『因果を超える者2』




眩い光が弾け消える。
光が引いた世界に飛び込むのは漆黒の闇。

全てを飲み込もうとてぐすね引く悪意に満ちた闇が広がり、あちらこちらで蒼い光が弱々しく点滅している不可思議な空間。

そこに六人は到達した。

!!  ー!!」
マグナが闇の暗さに驚きもせず、直ぐに目的の人物の名前を声高に叫ぶ。
!! 何処に居るの?」
アメルも背中の羽を広げ光を灯し の居所を探り始める。

ネスティも、トリスも、ハサハも。バルレルさえも の名を呼び彼女の気配を辿って闇の中を動き回る。
当然メルギトスが異変に気付かないわけもなく、すぐさま六人への攻撃を開始した。

『小賢しい真似を』
メルギトスの声が二重三重に反響し、直後降り注ぐ魔力の篭った黒い輝きを発する光の攻撃。
魔力が高いアメルやトリスでも悲鳴をあげる特大の一撃に、バルレルとマグナは立っていられず倒れる。

「……逃げないって決めたんだもん……」
全身を走る激痛に涙が零れる。
トリスは涙を震える指先で拭い、ポケットに仕舞った紫色のサモナイト石へ手を伸ばした。
サプレスの門から聖母プラーマが舞い降り、癒しの光を撒き散らし消える。

「けっ、俺もつくづく……」
トリスの回復魔法を受けたバルレルがよろめきながらも立ち上がり。
手にした薬類をハサハへ投げつけた。

ネスティはトリスと同じく聖母プラーマを召喚。
マグナとハサハを癒し片膝をついた格好で周囲を見渡す。

『ムダだ』
マグナ達が回復したのを見計らいメルギトスは第二派を放つ。
くつくつ喉奥で笑うメルギトスの冷笑に反論する余裕は誰にもない。

「うわああぁあああぁぁ」
身構える間もなく魔力の刃に切り刻まれマグナは吹っ飛ぶ。

ネスティ・アメル・バルレル・ハサハ・トリスも四方へ吹き飛ばされ悲鳴をあげた。

メルギトス本来が持つ魔力と、 から奪い取った神の魔力。
両方が混ざり合った強烈な一撃にさしものマグナ達も成す術がない。

やっとの想いで回復を行い、直後にメルギトスに攻撃される。

終わりなきいたちごっこは、マグナ達の魔力切れによって終焉を迎えようとしていた。

「アクセス!!」

満身創痍。
残された魔力だってたかだが知れてる。

ボロ布の様に傷ついたネスティが、機械の身体を持ったメルギトスへアクセスした。

ネスティの瞳に宿る決意、感じ取ったアメルが数秒逡巡しそれから天使の羽を再度広げる。

「あたしに光を!!」
か細いアメルの叫びと共に降り注ぐ大量の天使の光。

二人の自殺行為ともとれる行動にマグナは目を見開き、激しく頭を振った。

 違う…… は二人にこんな行動をさせたくてメルギトスに囚われたんじゃない。
 本当に断ち切って欲しいから、だから。

言葉にならない焦りがマグナを急かす。
必死に身体を動かそうともがいても、マグナの身体は言うことを聞いてくれず。

指を動かし眼前に倒れるトリスへ辛うじて触れるのが精一杯だ。

ネスティとアメルの存在そのモノを懸けた攻撃はメルギトスと互角。
だが、 を取り込んでいるメルギトスの方が僅かに優位である。

「くっ……」
苦悶の表情を浮かべメルギトスからの浸食を受け始めるネスティ。
ネスティは脂汗を流しながら歯を食いしばる。
「だ……め……」
アメルの光を押し潰す闇。
一人の力では支えきれず、アメルも身体を襲う激痛に意識を手放しかけていた。

マグナは数センチ這いずってからふとポケットが温かいのに気がつく。

ポケットに入れたのは自分とイオスが から貰ったピアス。
トリスは確か髪を結ぶ紐を貰っていたっけ……ぼんやり考えたマグナは唐突に理解した。

「トリス、無属性のサモナイト石はあるよな? 流砂の谷の時と同じ事がしたい。媒介は本人から貰ったピアス、それからトリスが持ってる髪紐だ」
出来る限りの声を張り上げマグナがトリスへ喋りかける。

痛みに意識をおぼろげにしていたトリスは、ゆっくりした動作で顔をマグナへ向けた。

「分かるか? トリス。流砂の谷と同じ事をするんだ、今ならネスの魔力がなくたって調律者の俺達なら を呼べる」

ネスティとアメルの悲鳴をバックにマグナは舌を動かし、もう一度トリスへ言った。

「……あっ、そうか! あの時と同じ……分かった、マグ兄」
トリスの瞳が徐々に力を取り戻し、マグナの考えを理解する。
双子は互いに頷き合い、それぞれに手を合わせ自分の中に眠る全ての魔力を出した。

