『傀儡戦争・岬の屋敷1』



蒼の派閥と金の派閥の協力体制の元。
メルギトス率いる悪魔軍との戦いがいよいよ始まる。

蒼の派閥の召喚師として参加するギブソンとミモザはもう居ない。

「しかし考えましたね……傭兵とは」
別行動を取るマグナ達と共に歩きながらシャムロックが感心する。

当初の宣言通り、マグナ達を自由に行動させるため公式の戦争の方へ参加すると言っていた、セルボルト兄妹&名も無き世界の兄ズ。

フォルテの助言とギブソンの配慮から、臨時の傭兵としてゼラムの軍隊の一端に配属された。

「ハヤト兄上やバノッサ兄上は剣術が得意だからな? トウヤ兄上は剣と召喚術が半々。
キール兄上、クラレット姉上、カシス姉上は召喚術のエキスパート。
なに、戦闘が始まれば余裕などない故、多少目立っても素性がバレる事はないだろう」

露ほども兄や姉を心配しておらず、寧ろ自慢げに応じる にシャムロックは思わず苦笑してしまう。

確たる血のつながりが無い兄妹なのに、結束は驚くほど強く強固。
騎士団でさえあそこまで団結できないだろう。
等と、少し羨ましくも妬ましく感じるシャムロックであった。

「カラーコンタクトとカラーリングで目と髪の色まで変えたんだ。あそこまで変装すりゃ、バレやしないだろうさ」

黒髪の面々は、目立つ金色に。
黒い瞳も青いカラーコンタクトで。
バノッサに至っては逆で白い髪を黒く染め、色素の薄い瞳を黒いカラーコンタクトで覆い隠している。

あの光景を思い出し、レナードが唇の端を持ち上げた。

理由は分らないが、修行して魔力が強くなれば地球へ戻れるかもしれない。
実際、普段は地球で暮らしている『ハヤト』という少年が教えてくれたのだ。

希望の端を掴んだレナードは、戦いを終わらせる気満々である。

「それにしても、岬の屋敷なんて今更行く必要があるんでしょうか?」
最初の目的地、岬の屋敷方角へ顔を向けシャムロックは首を捻った。

「シャムロックさんには感じにくいかもしれませんが、悪鬼の気配がするのです。とても沢山の……とても沢山の悪意を持った彼等の気配が屋敷から」
眉間に皺を寄せ歩くカイナが険しい表情のまま、シャムロックへ説明。

「そうなの……わたしも勘を取り戻してきたみたいで、カイナちゃんと同じ感じを受けているわ。とても気分が悪くなるような気配が、屋敷へ集中しているのが分かるのよ」
カイナを擁護するようにケイナも会話に加わる。

「二人は巫女サンだから、他の召喚師よりかは悪鬼の気配に敏感なんだろうよ」
ケイナの隣はフォルテの指定席。
並んで歩くフォルテがなんて事はないように、呑気に推論を発言した。

「フォルテさ……いえ、理屈は分かりますが。それを貴方が言うと説得力に欠けます」

 はぁ。

肩を落とすシャムロックと同意見、ケイナも「そうよねぇ」なんて呟き何度も頷いている。
レナードとは大分しっくりしてきたカイナとケイナの様子が嬉しく思えて。
黙って遣り取りを見守る事にする。

「ケイナ姉さま……そこまで仰らなくても……」
昔から凛々しかった姉だが、最近は逞しくもなってしまってカイナの胸中は複雑だ。

それでもフォルテという良き理解者に出会い、記憶を失った姉が楽しく暮らしていた事は嬉しいと思う。
自分や兄の存在を忘れられてしまったのは悲しいけれど。

「カイナちゃんは分かってくれるのか!! なんていい子なんだ〜」

 がばぁ。

フォルテ流のボディーランゲージ(レナード談)が炸裂、両腕を広げてカイナをハグしようと少々怪しい顔つきでフォルテがカイナに迫る。

「フォルテ!! 妹に軽々しく手を出さないで頂戴!!」
「うぷす」

 ガスッ。

鈍い音がしてフォルテの上半身が仰け反る。
海老反りかと が感心する位仰け反ってからフォルテは腹を押さえる。

「ふふふふ」
カイナは口元へ手を当て噴き出さないよう注意しながら、顔を赤くして笑う。

最初は姉の変貌と暴力に驚き嘆いていた。
でも今は違う。
これがフォルテと姉のコミュニケーションだと理解している。

一見吹き飛ばされているだけのフォルテだって、受身も取らずに姉にぶちのめされるのは……きっとフォルテなりの親愛の情なのだ……と。

姉の選んだ男性の気質を一応好意的に受け止めるカイナであった。

「羨ましいか? カザミネ」

背後を音もなくついてくるカザミネ。
一見ストイックな彼だが色恋沙汰異にもちゃーんと対応できる、少し間の抜けた剣客だ。

背後を振り返らずに が言えば、後ろを歩いていたカザミネは何も無いのにコケた。

「せ、せ、せ」
「御託は良い。しかし随分とカイナに嫌われたようだが、何かあったのか?」
サイジェントでは普通だったのに、何故かカイナはカザミネに近寄ろうとしない。
経緯を知らない は歩調を遅らせカザミネの隣へ移動した。

