『話題休閑・傀儡戦争デグレア2後』
ほかほか。
温かい、心地良い。なんだかとても安心する。
レヴァティーンを召喚した後の意識がないトリスは、うとうとしながらトリスを包み込む温かさに浸っていた。
前髪を優しく払ってくれる指先と、触れ合う肌から感じる絶大な安堵感。
何より幸せでうっとりしながら深い眠りへ落ちてく。
そんなトリスの心境を理解しているのか、トリスの前髪を払った指先は優しくトリスの頭を撫でていった。
ぞくぞく。寒い、居心地悪りぃ。
生命の危機を感じる。
トリスを護るべく本来の姿で存分に暴れたバルレル。
消費した魔力のせいで子供の姿に舞い戻り意識を手放した。
霞がかった意識の中、何故か酷く魘されている己に気付くバルレルである。
感じるのは触れ合った肌から流れ込む魔力とは反対の、外気に曝された肌に突き刺さる殺気。
「……ヒッ」
薄っすら目を開いてみたバルレル、悲鳴をあげかけ無理矢理飲み込む。
「何がそんなに不服なのだ、汝等。トリスとバルレルが頑張ったからガレアノを撃破出来たのであろう? そう睨む事はあるまい」
本来の姿で魔力を消費したトリスとバルレルへ膝枕。
しながら
が蒼い羽を動かし、意識のない二人へ魔力を孕んだ風を送っている。
「でも
がなんで膝枕なの?」
目が笑ってない聖女様。
握った杖をついに真っ二つに折り、表面上は愛らしさを装い へ問いかける。
アメルの剣幕にビビった面々は早々に逃走を果たしており、この場に居るのはマグナとネスティ、それからカイナとシオンの四人であった。
「……兄上や姉上にもしているが? ゼラムではそのような習慣がないのか?」
アメルも魔力を分け与えられるが、殺気立つアメルに任せるのは憚られ一先ず がトリス・バルレルを癒している。
アメルの不機嫌の理由が分からず、不思議そうな顔をして問い返した
にネスティが脱力。
「そうじゃない……」
口数少なくそう言って、ネスティは額に手をあて左右に頭を振った。
「今回の戦の功労者ですからね、この程度は許容すべきでしょう。非常事態ですし」
カイナがアメルに取り成すように言えば、納得いかない顔をしつつアメルは不機嫌を内側へ引っ込める。
確かに今は悪魔軍との戦いが行われている最中で、疲労した者が癒されるのは当然で。
四の五の文句は言っていられない。
「トリスさんはぐっすりですね……並の攻撃ではありませんでしたし、少しは自信もついた事でしょう」
の腿に頬をあて安心しきって眠り込むトリス。
伸びた手が の片手を握っているのはご愛嬌だ。
シオンが言えばマグナは「む〜」なんて、少し不満げに口先を尖らせる。
「通常のレヴァティーンの力に、トリス自身の魔力を上乗せした一撃であったからな? トリスらしい攻撃だ……自分を曲げずに真正面から、なんて」
トリスとバルレルへ均等に風を送り、
は小さな声でこう喋った。
「トリスさんとマグナさんが兄妹だって改めて実感しましたね」
人当たりの良い顔色を崩さず、シオンが会話の幅を広げる。
カイナがシオンの意図に気付きマグナとトリスを交互に見てからクスリと笑った。
「ええ、本当に。マグナさんの根が真っ直ぐな部分と、トリスさんの真っ直ぐな部分。良く似ていて流石は兄妹だと思います」
どうにもこうにも真っ直ぐ直球ストレートすぎるのは他所へ置き、アメルの殺気をどうにかする為カイナが自分の意見を口に出す。
「え? そう……ですか??」
「マグナとトリスのは真っ直ぐじゃなくて、どちらかといえば無鉄砲だ」
カイナの賞賛? らしき台詞に喜びを表したマグナの後頭部を叩き、ネスティが渋い顔で言い切った。
とたんに落胆するマグナの姿が可笑しくて、カイナは口元を押さえながら笑い声をたてる。
「何事も一生懸命になれるのは良い事ですよ、ネスティさん」
シオンは労わるようにネスティの肩を叩きつつ、器用に笑いを噛み殺す。
褒められているようでさり気なく貶されている? というより、微笑ましい小動物に対するシオンの喋り口。
気付いてないのはマグナだけで、
は微苦笑して目線だけでシオンを咎めた。
「悪魔の拠点三つを潰した事で、多少メルギトスへダメージを与えられた事でしょう。ですが肝心のメルギトスが姿を現さなかったのが気になります」
次に
から視線を受けてカイナが別の話題を口に出す。
「あ……言われて見れば……見てないや」
目の前の現実に対処するだけで精一杯。
バレバレのマグナの態度に、ネスティは額に青筋を浮かべつつもう一度弟弟子の後頭部を強打した。
「そうだわ、メルギトスはキュラー・ビーニャ・ガレアノが危機に陥っても助けに来なかった。自信があったのかしら?」
アメルが幾分冷静さを取り戻し、頬に手を当てながら会話に参加する。
「わざと見捨てた可能性が高いですね。メルギトスからすれば、彼等もまた捨て駒に過ぎなかったのでしょう。本来の目的を果たす為、時間稼に使ったとも考えられますが」
和らぎだす空気に内心安堵してシオンが推論を口にする。
「うむ、メルギトスの所業を考えれば否定できぬな。本来の目的とは矢張りゲイルであろうか? しかしゲイルを操る施設は調律者にしか扱えぬ。違うか?」
がマグナに視線を送ると、マグナは何度も首を立てに振って
の意見を肯定した。
「ああ、その筈だが。メルギトスの事だ、何か秘策があるのかもしれない」
表情を険しくしたネスティが顎に手を当て思案顔。
こうしてはいられないと、カイナがアメルを伴って逃げていった仲間達を招集にかかり。
マグナも渋々、シオンと一緒に手分けして仲間の捜索に参加する。
「すまぬな、バルレル。怖い思いをさせた……トリスと汝の絆がより一層強くなった事を嬉しく思うぞ。これはささやかな『おまじない』だ」
小さな小さな の囁きが聞え、次に己の額に柔らかい感触が一つ降る。
薄っすら目を開いたバルレルに飛び込むのは、トリスの額に口づける
の姿。
バレたら死ぬな、俺。
二度とココには召喚されねぇだろうし。
バルレルは一人達観し、戻ってきた魔力の感触に肢体の緊張を解いたのだった。
Created by
DreamEditor 次へ