『影は歌う1』




騒動も治まり、マグナ・トリス両名は蟠りを抱えながら、それでも前向きに笑う。
「トリスと導きの庭園で喋ってて、気晴らしにゼラムの町をブラブラしてたんだけど。気がついたら遺跡に居てさ。どうして遺跡に行ったのか、覚えてないんだ」
マグナが天使の羽を持ってアルミネスの森へ向かったのは周知の事実。
経緯を聞こうと、ギブソン・ミモザ邸の居間に集合する仲間達。
彼等を前にマグナは力なく笑って何も覚えていないと告げた。

 マグナを使って、あの遺跡に接触しようと試みた者。
 クレスメントの先祖が申して追ったように、アイツなのだろうが。
 脇を固める者達もおったようだし、暫しは傍観だな。
 黒の旅団の宿世も定まらない今、我が干渉する事も出来ぬ。

マグナの隣でまったく違う事を考え、 は親指の爪を噛む。

「君は馬鹿か!!! どれだけアメルとトリスと僕に心配をかけたか、分っているのか」

 どっかーん。

ファミィ議長ほどではないものの、それなりに大きな雷をバックにネスティが額に青筋を浮かべる。

「ご、ごめんっ! ネス!! このとーりっ」
ネスティの怒りは半端じゃない。
これまでの付き合いから察したマグナは、両手を合わせてネスティを拝む。

「そうですよ、マグナ。あたし達、とーっても心配してたんだから」

 にっこ、にっこ。

こんな擬音がピッタリ当て嵌まるアメルの笑顔。
瞳は笑っていないオプションつきの笑顔にマグナの額に汗が浮かんだ。

「ネス! アメル! お願いだからマグ兄を許してあげて〜! 悪気はなかったの」
マグナに先立って二人からたっぷり説教を頂戴したトリス。
涙目になってマグナを庇い、必死に擁護する。
兄想いのトリスにマグナも感激し、双子はひっしと抱き合った。

「ト、トリス!!」
「大丈夫! マグ兄! 二人で耐えればネスとアメルのお説教も怖くないから」
これがリィンバウム未曾有の危機を巻き起こした、クレスメントの末裔である。
ネスティとアメルの説教を怖がり、震え上がっている姿。は、何処からどう見ても。

「情けねぇな」
仲間の輪から外れて紅茶を飲んでいたリューグが、率直な感想を洩らした。

「そうかな? 僕には良いことだと思うよ。今までネスティさんもアメルも。言いたい事を我慢して、気持を誤魔化してたんだ。きっとマグナも、トリスも。
自分の正直な気持を打ち明けられる信頼関係があるっていうのは、良いことなんじゃないかな?」
お人好し街道まっしぐら。
なのに、ちょっぴり黒属性?
ロッカが説教されるマグナ・トリスを微笑ましく見守りリューグに反論した。

「そうですね。信頼関係が作り上げた絆が齎す力は強大な力になります。一年前に見た身分としてはロッカさんの意見に賛成です」
お蕎麦の差し入れを終え、台所から戻ってきたシオンが目を細めマグナとトリスの姿を見る。

ネスティにガミガミ怒られ、アメルに笑顔で釘を命一杯打ち込まれ凹む双子。
終いには、マグナの隣に座っていた を盾にネスティ・アメルを拝み倒している。

「悲しい過去は覆らないけれど、ゲイルという名の遺物も残っていますけど。何も知らないで事件に巻き込まれるよりかは。
悲しみを乗り越えようとする前向きなマグナさん達の方が何倍も、何倍も心強いです。わたしはそう感じます」
話の輪に加わらず、一歩引いて彼等を眺めるカイナも顔を彼等に向けたまま。
静かに会話に参戦。

穏やかなカイナの喋りにロッカは嬉しそうに表情を緩め、リューグは憮然とした顔でそっぽを向く。

「ああ、あーゆう顔のマグナとトリス。んでもってネスティとアメル。素の顔って感じで良いじゃないか。ちょっとアメルが一皮剥け過ぎた感じもするけどなぁ」
腕組みしたフォルテが一人「うんうん」と頷き、悦に入る。

因みにマグナとトリスの護衛獣、ハサハ・バルレルは長い説教に眠気を誘われ、ソファーの隅で舟をこいでいたりして。
主を助けるどころか、既に自分達が疲れきっているので夢の中である。

