『暴かれる真実1』




キュラー・ビーニャ・ガレアノを撃退したは良いが、肝心の諸悪の根源が行方不明。
デグレアで簡単な休息を取ったマグナ達は一路進路をゼラムへ取り、途中、悪魔群と戦う彼等と遭遇する。

「あらあら、凄いわねぇ」
派閥の責任者の一人として、戦場視察に来たファミィの第一声がコレ。

凄いなんてもんじゃない。
疾風怒濤の攻撃。悪魔軍でさえ付け込めない完璧な連携。
悪魔相手に生き生きと戦う傭兵の一団が異様に目立っていた。

「善意の助っ人さん達は頼もしい限りです」
応じて、蒼の派閥総帥エクスもニコニコ笑ってファミィへ。

「そうか? 僕は悪寒を感じるんだか……」
タダでさえ白い肌を更に白くしてイオスが粟立つ二の腕を擦る。

最初、悪魔達は倒した兵士の身体を奪い仲間を増やしていたらしい。
これでは消耗戦となって明らかに人間側に不利だ。
誰もが感じ慌てていたところへ救い主、件(くだん)の傭兵達が最前線に出た途端戦況は一変する。
あっという間に悪魔兵を蹴散らし、追い返し、唖然とする他の騎士や召喚師達を尻目に八面六臂の大活躍。
悪魔軍へ傾きかけた勝機が一気に聖王国軍へと傾く。

「実は俺も」
イオスの小声に答えてマグナも小さな声で、ライバルの意見に賛同した。

流石は のお兄さん、お姉さんと言いたかったが。
言えない。
自分がいかに御しやすい敵と戦っていたのかが再認識でき、彼等を敵に回したくないと思う反面。

「? どうした、マグナ?」
マグナから不躾な視線を感じ、 は不思議そうに視線の持ち主を呼ぶ。
「や……なんでもないよ、
力なく返答をしてマグナは胸の中だけで盛大にため息を零す。

アレに認めてもらわないことには、きっとずーっと とは『良いお友達』止まりだ。
それは絶対に困る、とマグナは考えている。

「この場は兄上や姉上達に任せても大丈夫であろう。我等はデグレアで話し合った通り、あの場所へ向かうぞ」

約束通りマグナ達の手を煩わせない為に(半分はサイジェントへの影響を考えて)戦う兄達は強い。
強いというかやや人間離れしてしまっているようでもあるが。
この際、被害が最小限に抑えられるのなら良しとすべきだろう。

は気持ちを切り替え惚ける仲間達へ号令をかけた。

「うん、確かめないと。行こう! マグ兄、ネス、アメル! 皆!!」
実はバルレルの誓約は解きっぱなしだが、トリスは気にしない。
迷いを捨て去り、 に癒してもらって元気一杯だ。
真っ先に に応じて手を振り上げる。

「ああ、禍根を今度こそ絶つ。絶ってみせるさ」
マグナは妹の呼びかけに立ち直り、ガッツポーズを決めた。

「そして平穏を早く取り戻さないと……余計な虫が増えて仕方ないもの」

 ふふふふふ。

アメルは勢いで何かを召喚しそうな恐ろしい笑みを浮かべる。
背後の翼は白いのに発する空気が真っ黒だ。

「アメル、逞しくなって……」
孫バカ一直線。
アグラバインは単純にアメルの成長を喜び、ホロリ。
感動の余韻に一人で浸っている。

アグラバインの陰に隠れるレルムの双子、アメルの成長? に互いに思わず見詰め合う。

「おい兄貴、アメル大丈夫なのか?」

元々ああいう気質は持っていた。
否定はしないが末恐ろしい物を感じるのは自分だけか。

リューグは不安になって傍らのロッカへ問いかける。

「判断に迷うけど、大丈夫じゃないかな。アメルは」
ロッカは弟の不安な顔を横目に大人びた動作で戦いの最前線へ身体を向けた。

元来御転婆で誰よりも活発だったアメル。
聖女だ、なんだと祭り上げられ押さえ込まれていただけで。

アメルは本当はとても『自分に正直』な女の子なのだ、良くも悪くも。

非日常の連続でうっかり忘れ去っていた妹の性格。
再度認識してロッカは苦笑を浮かべるしかない。

「エクス様も、ファミィ様も早く安全な場所へ避難してくださいね」
幾ら の兄姉勢揃いとはいえ、飛び散る火の粉は確実にある。
歓声をあげて戦いを応援する、兵のファミィとエクスへパッフェルが務めて真面目に忠言し。

