『暴かれる真実3』




遺跡内部は が想像したより広く、考えたよりハイテクだった。

「質量保存の法則を無視しておらぬか? それとも膨張??」

魔力を解き放ちつつあるレイムの、メルギトスの身体。
使用していた人の身体は膨れ上がり、お世辞にもアレが大悪魔だとは思えない。

生真面目にレイムの変貌について考える をミニスが呆れた顔で見ていた。

「そんな事より良いので御座るか?」
同じく今回は最後尾組のカザミネが遠慮がちに へ問いかける。
「何をだ?」
は何度か瞬きをして逆にカザミネへ質問する。

とカザミネの間を駆け抜ける、間の抜けた空気にミニスが耐え切れず勢いつけて床を足で蹴った。

「もー!!  ってニブいんだから!! サイジェントの時は最後の戦いまで加わってたんでしょう? 今回は見物してて良いのかって聞かれてるのよ」

再会したトウヤとハヤトから聞いたあの事件の概要。
一部を知るミニスとしては、カザミネの言いたい事が良く分かる。

逆に、人の機微に敏い が理解できないのが不思議なくらいだ。

「道はまだ不確定で、揺れておるのだ。ミニス」
ミニスの発言は所々間違えている。

敢えて訂正を入れず、戦うマグナ達へ目線を送り は言葉を濁して答えた。

案の定「はぁ? 、何言ってるのよ」なんてミニスに即座に言い返されてしまう。


 マグナとトリスの迷いは消えた。
 ネスティ・アメルの憂いも消えた。
 だが、メルギトスの罠の方が彼等の心意気を上回っておる。
 その一線を越えられたなら道が確定し、汝等に力を貸すことが出来るのだ。


己に化せられた『枷』に想いを馳せる を他所に戦いは激しさを増す。

遺跡内部のゲイルは、外でレイムが操って見せたものと変わりなく。
戦い慣れしてきたルヴァイドやアグラバインの動きが格段に良くなる。
マグナも、二人と一緒に最前線に立ちながら勝利を確信していた。

「これで最後だ!!」
マグナは複数のゲイルに守られていたレイムへ大剣を突き出す。

レイムを護るゲイルは、ルヴァイドとアグラバインの攻撃とネスティ・トリスのフォローによって敢え無くスクラップと成り果てていた。

「ぐっ……」
人外の身体になりつつあるレイムの胸板に吸い込まれるマグナの大剣。
傷口から大量の体液を噴出し、レイムは血走った眼でマグナをねめつける。

「馬鹿な、このわたしが人間如きに後れを取るなんて……」
芝居がかったレイムの台詞が胸に引っかかる。

マグナは大剣を抜き放ち、斜めにレイムの身体を斬りつけながら高揚する意識を下げた。

クレスメントの敵を自分が倒せたのは嬉しい。
多くの犠牲を出したこの戦いが終わるのも嬉しい。
けれど、何かがオカシイ。
相手は大悪魔だ、こんな簡単に寄せ集めの戦士達に倒されるだろうか。

「……ルヴァイド!! アグラお爺さん!!! 下がって」
崩れ落ちるレイムの身体。
冷静に見てマグナは声を張り上げた。

レイムが倒れた事実に少々浮かれていたルヴァイドとアグラバインは、マグナの声に反応する前に何かによって体の自由を奪われ。
その場で膝を付き剣と斧を支えにうずくまる。

「トリス! ネス!! 二人を回復してくれ。カイナさん、ケイナさん、施設の中枢を召喚術で攻撃してくれ。それからフォルテ、シャムロック、イオス!! 来るぞ!!」
マグナが周囲の様子を窺いながら、冷静に仲間へ指示を飛ばす。

「……マグナさん。あの時のトウヤさんやハヤトさんみたいですね……」
鈴を構えながらカイナが小さく呟いて微笑む。

自分の劣等感を追い払い、戦いに専念し、自分の直感を信じて。
仲間を纏め信念を貫く。
マグナは世界を護るとか、メルギトスを倒して英雄になるとか。
大層な事は考えていないだろう。

彼の頭を占めているのは、これ以上ゲイルを悪用されない事と、ネスティ・アメルを呪縛から開放する事と。それから。

 きっとあの方を素体にされたくないから、これだけ必死になれるのでしょう。

隣に立つ姉が呪符を片手にカイナの肩を叩く。

「行くわよ、カイナ」
「はい姉さま」
ケイナの呼びかけに意識を施設中枢へ戻し、カイナは握り締めた鈴の感触を確かめた。

トリスとネスティは、ぐったりして意識を失くしかけるルヴァイドとアグラバインへ回復魔法をかける。
血色は良くなるものの、二人が機敏に動けるようになるには時間がかかりそうだ。

