『話題休閑・因果を超える者2後』



一方、外でメルギトスと戦っている者達も命がけだった。
内部のマグナ達もそれなりに命がけだったのだが、こちらもこちらで必死である。

倒しても再生するメルギトスに舌打ちしながら全員が力を振り絞って各々の武器を振るう。

『ガアアァァァアアアアア、馬鹿な、バカな……わたしの身体が……』
どれ位の時間、そうして戦っていただろうか。
メルギトスの内部から四方八方に光が伸び機械魔となったその肉体が崩壊を始める。

絶叫するメルギトスと崩れ落ちていく身体。
メルギトスが作り上げた空間は、元に戻り、どこか寂れた空気を醸し出す施設内部の硬質な雰囲気が戻ってきた。

「やったのね、マグナ達」
ケイナが疲れきった身体に鞭打って顔を上げる。
ぎこちなく笑うケイナにフォルテが歩み寄り、立ち上がるのを手伝った。

「はははは……やった……、やったんだ……」
ロッカも幾分現実味がなさそうに呟き、膝を投げ出し床に座り込み槍も手放す。

惚けた兄を横目にリューグも口角を持ち上げて小さく鼻で笑う。

シオンもパッフェルも俄に信じがたいのか身体の緊張を解けず、ぼんやりと崩壊したメルギトスの残骸を見詰めた。

「はぁ〜、死ぬかと思った」
しみじみルウが云えばモーリンとミニスが大爆笑して、ルウの怒りを買う。

眦を吊り上げて怒るルウから逃げるようにモーリンとミニスはシャムロックを盾にした。
困惑するシャムロックの声音と怒りに我を忘れるルウ。
それを茶化すミニスと分かっていないユエルの乱入でたちまち賑やかになる一角。
眺めてカザミネは大きく息を吐き出す。

「ふふふふ、良かった」
「そうだな」
カイナとレナードも戦いの終焉に肩の力を抜きかけ、不気味な何かの気配に背筋を伸ばした。

メルギトスの残骸から立ち上る黒い霧。
綿帽子のような黒い塊がメルギトスの残骸から四散して飛んでいく。

『このままで終わらせてなるものか!!』
怒り狂ったメルギトスの声と、目を見張るルウ。

「……これはもしかして源罪!?」
マグナ達を除いたメンバーの中で一番サプレスに詳しいのがルウだ。
ルウの発言に全員が彼女へ説明を求める視線を送った。

「源罪、それは遥か昔リィンバウムを襲った悪魔達が撒き散らした悪意の塊。人の闇の心を増幅させる邪念の塊よ。
これがリィンバウム中に降り注いだら……源罪に犯された人々が戦いを起こしてしまうわ」

『己の闇の心に砕かれ滅びるが良い、ニンゲン共め』

ルウの説明に覆いかぶさるようにメルギトスは叫び、不意に沈黙する。

蒼い、そう、蒼い光が周囲を埋め尽くし源罪を消し去っていく。
眩しさに目を細めた全員の視界が元に戻れば、何時の間にか自分達は施設の外に居て。
見慣れない大木が目の前に聳え立っていた。

「どうなってるんだい!?」
巨大な樹木に恐る恐る手を触れたモーリンが呟く。

樹木の近くには本来の姿の と、沈痛な面持ちのマグナ・トリス・ハサハ・バルレルが立っていた。

「無事だったんだな! マグナ、トリス、アメル……?? おい、トリス。アメルとネスティはどうしたんだ?」
フォルテが大股でトリスに近づき、ふとメンバーが二人足りない事に気がついた。
肩を揺らしたトリスは涙目でじっとフォルテを見上げる。

「尊い犠牲だった」
逆に冷酷とも言えるほど淡々としているのが で、落ち着き払って口を開く。

「機械悪魔の弱点をつけるのは、融機人のネスティと元天使のアメルだけ。源罪を撒き散らすメルギトスを沈黙させ、尚且つ、それを浄化するには二人の力が必要だったのだ」

の台詞にマグナが俯き、バルレルはそっぽを向いて、ハサハは情けなく耳をヘタリと垂れる。
具体的に説明しないマグナ達に仲間達は悟った。

「もしかして、二人はその力を使って……それでこの木が……」
木に触れていたモーリンが自分の声を遠くに聞きながら、核心を尋ねる。

は声に出して肯定せず一度だけ瞬きを返した。

勝利に浮き立っていた気持ちが一気に沈み、誰もが重苦しい空気の中何も言葉を発せない。
予想以上の展開にマグナとトリスはこの嘘がバレやしないかと内心ヒヤヒヤしていた。