「そうよ、危ないじゃない。お母様もエクスも」
ミニスがパッフェルの意見に同調して、自分も戦地へ赴くのは棚に上げ、ちゃっかり母親と総帥へ苦言を呈する。

仮にも派閥の責任者二人が揃って戦中見舞いなんて、前代未聞だし非常識すぎだ。

矢張り自分を棚に上げ続けてミニスはこう考える。

「分かってますわ、ねぇ」
娘の眉間に拠った皺を見遣り、ファミィは隣のエクスへ目配せ。

「ええ。お偉方が見張ってる戦場なんて、兵士の士気を低下させるだけだから。大人しく退散するよ」

と戦い方の似た傭兵。
パッフェルへ尋ねなくても大体は分かる。
分かっても今回は助けてもらっている身分だ、問い詰める無粋な真似はしない。

エクスとて蒼の派閥の行末はそれなりに案じているのだ。

下手に を困らせようものなら蒼の派閥は壊滅する。

 ミモザとギブソンの、それからグラムスとパッフェル。
 皆の忠告は真摯に受け止めておかないとね。

頭の中だけで考え、エクスは毛色の違う傭兵について言及はしなかった。

「それじゃ気をつけてね、皆さん」
激しい戦いが繰り広げられている戦場をバックに、ファミィがのんびり手を振って軍の最後尾へ戻っていく。
あの器のデカさは恐らくミニスにしっかり受け継がれているのだろう。

母親の言葉に反応し、
「……お母様こそ気をつけてよね! それからエクスも」
と。ミニスが遠慮なく大声で母親へ言い返していた。

「さあ、気を引き締めていこう」
フォルテが珍しくシリアスモードで掛け声をかけ、森とは反対側に歩きかけケイナから殺気立った視線を貰う。
「皆の気持ちを解そうと思ったんだよ」なんて言い訳がケイナに通用する訳もなく、フォルテは数秒後に地面とお友達となる。

「夫婦漫才は事が終わってから好きなだけするが良い。行くぞ?」
呻くフォルテと鼻息荒いケイナ。
双方に言い、 は移動を始めたマグナ達へ合流し歩き出す。

そんなまったりした、最終決戦の始まり。
今後の予想だにしない展開を、まだ誰も知らなかった。





相も変わらず鬱々とした空気を放出する森。

が上掛けした森の封印を解く……マグナを救出する際にも威嚇をしたので、悪魔兵はよってこない。
更に今回はアメルの天使の光が加えられ誰も飛び掛ってこようとはしなかった。

「……気配がする、アイツだ」
マグナは奇妙に冴え渡る感覚が告げる事実だけを口に出した。

悪魔が大人しいのは自分達に恐れをなしているだけじゃない。
きっと悪魔兵を束ねる彼が居るから、悪魔兵達は攻撃を仕掛けてこないのだ。
予感ではなく、確信。胸に抱えて背筋を伸ばす。

「わたしにも分かるよ、マグ兄。アイツが居る」
トリスも遺跡方角を向いてマグナと似たような発言をする。

劣等感を払拭した調律者の末裔達。
己を信じられなくても、己を信じてくれた仲間は信じられる。
自由を取り戻した双子の心は一気に音色を変え、本来の奔放さを取り戻していた。

 ポロロン……。

細く物悲しく響くレイムの竪琴。
マグナとトリスは竪琴の音に臆する事無く、逆にニカッと へ笑いかけて自ら音源へと歩いていく。

双子に逞しさを感じてついていく面々。
誰もが最後の戦いを前に心地良い緊張感を纏っていた。

「仏の顔も三度までと申すのに……物好きだな」
は呆れ顔でレイムの竪琴の音色に耳を傾ける。

「自分が一番だと奢ってるから、ああいう行動に出れるんだろう? そう考えると、僕達は視野が狭かったのかもしれない。
確かにメルギトスは大悪魔で油断ならない相手だ。だからと言って構えてかかっては、逆に相手の思う壺……良くないのかもしれない」

仲間の最後尾近くを歩く と一緒に歩きながら、ネスティがこれ迄を顧みてやや自嘲気味にコメント。
何事においても論理的なネスティらしい反省に、 は肩を竦めた。

「そのようだな。既存の概念に囚われ、危うく全員をメルギトスへの供物へする所だったのだから。時に柔軟な発想を持つ事が事態を打開するかも知れぬぞ?」

悪戯っ子の微笑を浮かべ、 が意地悪く言えばネスティは何度も瞬きをする。

「どういう意味だ?」

 何か企んでいる?

ネスティは の口振りから察して即座に問い返す。

「そのままの意味だ。メルギトスの出方によっては、変化するやもしれん」
は澄ました顔で多くを語らず、ネスティを試すような口振りを使う。

「柔軟な発想、か。ならば僕は君の奇天烈な行動に泡を食わないよう、心臓を落ち着かせる準備をしておくよ」
ネスティがわざとおどけ、心臓の上に手を当てる。

漸く自分らしさを取り戻してきた、ネスティの余裕が滲み出る台詞に の心も嬉しさに弾む。

「頼もしいな」
心の底から感じて、 は本音をネスティへ伝えた。



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 そんなわけでラストバトル前の肩慣らし?? ブラウザバックプリーズ