『影は歌う2』



途中、連絡を受けたアグラバインがマグナ一行に合流したり。
多少のハプニングはあったが、マグナ達は無事ファナンへ戻る事が出来た。

久しぶりに見るファナンの街は、ざわめき落ち着きがない。

不思議に思うマグナ達が情報収集に走った結果、浮き彫りになったのは自称吟遊詩人の卑劣な罠。
涼しげな竪琴片手にまことしやかに語るトライドラの陥落。
人々の不安を煽って歩く彼はとても愉しそうな顔をしていた。

「どうして、あの人が」
目の前の映像を理解する事を、心が拒否する。
眼前に展開される光景に呆然と呟くトリス。
マグナも、アメルもショックを受けて、竪琴を鳴らすレイムを眺めていた。

「予想範囲内、だな。レナード、どう見る」

自分がもしファナンを攻めるなら確実にこうする。
レイムのやり方が少々古典的なのは彼が古い思考の持ち主だからだろうか。

小馬鹿にした眼差しをレイムへ送り、 は傍らのレナードへ意見を求める。

「あぁ? まぁ、敵さんも頭がキレるって事だろうさ」
と同じ。
驚きもせず、寧ろ想定できた出来事だけにレナードも動揺が少ない。

やる気がなさそうに答えたレナード。
億劫といった態で顔をレイムへ向けた。

 情報がモノを言うのはどの世界でも共通だろうが。
 ここは情報伝達の分野の発展が遅れておる。
 我が見ていてもどかしいわ。
 情報の浸透が遅い事が裏目に出るか、出ぬか。

ファミィ議長の計らいでトライドラの情報が意図的に遮断されていたファナン。
トライドラの情報をバラまくレイムの語りに聴衆の不安は煽られていく。

「情報収集が難しいリィンバウムでこれだけ情報を持っているという事は、あのレイム、デグレアの手先という事だな。
しかし……情報の価値も扱い方も分っておらぬ。阿呆か、あの吟遊詩人」

一応戦略らしきものがあってファナンへ乗り込んでいる。
らしいのに、稚拙としか言い様のないレイムの言質。

 対峙した時から比べれば質が落ちているように感じるのは我だけか?
 それとも、マグナ達相手だから気を抜いておるのか。
 どちらにせよ、安い挑発だ。

評価を下した の遥か前方ではまだレイムが語っている。

「そうだな」
タバコの煙を吹き出しレナードも気のない返事を返す。

最後尾、 とレナードのダレている姿とは百八十度違う態度。

怒りを顕にするモーリンと、シャムロック。拳を握り締め眦吊り上げレイムを睨む。

「なぁ、 ……そろそろ、止めてやったらどうだ」

耐え切れなくなってレイムに反論を始めるモーリン、トリス、マグナ、アメル。
人々が遠巻きに見守る中、レイムの冷笑だけが周囲に響き耳障りだ。

顔を顰めたレナードがタバコを落とし踵で踏みつけながら を促す。

「ではレナード、老体に鞭打たせて悪いがパッフェル、シオンと共に民衆に混じっているレイムの手先を沈めておいてくれ。我はレイムの相手をするとしよう」
が目だけを動かし民衆に混ざる怪しい人間をレナードへ示す。

服装は一般人風だけれど眼光までは隠せない。
さり気なさを装って周囲を警戒している複数の人間。
マグナ達の目は誤魔化せても、パッフェルを筆頭とした闇を知る人間の目は誤魔化せない。

「OK、掃除係は引き受けたぜ」
レナードは小声で応じ、 の小さな背中を力強く押した。

嘲笑すら浮かべるレイムの豹変、俄には信じきれずアメルが表情を曇らせる。
それが悲しくてトリスは杖を握り締める手に力を込めた。

「トライドラ陥落を吹聴して回るなど、酔狂だな。自称吟遊詩人」
頭に血が上る一部とは真逆。
底冷えのしそうな冷淡な声音でもって はレイムへ話しかけた。

人垣で見えなかった の出現にレイムは微笑を持って応じる。

「事実ですから」
涼やかな態度で言い切るレイムから感じるのは、愉快犯的な悪意。

「デグレア側の人間としては、早くトライドラの陥落をファナンへ浸透させたいと。そう思うのも無理はないが、わざわざ足を運ぶなど物好きよ」
が肩を竦めればレイムの双眸が細まった。

「褒め言葉として受け取っておきます」
余裕の態度を崩さないレイムとの均衡は保たれるかと思いきや、 は徐に聴衆へ身体の向きを変える。

「ファナンの民衆よ。汝等は汝の住処を明け渡すのか? トライドラが陥落したのは事実だが、卑怯な手段によって陥落したとは知らぬだろう。
騎士達は誇り高く悪行を行う召喚師と戦い命を落とした。その騎士達の気持ち、汲んでやらぬ金の派閥でもあるまい?」