判断したネスティがモーリンとシオンに頼んで二人を最前線から後方へ下げる。

レイムが倒れた筈なのに数対のゲイルは稼動していて、それをマグナとフォルテ、シャムロック、イオスで防いでいた。

「メルギトスの気配が消えていないわ」
アメルは祈りを捧げる姿勢で何かを捜していたが、顔を上げ、自分を守ってくれているロッカとリューグに告げる。

ロッカとリューグはアメルの告白に表情を引き締め、油断なく周囲を見渡す。
見慣れない機械とゲイルの残骸。
沈黙する遺跡は何処も怪しく見える。

「それはどんな状態で? メルギトスの残骸はマグナの傍だけど……霧とか、魂とかそんなモノなのかい? 場所は?」
アメルを狙うゲイルが天井から降ってきて、リューグがいち早く応戦。
その間にロッカがアメルに要点を掻い摘んで尋ねた。

「霧みたいな状態だと思うの、多分。……何処に居るまでは、あたしにもちょっと」
アメルに眠るアルミネが激しく反応する。
警鐘が鳴り響く頭を抱え、アメルは弱々しい声音でロッカへ応じる。

「おねえちゃん、だいじょうぶ。……ハサハは負けない」
ハサハはアメルの背中を擦って励まし、宝珠を手に宙を睨む。
ピンと立った頭の耳がメルギトスの気配を捉えようと前後左右に揺れた。

「おいオンナ! オメーの天使の力で施設の中を照らせばいいんじゃねぇか? アイツの嫌いな天使の光を使ってみろよ」

レルムの村で出会った頃の無邪気? なアメル。
今の聖女様は当時を髣髴とさせる。

バルレルはアメルと同様さざめき立つ胸騒ぎを無視して提案する。
何度か瞬きを繰り返したアメルは大きく息を吐き出し、それから の正体を知った後のアメルの顔に戻った。

「やってみるわ。ハサハちゃん、バルレル。怪しい部分があったら迷わず攻撃してみて。ロッカはリューグの援護をお願い」
背中の羽を広げアメルが決意を固める。


今まで戦いに肯定的だった訳じゃない。

出来る事なら和解して戦いを回避出来たらどれだけ楽……基、幸せだろう。

前世の天使の気質が高じてアメルはそう考えていた。
だからさり気なく? デグレア組を説得してきたし、レイムにだって一度は説得した。
でも綺麗事だけじゃ守れないものもある。


 アルミネだった時の魂が引き裂かれる痛み……覚えてないわけじゃないの。
 でもマグナとトリスとネスティには言えなくて……。
 全てを知った上で はあたしをアメルだと言ってくれた。
 アメルなんだから自由になれと言ってくれた。
  にゲイルの苦しみを味あわせちゃいけない……まさか!?


天使の力を一気に解放し、考えに耽っていたアメルは慌てて背後を振り返った。
「ミニス!! カザミネさん!!  を守って!」
アメルの悲痛な叫びが施設内に木霊し、呼応するように天使の羽が輝きを増す。

突然名指しされたミニスとカザミネは一瞬、アメルが何を言っているのか理解できなかった。

「え!?」
目を丸くしたミニスの真横。
隣に立っていた筈の の身体が施設内の何かによって奪われ、体の自由を束縛される。

殿!! キエエエエェェイ!!」
カザミネが居合いを放ち、 を捉えた金属の触手を切り裂くがキリがない。

施設の壁から無限に増殖する触手は だけを狙っていた。
は初回に捉えられた時に何かされたのか、ぐったりして常の元気が見られない。

「我に構うな……二人とも……にげ……」
半眼の が途切れ途切れに二人へ言葉を紡ぐが、ミニスとカザミネは触手が奪おうとする の身体へ手を伸ばす。

その間も触手は の足首を捉え身体を引き摺って壁面へと を運んでいく。

「どうなってるんだ……くそ! を返せ、今すぐに。調律者の命令だ!!」
最後尾の異変に気付いたマグナが直ぐに施設のメインプログラムへ呼びかけた。

《実行不可能です》
メインプログラムは平坦な声音で、それだけを返答して返す。

「どうして!? わたし達調律者の指示を聞かないっていうの」
《実行……フ、フカ、フカの……不可能……デ……》
今度はトリスが声を荒げ、施設のメインプログラムへ怒鳴った。

だがプログラムはノイズ混じりの声音で答えようとして沈黙。
何度マグナやトリスが呼びかけようが応える気配はまるでない。

「違う、トリス……システムが乗っ取られている……そして から膨大な魔力を奪おうとしているんだ。……アクセス!!」
本来の融機人の姿を取ったネスティが慌てて施設内部のプログラムに侵入する。

ネスティの予想を超えた速度で乗っ取られていくシステム。
奪われていく の魔力。
焦るネスティを嘲笑うかのように、それの声が施設内部に響き渡った。



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 ここら辺は主人公も加わってるのでアレンジ。シリアスって難しいですねぇ……。ブラウザバックプリーズ