも? 彼等は所詮この程度なのですよ」

元は人であった異形の鬼達。
一瞥してキュラーは冷笑を浮かべる。
カイナとケイナの言葉を嘲笑って。

「「人はそこまで腐っては居ない!!」」

 あの迫力はやっぱ姉妹の血の成せる業だな。

後日フォルテにそう謂わしめた、シルターン巫女姉妹の凛とした声が屋敷の地下全体に広がる。

「ならば証明して見せれば良い、出来るものなら」
キュラーが指を姉妹へ向ければ本格的な戦闘が始まった。

キュラーの合図を待って待機していた大量の悪鬼兵がマグナ達へ牙を剥く。
悪意剥き出しの唸り声と奇声を発し、投具や刀を振り上げる。

「うりゃぁ!!」
最前線組みのフォルテが既に接触した悪鬼兵と戦い始める。

刀を愛剣で受け止め、飛んでくる投具に苦戦。
すると本職のシオンが音もなく舞い降り、フォルテのフォローへ入った。

声を交わさなくても通じる連係プレイに はサイジェントの仲間を重ね、無意識に、場違いに微笑む。

「はいっ!」
ロッカもアメルやミニス、ルウを庇いつつ槍を振るう。

出口を確保する為、マグナとハサハ、ネスティは後方支援組み。
パッフェルと一緒に不服そうな顔で出口を守っている。

「行け、シャムロック。汝の上司であった城主の敵だ……憎む気持ちからは何も生まれぬが、あ奴が居(お)る限り悪鬼に憑依された者達の魂は開放されぬ。
せめて汝の手で幕引きをせよ、道は我等が作る」

この悪鬼使いの最後を看取るにふさわしい人物。
シャムロックの腕を叩き、 がシャムロックに行動を促した。

「ですが……」

恨みがないといえば嘘になる。
確かに自分が所属しているのは軍隊ではなく、騎士団でもない。
自由だ。
幾ら自由といっても私怨に囚われて良いものだろうか。

変なところで筋を通すシャムロックは言い淀んだ。

「人としての感情がある以上、復讐したいだろう。あ奴を討つ事で、己に燻る憎しみを清算するのだ。遠慮は要らぬ」
シャムロックの戸惑いなどお構いなし。
は言い捨てると前方で戦っているルヴァイドやイオスを目印に移動を開始した。

当然勝手な行動を取る を放置も出来ず、シャムロックは慌てて彼女の後を追う。

「カザミネ!」
懐から銃を抜き放ち、構えて走り出す が斜め前方で戦っている侍の名を呼ぶ。

「承知」
カザミネは短く応じて、正眼に構えた刀から居合いを放った。

空気の刃となった居合いが の眼前に立つ悪鬼兵の刀を真っ二つ。
折ったところで が素早く銃のトリガーを引く。
瞬き一回する間に行われた鮮やかな攻撃、悪鬼兵は寄り代を失い崩れ落ちた。

「遅れるな、シャムロック!!」
真横から突き出されるカザミネの刀の鞘に足をかけ空中で宙返り。
中国雑技団も真っ青の身の軽さを披露して、宙に舞いながら が立て続けに銃を撃ち放し、惚けるシャムロックへ檄を飛ばす。

「はぁ……」

 自分の出る幕なんてないのでは?

内心疑問を抱き始めるシャムロックだが、 に名指しされている以上引くわけにもいかない。

的確に敵だけを撃破していく の後を必死で追いかけた。
刺しきれなかった悪鬼達のトドメを刺して回りながら。

「ルヴァイド、イオス、アグラバイン!!」

身柄をマグナ達が預かる事で当面の自由が確保された元デグレア組。
アグラバインを筆頭とする軍人組はフォルテと共に最前線で奮闘中。

物理攻撃に強くとも魔法攻撃には弱い。

キュラーが背後から繰り出す召喚術に苦しめられての戦いとなっている。

!?」
アグラバインが斧を片手に相手の投具を弾き返し、飛び込んできた小さな黒い塊に驚きの声を上げた。
は手にした二つの赤いサモナイト石に魔力を込め、召喚術を発動する。