「ハサハが道を作る」

マグナとトリスの魔力が透明な光を撒き散らし、周囲に散らばる蒼い光を取り込み徐々に深みのある蒼へと変化。
その塊を捉えハサハが宝珠の力を蒼い輝きへ差し出す。

「ほらメガネ、オンナ!! お寝んねにゃまだ早いぜ」

バルレルはメルギトスの干渉を無理矢理断ち切り、ネスティとアメルを抱え蒼い光の正面へ立つ。
ふらつく両足を叱咤し、ネスティ・アメルに悟られないよう踏ん張った。

「逃げないよ、負けないよ、そして……関係ないよ。俺はマグナ。クレスメントの家名はあるけど関係ないんだ。
俺は俺自身が大切だと思う仲間の為に戦うんだ。過去の因縁なんて二の次だ」

「諦めないよ、投げないよ。わたしは本心から笑いたいの。クレスメントの名前はついて回るだろうけど、友達が居る、仲間が居る。
一人じゃないから我慢しない、 を助けたい気持ちは義務感じゃなくてわたしの本心なの」

膨れ上がるマグナとトリスの魔力。
運命を操ると言われた調律者の二つ名そのままに、無限とも感じられる魔力が闇を覆いつくした。

光が闇を包み込み、ハサハの宝珠が道を拓きバルレルが、ネスティがアメルがその名を呼ぶ。


「吹っ切れたか? クレスメントの末裔よ」

ガラス同士がぶつかり合って奏でられるような涼やかな音色。
周囲を満たす蒼。
足元まで届く蒼い髪を揺らし、悪戯の成功した子供の瞳で全員を見据える。

少女の第一声にマグナとトリスは弱々しいながら、表情筋を酷使して口元に笑みを湛えた。

「それにしてもネスティ、アメル。汝等自殺する気か?」

背中の蒼い羽を広げ、大量の魔力をネスティ・アメルに送り揶揄する彼女、本来の姿を取った に二人は難しい顔をした。

「メルギトスを倒したい義務感からじゃない。仲間を助ける為に必要だと思ったからさ」
バルレルに抱えられたままネスティが不満も顕に へ文句を言う。

「あたしだって! 親友を助けたい村の女の子として頑張ったのに……」
アメルも恨みがましい目線で を睨む。

「すまぬな、何事にも真面目な汝等を見ているとついからかいたくなる。さて最後の仕上げと行くか。汝等の力を叩き込んでやれ、ここはメルギトスの内部だからな?」

の放つ蒼い光が闇を追払い、闇が去ったその場所には機械と悪魔の肉体が融合したような不可思議な場所が広がっていた。

ドクドク波打つ肉の気配と、銀色に光る機械の配線。
ネスティが持つ融機人の肌を更にグロテスクに模した雰囲気を持つ。

トリスとアメルは思わず悲鳴をあげ、手を取り合って飛び上がった。

「うわ……メルギトス、本当に機械と融合したんだ……」
案外大物? マグナが転がった大剣を拾上げ、血管らしき場所を剣先で突く。

「(こくこく)」
ハサハも元の姿に戻り手にした小太刀でマグナと同じ行動を取る。

主従の間抜けな、というよりかは笑える行動に、バルレルと は口に手を当て衝動を堪えた。

「君は馬鹿か!!!」

本当の本当に最後の戦いだというのに、緊張感の欠片もない。
マグナの呑気さは生来のものだがこれは酷いだろう。

ネスティが額に青筋浮かべ鉄拳をマグナにめり込ませ、久々の十八番台詞を口にする。

「この場所気味が悪いし、早く終わらせちゃおうよ! ネス〜。マグ兄〜」
鳥肌モノの光景に耐え切れず、その場で足踏みしながらトリスが兄弟子と兄を急かした。

「あたしも見ていたくない……」
アメルもトリスと同様、冴えない顔色で挙手。

少女二人が心底嫌悪しているのは明白で は数秒間思案顔をしていたが、懐から銀色に光る小さな物体を取り出した。

「我が正気を保っていられたのは半分ゼルフィルドのお陰なのだ。このメモリーが我を助けてくれた。これを介してメルギトスへ魔力を送れば全ては終わる」
愛しそうに は指先でゼルフィルドのメモリーをなぞる。

の言葉に取りあえず外の仲間達の安否も気になるので、面々はゼルフィルドのメモリーを介してメルギトスへトドメを刺した。

激しく揺れる内部と何かの崩壊の音と、悲鳴。
呆気ないといえば呆気ない幕切れに実感がわかないネスティとアメル。
なんだか気が抜けてしまったマグナとトリス。
バルレルとハサハは の傍らで何かを感じ取っていて少し落ち着きがなかった。

「ふむ、これでメルギトスも身体を失い暴走を始めるであろう。悪魔が撒き散らす負の魔力、あれをなんと申すのか?」
外の様子が見える が宙を見据えたまま疑問を発する。

「源罪だ」
バルレルがぶっきら棒に答えた。

「あれを野放図に出来ぬ故、一計を案じたいと思う。どうだ? 乗ってみぬか?」
のその後の発言にバルレルは呆れ、流石にアメルやハサハも。
絶句して二の句が告げなかったのに。

意外にもネスティとマグナ、トリスがその案に賛成した。



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