『傀儡戦争・デグレア2』




バルレルの魔力によって引き起こされた竜巻はうねり、明確な意図を持ち屍兵だけを巻き込む。
圧巻の光景をトリスはぼんやり眺めていたが、バルレルの背中を数秒見詰めた後、徐に踵を返す。

「トリス? どうしたの??」
ルウは物陰から飛び出そうとするトリスの手首を掴んだ。

バルレルが暴れるたびに巻き起こる風は、バルレルそのものの気性を如実に示している。
訝しく問いかけるルウにトリスは真顔で答えた。

「今バルが必死で屍兵達を追い払ってくれてる……屍兵はガレアノを倒すまで、きっとわんさか湧いて出てくる筈だから。だからわたしはガレアノを倒す」

自分は水晶に身を守らせ、高見の見物。
ガレアノを顎で示してトリスは同じ場所に避難しているイオスとレナードを見た。

「そうだな、俺がはぐれになる原因を作ったのがアイツだったしな。OK、付き合うぜ」

 ガチャ。

銃をわざと鳴らしてレナードが口角を持ち上げる。

「ああ、あいつ等にデグレアは滅ぼされたんだ。一撃を与える権利くらいはあるだろう」
イオスは風に乱された前髪を乱暴に振り払ってトリスへ応じた。

「……有難う!! 二人とも」

実はトリス密かに悩んでいた。
自分はマグナやネスティ、それに のオマケなんじゃないかと。

勘ぐっていたトリスとしては嬉しい二人の返事。

すると、満面の笑みを浮かべるトリスを背後からルウが羽交い絞め。
ルウの行動にトリスは驚き抵抗すら忘れて動きを止めた。

「ちょっと! ルウだって協力しないとは言ってないでしょう? トリスって案外早とちりするタイプよね……仲間なんだから、遠慮なくガンガン言っちゃいなさいよ」

呆れるくらいお節介で能天気で明るく前向き。
でも、変なところで遠慮する、ちょっと臆病な仲間。

なのに森奥でひっそり暮らしていた自分を気遣う不思議な仲間。

ルウだって不安ゼロでマグナ達と同行していたわけじゃない。
知らない世界へ飛び出す不安は常に付き纏っていたけれど、トリスが、仲間が傍にいたから心強かったのだ。

「ほえ?」
「だーかーらっ!! トリスはルウ達の仲間なのよ? 一人で勝手に抱え込まないの。
そりゃ、身内のネスティやマグナよりかは頼りないかもしれないけど。頼って欲しいの、分かる?」

間の抜けた相槌を返すトリスへ、照れもあってルウは口早に言葉を並べる。

トリスが何度か瞬きをしていると、ため息交じりにレナードがルウの指をトリスから剥しにかかった。

「だからな? 俺達はトリスとは親戚でも何でもねぇ。赤の他人だ。だが、トリスを仲間だと考えてる、でなけりゃ悪魔相手に闘ったりはしないさ」

「仲間に助けて欲しいと頼まれ無視するほど、鈍くないつもりだが?」

「分かってるからバルレルだって必死なんでしょう? トリスに誓約を解けって言うくらいには」

レナード→イオス→ルウの順にやんわりと叱られ、本当なら悲しいのに。
踊り出したいくらい感激してトリスは目尻に涙を溜める。

「あっちにはネスティとアメルとシオンさん。むこうにはアグラお爺さんと、ルヴァイドと ……急がなきゃ」
涙を見て見ぬフリしてくれる三人に感謝し、トリスは自分の杖を強く握り締めた。

この自信のなさに付け込まれ へ召喚術を放ってしまったあの時。
諦めばかりが先立って、抵抗するなど考えもしなかった。
でも今は違う。
これからは違う。

 わたし負けたくない。
 クレスメントも何も関係ないもん。
 これだけ信じてもらってるのに、悩んでるなんてわたしらしくない。
 逃げたくない、負けたくない!!
 ううん、もう逃げたりなんかしない。

いつもなら立場を考えて一番最後を走っていた。
しかしながら今回ばかりは先頭をきって走り出す。
トリスは風圧に吹き飛ばされそうになりながらも両足で踏ん張って立ち、杖を天高く掲げた。

「召喚!! ツヴァイレライ!!」
トリスの杖先から紫色の光が零れる。

遠目に確認した がアグラバインとルヴァイドをせっついて駆け出した。

走りながらガレアノを護る水晶を撃ち砕く。
気付いたシオンも素早く移動して投具で と一緒にガレアノの水晶を崩した。

「いっけ〜!!!」
指示を待つ混沌の騎士へトリスはガレアノへ杖先を向けた。

一角の角を持つ骨の馬に乗った混沌の騎士は両腕の剣を重ねて何度も鳴らし、ガレアノへ二振りの剣を振り下ろす。

「星空の機神!! 応えよ!!」
ネスティはトリスの一撃を察知し、トリスの魔力が向かった先、ガレアノへ更なる一撃を加えた。

続いて飛び出すのが天使の羽を広げ聖なる魔力を撒き散らすアメル。

神々しい美しい輝きにガレアノが苦痛の声を漏らし、そこへすかさずレナードが銃弾を撃つ。
イオスは槍投げの要領でガレアノの浮遊する足を狙って投げた。

「いい、トリス!! 動きはルウ達で封じるからトリスが最後を決めて」
ガレアノの召喚術で負傷するアグラバイン・ルヴァイド。
二人へ天使エルエルを召喚しルウもまたガレアノ目掛け走り出す。