「拙者は何も……と、申したいところであるが。ケルマ殿を覚えてお出でか?」
カザミネは微かに頬を赤く染め、ゴホンとわざとらしい咳払いを一つ。
してから、徐に金の派閥の女召喚師の名前を出す。

「うむ、ミニスのペンダントを狙っていたウォーデン家の当主であろう? 中々に目に眩しい衣装の。彼女がどうかしたのか?」
耳を劈く高笑いが鼓膜に蘇ってきそうだ。
は眉を顰めカザミネへ答える。

「実はミニス殿とケルマ殿が果し合いをされた時、拙者も居合わせたので御座る。ミニス殿がケルマ殿を『年増』とからかっておったのが見るに耐えず。
年齢を重ねる女性が全て醜くなるわけではないと……そのような趣旨を申したまでは……」

妙齢な女性への最大の口撃だったのだろうが、明らかにミニスの言いすぎである。

感じたカザミネは持ち前の武士道精神からケルマを遠巻きに励ましたのだが。
ベクトルが何故か僅かに逸れ、思わぬ方向へ流れてしまった。

ケルマがカザミネに惚れたのである。

「なんだ、ケルマに励ましで言った言葉を誤解されたか? そう言えば、あの時も『カザミネ様vv』とかなんとか申しておったな? ケルマは」

自分への好意はさっぱり理解していなくても、他人の恋模様は良く見えるのが世の常。

も会得顔でファミィ達がレイムに襲われていた場面を思い出す。
の指摘にカザミネは気まずそうな顔をして苦く笑う。

「武士道は難しいんですね」
自分は騎士道だろうに、シャムロックがしんみりした調子で感想を零した。

「しゃ、しゃ、シャムロック殿!!! 盗み聞きとは……」
目を白黒させてカザミネは驚いた。
との話に心奪われていたら、何故か真横にシャムロックの姿が。
飛び上がりはしないものの、カザミネは心臓を押さえ盛大に驚く。

「いえ。ミニスさんとトリスさんが喋っていたのを偶然聞いたんですよ、祭りの夜の日に。でもカザミネさんの意見は分からなかったので……それに、聞えてましたよ?」
一番最後の言葉は声のトーンを落とし、シャムロックがカザミネと に告げる。

とカザミネの会話にイオスとマグナ、トリスが聞き耳を立て。
ネスティがマグナとトリスを叱り始めていた。

バルレルはニヤニヤ笑っているだけだが、アメルの笑顔に卑下た笑いを表情筋の下へ押し戻す。
ルヴァイドも見かねたのか、イオスに目配せしてイオスの行動を嗜める。

「な、なんと!?」
今度こそ口から心臓が飛び出すかもしれない。
咄嗟に口元を押さえカザミネが押し黙った。

これ以上失言を漏らしてはなるものかと謂わんばかりに。

「大丈夫だ。カイナはフォルテとケイナの夫婦漫才に巻き込まれておる」

馬鹿笑いをするフォルテと、ファイティングポーズを構えるケイナ。
間に挟まれ、困った風を装いながらも心底楽しそうに笑い声を発するカイナ。

顎先で示して は唇の端を持ち上げる。

「良いではないか。好意をもたれるのも汝の性根が真っ直ぐな証拠。目に余る好意ならばそれとなく断れば良い。
それが出来ぬなら汝にそれだけの甲斐性がないだけ、の話だ」

口を押さえて黙り込むカザミネに は更なる追い討ちをかけた。

別段カザミネが嫌いという訳でなく、サイジェントに居た時と同じ気分での軽口。
それはカザミネも分かっているので奇妙な面持ちで唸る。

「手厳しいですね、 さんは」

忌憚がない、表裏がない。
対等の友人として人間と付き合うと公言する の行動の現われ。

好ましい意味合いを込めシャムロックが反応した。

「そうか? 剣の腕を上げるのも侍にとっては必要だと思うが。人間性を高めるのも必要であろう? それは汝等騎士にも当て嵌まるがな。
木偶の坊では女性に好かれぬぞ……フォルテのはやり過ぎだが」

 ゴガァ。

フォルテの顎に決まったケイナの拳。
涙目になりカイナを盾に、ケイナの凶拳から逃れようとするフォルテを誰も助けようとはしない。
夫婦喧嘩は犬も食わない、という奴だ。

揶揄する の物言いにシャムロックも目を細め、眩しい物を見た顔つきで表情を緩める。

「最初はわたしもそう考えましたが……フォルテは、あの方は。あのような生き方が一番あっているのかもしれません。
生まれながらに持った肩書きが当人を必ず幸せにする訳ではない。そういう意味での見本のような気がします」

「成る程、一理あるな。仰々しいフォルテなど想像がつかぬ」
大袈裟に身震いする に今度はシャムロックが声を立てて笑い出す。

確かに今の彼には似合わないモノばかりである。
笑ったシャムロックをフォルテが怪訝そうに見遣った。



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 お察しの通り私はフォルケイ派〜vv あの二人は既に夫婦だと思うの、私だけでしょうか?? ブラウザバックプリーズ