『因果を超える者1』
身体中から魔力が奪われる感触を味わいながら、 の意識は浮上したり降下したり忙しない。
誰かの悲鳴と怒声が混じりあう中、メルギトスの愉しげな笑い声だけが施設内で耳障りに響いた。
『素晴らしい、この身体。加えてこの無尽蔵の魔力』
挑発するレイムにいきり立つイオス。
シャムロックやフォルテも嫌悪感を顕にして、システムを乗っ取り機械の身体を手に入れたメルギトスを睨む。
メルギトスの巨体の一部、丁度人の喉のような形の場所に小さな の身体が収まっていた。
が持つ無尽蔵の魔力がメルギトスに流れているのは明白で、哄笑するメルギトスに絶望感だけが増す。
『これで分かっただろう? 愚かな調律者の末裔よ、機械の身体を手に入れたわたしに勝てる見込みが無いと』
メルギトスは己が作り上げた施設内部を見下ろし勝ち誇った声音で告げた。
ドクドク波打つ鉄の管が縦横無尽に張り巡らされた、紫色の空間が出来上がる。
「違う、愚かなのはお前だ、メルギトス」
大なり小なり衝撃を受ける仲間を他所に、マグナだけは怯む事無くメルギトスへ云った。
何の気負いもない落ち着き払った声音で。
「こうなるまで……いや、メルギトスに施設を乗っ取られるまで気がつかなかった。本当、俺って鈍いよな」
上着のポケットに忍ばせた からの贈り物。
ピアスを小さな袋の上から握り締め、マグナは何度か深呼吸をする。
「
の魔力を奪った? だからどうなんだ。それでメルギトス、お前がより完全な存在に成ったとでも言いたいのか? だとしたらそれは誤算だよ」
マグナは言いながら へ目線を送る。
が全てをかけてマグナへ伝えてくれたメッセージ。
最後の最後で気がついてキャッチできた。
自分で考えて立ち向かって間違えても良いから信念を貫く。
大変だけど調律者の因果を超え、蒼の派閥の召喚師としてこれから生きていくには必要な通過儀礼。
分かっていたのは
だけで、自分は気づかされただけ。
「確かに は神様で、凄い魔力を持っていて……頼もしいけど。 が凄いのは が神様だからじゃない。
が他の仲間を対等に扱えてて、尊重し合えるから凄いんだ。一人じゃなくて皆で力をあわせる事を知ってるから強いんだ」
マグナの瞳に宿るのは と同じ確固たる意思を秘めた強き輝き。
毅然とした態度で言い切るマグナに
を奪われて動揺していたトリスが立ち上がる。
「マグ兄の言う通りだよ!! 昔、調律者は運命すら律すると云われてその二つ名がついたって聞いた……なら、わたし達は超律者として、メルギトス! お前を倒す!!」
ぶぅん。
トリスは構えた杖をメルギトスへ向け、勇ましく宣言。
「そう……だな。一人じゃないから僕達はここまでやって来れた。仲間の支えがあったからメルギトスの罠にまで辿り付けたんだ」
ネスティも施設のシステムにアクセスした格好で、しみじみと呟く。
なんだか年寄り臭いその態度にトリスが「ネスってお爺ちゃんみたい〜」等と茶化し、憤慨したネスティに鉄拳制裁を喰らう。
メルギトスにより絶望が蔓延した戦場が、マグナの発言によって和んだ空気さえ漂う場へと変貌していく……。
「
さんの導く光が彼等を救う……あの時と同じ」
パッフェルは黙って成り行きを見守り、いざとなったら命を懸けてでも を助けられるよう構えていた。
でも変わる雰囲気に感無量、胸が一杯になって震える声で呟く。
『完全な身体を手に入れたわたしに挑むというのか?』
メルギトスはマグナの言葉を冗談半分に受け止め、まるで相手にしない。
自らの優位を信じて疑わない口振りでマグナを挑発する。
「ああ、挑むさ! 俺は一人じゃないからな」
大剣を構え直し、フォルテ・イオス・シャムロックへ目線を向けた。
惚けていた三人は漸く我に返り、力強く頷いて手にした武器を掲げる。
『ならばその身に絶望を味わい、わたしの糧と成るがいい』
苛立ち混じりのメルギトスの声がして、数体の機械魔と悪魔兵がメルギトスの足元に出現。
素早い動きで最前線に立つマグナ達へ襲い掛かった。
「けっ、言ってろよ」
バルレルが本来の姿を取り、槍を手にマグナ達の元へ飛翔し着地。
着地するかしないかのうちに槍を真横に差出しマグナを襲おうとした機械魔を貫く。
「させないわ! あたしは天使アルミネじゃないけど、マグナ達の仲間だもの。
の親友だもの。助けてみせる」
落ち着きを取り戻したアメルが天使の羽の輝きを高め、癒しの光を傷ついたシャムロックへと送った。
更にイオス・フォルテ・マグナと怪我を負う最前線の戦士達を次々に癒し士気を高める。
「負けない!」
ハサハも手にした宝珠を掲げ、溜め込んだ魔力を開放。