「うん、わたし……やるね」
トリスはルウへ答えてガレアノの目の前に躍り出た。

天使の光を浴び、ネスティの攻撃に曝され、 ・レナード・シオンの遠距離攻撃に傷を負い。
アグラバイン・ルヴァイドの激しい攻撃に耐え佇むガレアノがトリスへ視線を向ける。

「これ以上皆を危ない目に遭わせたりなんてしない!!」
本来攻撃用としては低レベルの部類に入る。

杖を真横に構え、トリスはガレアノの視線を真っ向から受け止めた。

最初に出会ったスルゼン砦では怖くて訳がわからなくて、兄とネスティとバルレルの影に隠れていた。

「ふん、召喚師一人で何が出来る」

勢い込んで飛び出してくる人影。
誰かと思えば常に背後で戦っていた調律者の片割れではないか。

トリスの行動を鼻で笑ってガレアノが見下した口調で挑発する。

「一人じゃない、皆が居る! わたしは一人じゃないから強くなれる!!」

怪我をするのは怖い。
痛い思いをするのも嫌だ。
マグナとは違って非力な己は前線には出れない。

そうやって言い訳して逃げてきた。

でもそれは今日でお終いだ。

気色ばみ言い返したトリスへガレアノの逞しい腕が伸びる。
トリスは杖で悪魔の腕による一撃を避け歯を食いしばった。

「はっ、所詮は三流だな。召喚獣が三流なら主も三流か」

 バスッ。

的確に狙って撃ってくれる の援護でガレアノはトリスの杖から手を離す。
頭上で暴れるバルレルの気配を感じながらガレアノがひとりごちた。

「バルは、バルレルは! わたしの大事な相棒なの!! バカにするのは許せない」
「言いたい事はそれだけか? 俺が自らお前を屍兵にしてやるわ」
ガレアノも蟻が群がるようなトリス達の攻撃に辟易していた。

こんな稚拙な攻撃にキュラーやビーニャが倒されたとしたのなら、彼等も三流だったのだろう。
内心ほくそえみながら本来の悪魔の肉体に宿る魔力を高め、目の前の哀れな生贄へ手を伸ばす。

「させ……」
止めに入ったルヴァイドを魔力で弾き飛ばし、同じく切りかかるアグラバインも魔力で弾く。

ひ弱なひ弱な人間。
ルヴァイドとアグラバインは起き上がる間もなく屍兵に貫かれ、大量の血を流す。
援護に向かう聖女と を横目にガレアノはトリスを殺すべく腕を伸ばした。

「こっちに居るのも忘れないで欲しいな、ほら、忘れモンだ」

 バスバスバス。

ロレイラルのものと、造りがそっくりなレナードの銃が煙を吹きガレアノが上半身を仰け反らせる。

「させないわ」
ルウはガレアノが召喚しようと掲げたサモナイト石目掛け、無属性魔法ダークブリンガーを差し向けた。
黒く輝く無数の剣がガレアノの手中に納まるサモナイト石を粉砕する。

「無碍に踏みにじられた者達の怒り、その身に少しは味わえ!!」
バルレルが取り落とした槍を拾い、イオスがトリスの背後から浮遊するガレアノの目を狙って槍先を煌かせ傷つける。
立て続けの連続攻撃に流石のガレアノも対処できず、目を潰されて悶絶した。

「……これで最後よ!!」
これ以上は絶対に出せないと自分で考える限界点。
ギリギリの魔力を開放してトリスはそれを呼ぶ。

霊竜レヴァティーンはトリスの呼びかけに応じ狙いをガレアノへ定めた。

「何故!? 何故だ!!!」

どう考えても己達の方が調律者達より優秀で、秀でている。
なのにこんな攻撃で何故怪我をし苦しむのか。

ガレアノにとっての誤算はトリス達の連携。

ガレアノを護る筈のトリスの立ち位置は逆にガレアノの死角ともなっていた。

トリスを一人残して自分を攻撃するわけがないと、見込んだガレアノの傲慢さが招いた致命的なミスである。

「お願い!! レヴァティーン」
トリスが杖でガレアノを横から殴りつけ、イオスに手を引かれその場から離れる。

レヴァティーンはトリスの声に呼応して咆哮。
頭部に光る黄金色の輪から聖なる光を振りまき、ガレアノ目掛けて急降下する。

「ギャアアアアアアアア」
閃光とガレアノの断末魔の声だけがトリスの耳に届いた。



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