『暴かれる真実2』




熱血組が先走り、 とネスティが到着した時には戦いの火蓋は気って落とされていた。

「レイムが機械魔を召喚出来るとは……どうなっておるのだ?」

遺跡の転送装置前。
陣取るレイムを取り囲む機械魔=ゲイル。

一瞥して は眉根を寄せ不快感も顕に疑問を口にした。

「それがですねぇ、レイムのあの身体。実はクレスメント関係だったらしいんですよ〜」

パッフェルが後方支援の一撃を撃ちつつ、 へ近づいて耳打ち。

「それにレイムは天使アルミネのゲイルを出撃させた、クレスメントとライルの血識と魔力を奪って生き延びたみたいなの。
結界に阻まれて外には出れなかったけど、実体もなかったけど。ゲイルに関する知識は持ってたのよ、最初から」

同じく後方支援組。
水晶片手にルウが詳しい解説を とネスティへ行う。

「成る程……アグラバインに同行していた召喚師の身体を態よく乗っ取り、機会を窺っておったのだな。地道に魔力を蓄え、聖王国を混乱させる手駒を揃えながら」

の頭の中で疑問として残されていたパズルのピースが答を伴って、空白に次々と埋め込まれていく。

十数年前から虎視眈々とリィンバウムの覇権を狙っていたレイム=メルギトス。
正しくは何千年も前から、だろうが。

「恐らくは、森から失われたアルミネの魂を有する者が覚醒するのを待っていたんだろう。
一旦森からの脱出に成功したメルギトスは、今度は逆にゲイルを利用しようと考えたんだ。クレスメントの魔力とライルの血を利用して」

ネスティも会話に加わり、苦い顔で高台に立つレイムを盗み見た。

誓約とプログラム。
二つの鎖に繋がれ自我を失った召喚兵器・ゲイル。
機械と悪魔が融合したゲイルの一体がマグナとルヴァイドによって撃沈。

自爆プログラムを放つ間もなく、カイナの召喚術により粉々に砕け散っている。

「遥か昔のリィンバウムを欲し、今はまた同じくリィンバウムを欲する。それにどれだけの意味があるのだろうな」

 手間隙かける程のモノなのだろうか?

は胸中の疑問を口に出さず、曖昧に言葉を濁しながらぼやく。

地球から見ればリィンバウムはファンタジーで、パラレルで非現実だ。
悪魔の考え方は分らないが、心血を注いで手に入れるほど大層なものでもないと は感じている。

住む場所として考えるのは良い。
だが手に入れて踏ん反り返るほど重要なものなのだろうか。

大切なのは自分にとって居心地が良いかと、自分を受け入れてもらえるだけの隙間が存在するか、否か。


 リィンバウムの支配権など手に入れても面倒であろう。
 敵対するものは姿形を変え目の前に現れるであろうし。
 敵を蹴散らし支配欲を満たした後はどうするつもりなのだ。
 壮大な目論見だが、果たしてその先にあるモノなどあるのだろうか……解せぬな。


愉しみたいのは兄や姉や仲間達との慎ましい生活。
それなりに問題もあるけれど、概ね平和に暮らしている。
リィンバウムという世界は、生活に付随するモノで、リィンバウムについて考える事などない。


 人が滅びるも栄えるも全ては自由。
 冷たいようだが、神が自ら干渉する事など滅多にあり得ん。
 たとえリィンバウムがかつて楽園と呼ばれていた清浄な世界であったとしても。


自分で迷い悩み苦しみ。
自分らしさを掴み始めるマグナとトリス。
戦う双子をチラッと見てから は滅入る気持ちに蓋をした。

結局はマグナとトリスだって『巻き込まれ損』なのだと考えて。

「さあ〜、どうなんでしょうねぇ。わたしは老後の心配さえなければ、御の字なんですけど。流石に世界征服までは考えた事なかったですね〜」
パッフェルは寛ぎモード。
基本的にレイムに恨みがある訳でなく、マグナ達の人柄に釣られて? 給金に釣られて? 仲間に加わっているので、比較的客観的に戦いを見ている。

最前線では『お前の悪巧みは絶つ!!』なんてスローガンが似合いそうな、マグナを始め。
アグラバイン・ルヴァイド・イオス・シャムロック・フォルテの騎士組が戦い、召喚師組を護るユエルとモーリン、カザミネと連携中。
最初は手ごわかったゲイルも、無限界廊地獄等を潜り抜けた彼等には五分に渡り合える敵となったようだった。

「どうなんでしょうって! 悪魔なんて碌な考えを持ってないのよ!? そんな奴等に世界征服されたら大変じゃない」
パッフェルの意見に面食らってルウが大声で反論する。
「なら、バルレル君はどうするんです??」
含み笑いをしてパッフェルが手痛い指摘をルウへ返した。
「そっ……それはっ……、バルレルは悪魔だけどトリスの護衛召喚獣だし、誓約でちゃんと契約してるじゃない」
ルウはグッと一瞬言葉につまり、それから澄ました顔でパッフェルへ告げる。