メルギトスの本来の内部。
は真顔であの時、こう口火を切っていた。

「つまりだ。このまま英雄として帰還してみろ、蒼の派閥も金の派閥も。国も汝等を放っては置くまい。往々にして英雄というモノは宣伝に使われるのだ」

突如今後を話し出した に、まだ戦いは終わってないと言いかけネスティは諦める。
彼女のマイペースとどこでも演説癖は今に始まった事ではない。

「調律者の末裔に、同じく融機人の末裔に、豊穣の天使の生まれ変わり。これだけの面子を権力者達が黙って見逃すとも考えられない。
良いか? 綺麗事で政は回っているわけではない、ならばこちらもそれなりの処置を取らねばならぬ」

が言っても実感がないのか、マグナとトリスは首を捻り。
なんとなく の言いたい事が分かってアメルは表情を曇らせる。

「特に危険なのがネスティとアメルだ。先祖伝来の知識と、天使由来の癒しの力を使えるのだからな。よってこの源罪浄化がてら、汝等を一時的に亡き者にしようと思う」

とびきりの笑顔を浮かべた が微笑めば、ネスティとアメルは口を開けたまま。
瞬きも呼吸も忘れてじーっと を凝視する。

「「はぁ!?」」
マグナとトリスは同じ台詞を吐いて裏返った声で叫ぶ。
バルレルとハサハも、成り行きを見守りながら内心はドキドキである。

「汝等の力を使い、大樹を育てる。源罪を浄化する……そうだな、聖なる大樹とでも称せば良いであろう。二人は大樹の化身となったとでも云って、暫くはサイジェントで羽を伸ばすが良い。
頃合を見計らって大樹より戻ってきたとすれば良いではないか? 身を挺して世界を救ったネスティとアメルを、どうこうしようという輩は早々居るまい。
要は手が出せない環境を作ってしまえば良いのだ」

飄々とした態度で告げた の話は荒唐無稽のようで、ちゃっかり色々考えている。

「わたしも後からサイジェントに行くから、そーしようよ、アメル」
沈黙を破るのはトリスで、他愛もない話をする気安さでアメルへ言った。

「そうだよ、アメル・ネス。折角自由を手に入れたのに、下手したらまた不自由になる。そんなのは駄目だ。俺も の意見に賛成だよ」
マグナもこの戦いで凛々しくなった顔を引き締め、大真面目に二人へ意見する。

躊躇うアメルと考え込むネスティ。

「分かった……、そうしておいた方が良さそうだな」
たっぷり数分は考えてからネスティが重い口を動かす。

この事態を招いた人間達を許せそうにないこの気持ちを抱えて英雄視されるのはご免被りたい。
に見抜かれていると悟った瞬間、立場を忘れて暮らせるサイジェントがとても魅力的に思えた。

「飼い殺しにされていた派閥にぎゃふんと云わせられるのだ。溜飲も下りよう。
慣れぬ聖女など引き受けるものでもない。汝もいい加減村娘に戻った方が良かろう?」
「………はい」
駄目押しのように に諭されアメルも反論する余地がない。
少々気乗りがしない調子でアメルが返事を返せば話は纏まり。
大樹を形成する魔力を へ託したネスティとアメルは の力によって一足先にサイジェントへ飛ばされたのだった。


眩しい光の波が引き、ネスティとアメルが目を開くと、少し驚いた顔をしたカノンが。
庭の掃き掃除の途中だろう、箒を片手に固まる。

「えーっと……本物のネスティさん、アメルさんですよね?? ゼラムでの戦いはどうなったんですか??」
ゼラムの緊迫感などこれっぽっちも残っていない。
サイジェント? の青空の下、カノンは取りあえず二人へ尋ねた。

サイジェントの街はイムランを始めとする金の派閥の召喚師を筆頭に、ラムダ率いる騎士団が守りを固めている。
よってカノンは義勇軍に加わる必要もなくなり、バノッサと が帰ってくるのをのんびり待っていた。
そうしたらネスティとアメルが来たのだ、驚かないわけがない。

「実は……」
苦笑いをしながらネスティが説明を始め、事情を聞いたカノンは目を丸くして。
それから箒を片手にバノッサと と自分が住む家のドアを開いた。

「ようこそ、ネスティさん、アメルさん。サイジェントに」

が幕引きをしたなら、間もなく戦争は終わりバノッサ達もさっさと引き上げてくるだろう。
だって恐らくは蒼の派閥の双子も引連れてサイジェントに帰ってくるに違いない。

ここは、サイジェントは、セルボルトの兄妹が再開と和解を果たし。

誓約者達が迷いを断ち切り絆を結び。

とてもお節介な神様が兄姉・仲間達と暮らす故郷で、彼等全員にとって帰るべき家(居場所)なのだから。


「小さな街ですが、ゆっくりしていって下さいね」
彼等を家に引き入れながら、また賑やかな『いつもの』毎日が帰ってきた。
心底嬉しく感じながらカノンは笑いを噛み殺す。

耳の奥に、バノッサに構ってもらって無邪気に笑う の声が響いていた。



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 原作沿いのEDはココまでですが、もうちょっと続きます。ブラウザバックプリーズ