「あ、当たり前じゃない!! 金の派閥は絶対にファナンを見捨てたりしないわ」

に話を振られ、ミニスが憤慨した顔で即座に言葉を返す。

「その金の派閥が動かぬのはどうしてだと思う? 無為に時間を稼いでいるだけかと思っておるか? レイムよ」
内心のしたり顔は隠し、次に はレイムへ問いを投げかけた。

「見る限りではそう感じますが」
所詮は烏合の衆だ。
レイムの瞳にまざまざと浮かび上がる感情は手に取るように分る。

 そうやって敗れ去った者がサイジェントでは多かったのだがな……。
 まぁ、ヒトではないレイム相手には理屈は不要であろう。
 疾と味わうが良い、我等の連携を。

「愚かなリ。節穴の目を持って金の派閥を率いるほど彼の者は愚かではないわ。既に金の派閥は策を講じておるし、汝等の一部がファナンへ入り込んだだけでは騒がぬ。
逆に汝等からデグレアの情報を、戦略を引き出せる良い機会だと捉えるだろうな」

 パチン。

優雅な所作で は指を鳴らす。

「手土産に情報を知る兵士さんを連れてきてくれるなんて。本当に親切ですね〜、デグレアさんは」

 どさっ。

石畳に転がり呻く大男。
縄でグルグル巻きにされた男を転がし、パッフェルが殊更爽やかに笑って民衆の前へ姿を見せた。
僅か数分で の意図を理解し、仕事をこなしたパッフェル。

 ふむ、頼りになるな。
 カノンがサイジェントに戻ると決めたのも納得できる。

「……トリス、マグナ、ネスティ。口を開いたままポカーンとするのはみっともないぞ。口くらい閉じたらどうなのだ」
比べて、マグナ達のなんと世間知らずな事か。
内心だけで嘆息し が小声で注意した。
すると慌てて三人が口を閉じ、照れて頬を赤く染める。

「まあ良い。金の派閥と連携を取る我等の強さ、ファナンに住む者達へ示すには丁度良い舞台だ。レイム、汝の精鋭部隊を蹴散らしてやる故、早く攻撃して来い」
指を自分側へ曲げながら今度は がレイムを挑発した。

僅かに目尻を吊り上げるレイムに不敵な笑みを湛える
聴衆は観衆となり事態の行く末を固唾を呑んで見守る。

「……矢張り貴方は敵に回したくない……ですが、我々を甘く見てもらっては困ります」

 ポロロン。

レイムが竪琴を鳴らすとレイムの物陰から黒の旅団員がボロボロの姿で現れる。
流石にコレはレイムも驚き瞠目して を振り返った。

「どうした? デグレアの先遣隊ともあろう汝等がこれ程なのか? 可愛いモノだな」
痛烈な の皮肉にレイムの顔が引き攣る。
「流石は 殿。舌戦では負け知らずでござるな」
微妙に、というか、大幅に的のずれた感動を言葉に変換するカザミネと。
さんを敵に回したくないですね」
乾いた笑みを湛えるロッカと の暴挙を既に諦めているリューグの双子。
「まったくだよ」
最初は自分も頭に血が上っていたがすぐ冷めた。
モーリンも冷静さを以てして、一種畏怖さえ感じてしまう の手際に背筋を寒くする。

「ネスティ、アメル、トリス、マグナ。一発ドカーンと入れてやれ。彼等の目が覚める程盛大な花火を」
レイムを守るべく円陣を組んだ黒の旅団員達。
レイムも含め、無邪気に笑って が目線で示せば、ネスティを除いた三人が喜々としてサモナイト石を取り出す。

アメルが放つサプレスの召喚術と、トリスの放つ無属性召喚術に、マグナが放つシルターンの召喚術。

ファナンの祭りで見たような花火? に近い輝きが周囲を包み、三人の呼びかけに応じた召喚獣がレイム達へ攻撃を加える。

端も外聞もなく逃げ惑う黒の旅団員と、召喚術にさらされつつ をねめつけるレイムの姿は圧巻であった。

「こ、怖えぇよ、お前等」

額に手をあて頭痛を抑えるネスティを他所に、召喚術を連発する三名。
生き生きと戦うユエル(ユエルは事態の重大性を理解していない)や、パッフェル・シオン・ を一瞥。

鳥肌の立った二の腕を擦りバルレルが慄き、更に悪寒を感じて身を震わせる。

「(くいくい)」
そんなバルレルの腕を遠慮がちにハサハが引っ張り、ある一点を指差す。
「あぁ!?」
柄悪くバルレルが応じるが、ハサハの指先の延長上。

アメルがニッコリ笑ってバルレルを手招きしている。
背中から出されたアメルの天使の翼、バルレルを脅迫するかのように白々と輝いた。

「……いかないの?」
「ったく、どいつもこいつも感化されてんじゃねぇよ」
ブツブツ口内で文句を言った後、バルレルは渋々愛用の槍へ手を伸ばした。


Created by DreamEditor                       次へ
 逆ハーちっくになりつつ、新たなダークホースもそろそろお出ましの気配。
 アグラバイン出番ナシ……ご、ごめんよ。ブラウザバックプリーズ