「い出よ!! 鬼願法師!! ひな&シロトト」
放電する数珠を手にした異形の法師と、仙獣に乗った子供が現れた。

法師はシルターンの呪いの言葉を唱え、アグラバイン・ルヴァイド・イオス・シャムロックの身体に青い法力の結界を張り巡らせる。

「これは……成る程、召喚術に対する防御膜か」
キュラーが放っていた魔力の塊の衝撃が薄くなった。実感してルヴァイドが僅かに口元を緩める。

続いて仙獣が、キュラーに威嚇の遠吠えを放ってからその身に蓄えた神力を開放した。
ハサハが宝珠から呼び出す雷を圧縮して、一気に弾けさせる。

そのような光が現れては弾けて消え、周囲の悪鬼兵達の魔力を封印していく。

「行くわよ!!」

 ヒュッン。

仙獣が消え去ったと同時にケイナの弓矢がキュラーの足を貫いた。
予め が囮的に召喚術を行使すると分かっていての行動。

「覚悟なさい!」
続いてカイナが鈴を鳴らし、自らが仕える鬼神を召喚。
魔を絶ち闇を裂く刃を持った鬼神は音もなくキュラーの真上に現れ刀を振り下ろす。

「今だ、シャムロック!!」

 ドカッ。

シルターンの巫女の呼吸の合った攻撃に気を取られていたら、背後に回った に力いっぱい背中を蹴られ。

よろめきながらシャムロックは最前線に立つ。

カイナの鬼神の刀を受けた姿のキュラー。
キュラーを助けようと集まる悪鬼達を、イオスは槍を水平に持ち攻撃を全て受け止め、ルヴァイドも進んでキュラーへ切りかかり。
アグラバインが退路を護る為に一歩引いて と共に援護に回る。

「雑魚がどれほど群れようと無駄な足掻きを」
不敵に呟きキュラーはまず鬼神の刀を退け、歯向かうルヴァイドへ魔力の塊をぶつけた。

悪魔が持つ瘴気を撒き散らしキュラーがシャムロックを見据える。

「……わたしは」

走馬灯のように脳裏を過ぎっては消える、砦の部下や、城主の顔。
助けられなかった命達、でも二度と悲劇を繰り返さないと誓った。

だから迷いは。

「断ち切ります!!」

ケイナの弓が、カイナの召喚術が再びキュラーへ牙を剥く。
ルヴァイドも立ち上がり再度キュラーへ向かっていく。

シャムロックは剣を構え渾身の力を込めてキュラーの胸だけを狙い剣を突きたてた。

「小賢しい真似を!!」
集中攻撃を喰らったキュラーが激昂し、手に集めた魔力でシャムロックの右肩を貫く。

シャムロックはキュラーの攻撃に顔色を変えず、更に力を込めて剣を押し込んだ。
シャムロックがつけた胸の傷口から溢れ出すキュラーの紫色の体液。

「これを使うのだ」
タイミングよく が短剣をシャムロックへ放り投げ、シャムロックはキュラーの腹を蹴って悪魔との距離を取り の短剣を受け止める。

「これで最後だ!! キュラー!!」
仰け反ったキュラーの首を から借りた短剣で真一文字に切る。

醜い断末魔を上げキュラーの身体が崩壊を始めた。

「……とどめよ!!」
勇ましいケイナの声音とキュラーの眉間に突き刺さる弓矢。

周囲に散らばる瘴気は とアメルによって浄化済み。

成す術もなくキュラーは滅び去ったかのように、見えた。
歓声を上げるマグナが倒れ込むまでは。



Created by DreamEditor                       次へ
 キュラー相手なので関連ある人々を前面に出してみました〜。
 シャムロックって地味(フォルテを筆頭として濃い面々には負けるよね、騎士だから)だけどやるときゃやると。
 思うのです。ブラウザバックプリーズ