黙ってルウの発言を聞いていた は首を捻ってさり気なくツッコむ。

「デグレアで誓約を解いて以来、バルレルは誓約されておらぬのではないか?」

誓約されていた時の子供の姿で槍を振るうバルレル。
気を失い回復したトリスが誓約は必要ないと笑顔で言い切って、戦いも続行中だったので有耶無耶のまま。

指差して が言うと形容し難い奇妙な沈黙が四人を包み込んだ。

「「あ……」」
失念していた事実を思い出し、ネスティとルウがハモって呟く。
間の抜けた顔になったネスティとルウにパッフェルがニンマリほくそえむ。

「種族という枠で括るのも、大人気ねぇんじゃないか?」
そこへ何時から居たのか、レナードが最後尾護衛組? 要員として銃を片手に口を挟む。

「そうですね……色眼鏡で相手を見ると、肝心な部分を見落としますから」
シオンも最後尾護衛組らしく、気配もなく樹上から落下してきて音もなく地面へ足をつけた。
大人二人、しかも違う世界の意見にルウは眉根を下げる。

「種族で括るのなら、 は俺の世界の神だろう? 神が困っている民を放置してるんだ、俺としちゃー、当然腹を立てて抗議して良い立場にあるよな?」
コートの内側からタバコを取り出し、火をつけレナードがくぐもった声音で言う。

前方でレイムの声と、誰かの怒声が聞えたが最後尾に残る全員がそれを無視した。

「ああ、汝が我を非難する材料は存分に揃っておる」
は動じる事無くレナードの意見に同意。
あっさり自らの非を認めた に、シオンがにこやかな表情を浮かべる。

「責めたりはしない。仕方ねぇからさ。幾ら地球の神だってリィンバウムの理屈を曲げられる訳じゃねぇ。
神様ってのはもうちっと万能かと思ってたんだがな。アテが外れたぜ」

ガシガシ頭を掻いて、口調だけは至極残念そうにレナードは喋った。
尤もこれっぽっちも残念そうではない楽しそうなしたり顔で。

「すまないな、レナード。神とは汝が見たままの不便な存在なのだ、期待を裏切るようで心苦しいが」
も応じて心底すまなそうな口調ながら、目だけは が持つ好奇の輝きが爛々と灯っている。

これを と付き合いが長い面々が見たら波乱の予兆だと予見できるが、生憎ここに と付き合いの長い者はいない。

「追い討ちをかけるようで申し訳ないのですが……。サイジェントで最初に異界へ来た さんを見た時、正直胡散臭い子供だなと思ったんですよ」
しれっとシオンが の初対面の感想を漏らす。

と、ルウが意味不明瞭な言葉を口内で呟き、口先を尖らせた。

「それならお相子だ、シオン。我も汝を胡散臭い店長だと思っておったからな」
も然程ダメージを受けておらず、笑ってシオンへ皮肉を交えて己の感想を伝える。

アカネ共々身分を隠し、厄介事に関わらなかったシルターンの暗殺者。
リィンバウムで暮らすには賢明な判断かもしれないが、 としては些か不満だった。
能力があるのに知らぬ存ぜぬといった態を示すシオンに対して。

「外見と中身が違うのって多々ある事ですし。歩み寄れるのであれば、問題ないんじゃないんですか? 立派に歩み寄ってる方々もいますしね〜」
パッフェルは軽い口調で言って、目線だけで戦う面々を示す。

相性が悪いはずの、金と蒼の派閥の召喚師。
敵だったデグレアと共闘するトライドラの騎士。
無理矢理呼ばれて道具扱いされた召喚獣。
遥か昔兵器として利用された天使の生まれ変わりと、利用した側の子孫。etc。

「雑多だな。俺も人様のことは言えないが、理由も目的もバラバラの連中がこれだけ集まって一つの目的のために動けるんだ。凄いこった」

同じ人種・同じ国家であっても一つに纏まれなどしない。
それなのに彼等は全ての垣根を越え共に在る。
尤も立場が同じでないから結束できるのかもしれないが。

考えは喉奥に飲み込み、レナードは当たり障りのない部分だけを声に出す。

「国連のようにあくどくないからな」
「かもな」
すかさず嫌味混じりに が言い、レナードはなんともいえない顔で肩を竦めた。

その間にマグナ達はレイムを追い詰め、遂に打ち倒す。
歓声を発しかけるミニスとユエル。
それをモーリンが諌め、レイムは何処かへ姿を消した。

「……遺跡内部に行ったんだわ、ゲイルをもっと操るために。ルウ達も行きましょう? まさかここまで来て見物だけって訳じゃないわよね?」
ルウは の手首を掴み、足音を響かせる勢いで草を踏み分け、ゲイルの残骸を蹴散らし歩いていく。
余計な騒動を起こす気がないのか、 はルウにされるがまま。

「そろそろ行かないと、雷が落ちるかもしれませんね」
シオンが誰とは言わず、ルウや に倣って歩き出す。

レナードとパッフェルは視線を交差させ、いまいち分かっていないネスティを引き摺り遺跡内部へ向かうのだった。



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 戦闘に加わらない主人公。相変わらずマイペース、さり気にネスティ美味しい?? ブラウザバックプリーズ