大人びた姿になってメルギトスへ向け雷を浴びせかけた。
トリスは杖を片手にマグナの直ぐ後ろにまで近づき、最大限の魔力を持ってメルギトスを攻撃し、レナード・パッフェル・ケイナは長距離攻撃を生かし、絶え間なく銃弾や弓矢を撃つ。
「剣客カザミネ、参る!!」
鞘に収めたカザミネの剣が煌き、機械魔は一刀両断。
そのままカザミネは走り出して、仲間を襲う機械魔を次々に真っ二つに切り払った。
ミニスは憑依召喚術をユエルに施し、ユエルは高い攻撃力と素早さを生かし
救出を試みる。
「
!! 今度はユエルが助けるからねっ」
近づけば魔力の塊で攻撃されるメルギトスまで近づき、飛び上がって の周囲の機械を引き千切る。
素早いユエルでも一回二回と攻撃するごとにメルギトスから受けた怪我が増え、慌てて滑り込んでくるルウに回復魔法をかけられた。
『雑魚が』
あくまでも諦めない姿勢を貫くマグナ達を一笑に付し、メルギトスは から供給される魔力を高め空間で爆発させる。
魔力値の低いフォルテとシャムロックが衝撃に耐え切れず吹き飛ばされ、なんとか持ちこたえたイオス・バルレルも傷だらけ。
負傷したフォルテとシャムロックをパッフェルとレナードが助け出し、ロッカとリューグの双子が最前線に向かう。
「天使エルエル召喚!」
トリスも取り乱したりなどせず、サプレスから天使エルエルを召喚。
傷ついたフォルテをシャムロック、それからイオス・バルレルを回復。
マグナは自分の召喚魔法で怪我を癒し直ぐにメルギトスへと剣を振るう。
激化する戦いは拮抗し、メルギトスもマグナも一歩も引かない状況で、消耗戦の空気が濃くなってくる。
最後尾に下がり思案していたカイナはある一つの予想を胸に、意を決して姉のケイナにこう提案した。
「 さんの意識は失われては居ない筈です……メルギトス如きに呑まれてしまう様な彼女ではないから。
わたし達がメルギトスを足止めする間に、ハサハちゃんの力を使ってマグナさん、トリスさん、ネスティさん、アメルさん、バルレルさん。
皆さんで
さんを介し、内部からメルギトスの力を削げないでしょうか?」
妹が口に出した提案にケイナは瞠目して、それから
とメルギトス、戦うマグナの背中を見て小さく頷く。
「今のマグナなら大丈夫そうじゃない、わたしは賛成よ」
細かい切り傷をこさえたミニスが姉妹の傍に立っていて横槍を入れる。
漸く意識を取り戻したアグラバインとルヴァイドもカイナの話を聞いていて、身体の疲労を感じさせず立ち上がった。
言葉を発するよりも先ず行動で。
そんなアグラバインとルヴァイドの行動にカイナは笑みを浮かべる。
「流石はエルゴの守護者、発想が違う」
比較的近くに居たネスティがカイナに近づき、そのアイディアを褒めた。
「いいえ。エルゴの守護者だけをしていたらきっと考えもしなかったでしょう。全てはマグナさん達や姉さまや、 さんのお陰なんです。
皆さんとの出会いを通して視野が広がったから」
カイナははにかみ、ネスティの賞賛をさらっと受け流し考えをシオンへ耳打ち。
首を立てに振ったシオンが素早く移動し、伝言ゲームのように全員に伝えて回る。
「さてさてv囮役はお任せくださいね〜」
作戦を理解したパッフェルがいち早く動く。
銃を手に左に右に銃弾を発射、一見無鉄砲な攻撃を行いメルギトスの意識を散らす作戦に出た。
「ほらほら、雑魚なんだろう? さっさと倒してみせなよ!」
モーリンも得意の拳を連打させ、打っては離れ。
違う場所へ蹴りを入れ。
メルギトスの注意を引こうと力強い攻撃を始める。
移動力のあるユエルも様々な場所で暴れ、ユエルの攻撃の合間を縫ってレナードが絶え間なく攻撃を繰り返す。
ルウは召喚術をフル活用して怪我人の治療を。
同じくミニスも召喚術だけを使って全員を癒して回る。
「これも……持って行け。貸すだけだから後でちゃんと返せ」
イオスが仏頂面のまま、己が貰った からのピアスが入った小袋をマグナへ放り投げた。
危うく躓きそうになりながらマグナはイオスの小袋をキャッチし片手を上げる。
「譲れない、これだけは。トリス、アメル、ネス、バルレル、ハサハ」
マグナの合図で実行組がマグナへと近づく。
ハサハは手にした宝珠へ力を注ぎ、ハサハを中心として残りの五人がそれぞれに手を繋ぎ円陣を組む。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ハサハが連れて行くよ。
の所へ」
眩い輝きを放つ宝珠と、勾玉とピアスと短刀。
網膜を焼き尽くす光が弾けて消えた。
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