『話題休閑・影は歌う2後』




「「可愛い〜!!!」」
モーリンの道場の一室で、アメルとトリスが奇声を発する。
強制的に場に居合わせたネスティは咄嗟に耳を両手で塞ぎ、出遅れたマグナは目を回した。

「?? そうか?」
カイナとお揃いの巫女装束。
蒼い瞳と髪を持つ の為に、紅白ではなく紺白で構成された渋めの巫女装束である。

「ええ、とってもお似合いですよ」
着替えを手伝ったカイナがニコニコと笑う。

ケイナは話には聞いたものの、初めて見る 本来の姿に見惚れていた。

「サイジェントのお兄さんやお姉さんが過保護になるの、すっごく分る。ねぇアメル」

戦闘や戦略において最強を誇る割に、感情に疎い。
しかも己の実力を考慮し、全てを保護対象と考えるそのぶっ飛びぶりと。
案外ボケ属性であるその性格。

仮の姿の も十二分にツボだったけれど。
本来の もツボだ。と、トリスは考える。

「ええ、そうですね! トリス」

に感じた懐かしさ。
天使として生きてきた魂が、 に反応しただけ。

聞けば はアメルを刺激しないようにわざと距離を置いていたという。

出自を知らないアメルの為に。
その癖、アメル達の危機には横槍を入れていたというから、 のお節介振りにはアメルも驚愕。
驚愕したが、深い感謝もした。

アメルを、アメルとして誰よりも早く扱ってくれた に対して。

「確かに兄上や姉上は過保護だが、信頼もしてもらっているぞ」
やや拗ねたように口先を尖らせる は大層可愛らしい。

の仕草に、手に手を取り合って「「きゃーv」」と叫ぶミーハー調律者と元天使。

「そ、それよりも。 って本当に神様だったのね」
すっかり会話に入るタイミングを逃してしまったケイナが、漸く会話に割り込んだ。

「うむ。サイジェントの家族も、友も最初は取り合ってはくれなんだ。我の行動が凶悪だと言いおる。
……だが生きる為に綺麗事を並べても仕方あるまい。家族も友も皆孤児が殆どだったからな」

現在は皆きちんと働いてサイジェントの街を盛りたてている。
過去の野盗追い剥ぎを持ち出されても、あれはあれ。
これはこれ。
であろう。

「野盗の追い剥ぎだから、結果的に悪事を止めてたって事にはなるんだよね」
カザミネやシオンから聞いたサイジェントでの
逞しかった、いや、今も逞しい の隣をちゃっかり陣取って。
復活したマグナが笑顔で言った。

 それは微妙に違うのでは。

密かに妹弟弟子の教育方針が大間違いだったのかと苦悩するネスティ。

咎める視線をマグナに送ろうとして固まる。
無邪気なマグナは健在なのに、アメルから学んだのか、カノンから学んだのか。
僅かに黒いものを放出してネスティに口角を持ち上げて見せて薄っすら笑っている。

 コ、コワッ。

腰から脳天へと駆け上がる悪寒。
ネスティは元々良くない顔色を更に悪くして、マグナから目線を逸らした。

「日々の生活にだってそれなりに軋轢はある。自身が守りたいものと相手が守りたいもの。
違えてしまえば大なり小なり争いが起きるのだ……ならば、我は我が信じ、助けたいと思った側について戦うつもりだ」
レイムと戦った件を遠まわしに は説明し始める。

 最初はアメルやトリスに反対されるかと思ったが。
 最後の方は愉しそうに戦っておったな? どうしてなのだ??

とレイムを天秤にかけ 側に大幅に傾いたアメルとトリスの脳内会議。

二人の少女が内心『 って可愛い妹みたいv』なんて考えているとは露知らず。
あれだけ懐いていたレイムをサクサク攻撃していた事実を疑問に思う。

「たとえ我の行為が世間一般で言う『悪』であったとしてもな」

バノッサを助けた事。
現在も尚ルヴァイドやイオスを筆頭とする黒の旅団を助けようと思っている事。

口に出せないけれど、決意だけは理解していて欲しい。

は淡く笑った。

「だとしても はわたし達の大切な仲間よ?」
「そうだよ!  はわたしの親友だもん! 理由もないのに が人を傷つけないって知ってるし。ちゃーんと後でそうした理由を聞くもん」
取り成すケイナのフォローに、トリスが便乗して口早に告げた。

「あたしも、 とは親友になりたいしv 良いでしょう?」
天使の本能が疼くのか、アメルが笑顔を崩さずマグナを押しのけ の手を握る。
「親友になるもならないも、汝等は出会ったときから我の友だぞ」

狭かった視野が一段と広がった。
教えを請うのに人も神も召喚獣も関係ない。

にしてみれば友の種族が違うなど些事である。

「嬉しいっ」

 がばっ。

に抱きつくアメルに「羨ましい〜、わたしも」なんてトリスまで抱きついて。
二人の少女に抱き締められ は苦しげに頬を赤く染める。

「可愛い……」
遅い春が到来したらしい弟弟子の脳内は桃色一色。
運悪くその一言を聞いたネスティは激しく脱力して壁に背を預けた。

自身の生い立ちを悩んでいた頃の自分が馬鹿馬鹿しく思えるほど、何もかもが変わりがなく。
マグナもトリスもネスティを兄代わりに慕い、ネスティも手のかかる弟妹弟子達の強さに呆れ、喜ぶ。

「まったく……敵わないな」
融機人である自分を『仲間(異界の友)』という括りで片付けた の豪胆さ。

他の仲間も唖然としていたが、 の態度につられネスティへ普通に接している。
ネスティは身体の力を、緊張を解いてぼやく。

「ふふふ。ですけど分け隔てない さんの態度は、素敵だと思いませんか?」
鬼神の巫女がネスティの思考を見透かし、目の動きだけで抱き合う三人の少女を示す。

「ああ、素晴らしいと思うよ」
トリスとアメルの牽制に恐れをなして に近づけないマグナ。

その姿はお預けを喰らった子犬そのもので笑いを誘う。
ネスティは笑いを噛み殺しカイナへ答えた。



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 そして始る喜劇? トリスが主人公の本来の姿を見たいとダダこねて(マグナは見てるから)
 ケイナが結界を張ってご対面となった、レイム戦後の夕方。って設定。盛り込むの忘れてました・汗。
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