「確かに今迄で一番良い表情をしているわね、あの四人」
ケイナも安堵した様子でフォルテの意見に同意した。

「さて、説教を長引かせるのは得策ではないでしょう。わたしの差し入れを、マグナさん達へ運んであげませんか?」
シオンの視線がため息をつき盾にされる を捉える。

カイナとケイナが、シオンの視線の先の を見てクスクス笑い合い。
フォルテとリューグ、ロッカを誘って台所に消える。
シオンも数秒間 を観察していたが、やれやれと頭を振って台所へ舞い戻って行った。

片や、盾にされた格好の
うんざりした顔で、ネスティとアメルの怒れる顔を数分間はたっぷり堪能して。
飽き飽きしている。

 マグナを筆頭とした彼等がふっきれ、道を選んでくれたのは嬉しい。
 我の加護が存分に与えられる条件が整ったからな。
 しかし何故、我が盾にされなければならぬのだ。

 はぁ。

肩を落とす とは対照的に、ネスティとアメル、両名による説教は終わりそうにもない。
見ていたモーリンは段々 が気の毒になってきて口を挟んだ。

「ちょいと、ネスティ・アメル。二人がトリスとマグナを心配してたっていうのは、よーく分るからさ。それ位でお止めよ」
モーリンからの意外なフォロー。
受けて感謝の気持一杯に瞳を潤ませ、モーリンを見詰めるトリス・マグナ。
納得いかない顔つきながら、口を噤むネスティ。

アメルは素直に「はい」なんて返事をモーリンへ返していた。

「そうよ〜? あんまり を頼ってると、保護者に殺されるからね♪」

冗談なのか真実なのか。
判別しかねる軽い口調。

ミモザが茶々を入れれば青ざめる、ネスティ・マグナ・バルレル。
トリスとアメルは意味が分らず互いに首を傾げあった。

「そこまで過保護ではありませんよ。良い機会なのでボクとガウムは一旦、サイジェントに帰るつもりです」
蕎麦の盛られたザルを片手に持ったカノンが居間へやって来た。

席に座る者から順に蕎麦のザルを手際よくおいていく。

あれ程 に近づく事を認めなかったカノンが、遂にマグナ達を認めたのか!?

僅かに驚きギブソンとカザミネが同時にカノンの顔を見た。

「ボクの代役も見つかりましたし、 さんの身柄に関しては安心できるので」

 にこぉ〜。

アメルとは違った意味で笑顔が怖い。
愛想の良い笑みを周囲に撒き散らし、カノンはさらっと色めきだつ一部に釘を刺す。

「はい♪ お任せ下さい、カノンさんっ」
パッフェルが満面の笑みを湛えて胸を張る。

「わたしも居りますので、安心して下さい」
続いて台所から出てきたカイナがカノンを安心させるよう、力強く宣言した。

元暗殺者のアルバイターと、現シルターンのエルゴの守護者。

「うわぁ……相変わらず、 の周りって濃い」
ミニスが呆然と呟く。誰もミニスの発言を咎めなかったし、肯定もしなかったが。
正に『その通り』と胸中だけで拍手を送る。

「……ま、まぁ、兎に角。今後はどうされるおつもりですか?」

 ゴホン。

わざとらしく咳払いをしてシャムロックが話題を変えた。

自分が助けられてから随分と波乱に満ちた日々を送っていたけれど。
様々な事件がマグナ達を襲ったが、それも一段落。
落ち着いたが根本的な解決にも至っておらず。
和やかな空気を乱すようで心苦しいが、シャムロックは生来の生真面目さを発揮して今後の話し合いへ水を向ける。

「あ、うん。マグ兄や、ネス、アメルとも話し合ったんだけど。ファナンへ行こうって決めているんだ。トライドラが陥落した次はきっとファナンを狙ってくる筈だもん」
慣れない手つきで箸を操り、蕎麦と格闘しつつトリスが答える。
「順当に攻めてくるとなれば……よっと……それが妥当だな」
トリスと同じく箸に苦戦中。
レナードが危なっかしい箸使いで蕎麦をつまみ上げ、身長に蕎麦汁の入った器に蕎麦を落とす。

シルターン出身組とミモザ・ギブソン・エルジンを除いてのメンバーは蕎麦に苦戦していた。

「相手は黒の旅団だけじゃない筈だ。ガレアノを始めとする召喚師達も関わってきているとなれば、油断は出来ない」
ネスティはゆっくり箸を使い、蕎麦を食しながら冷静に言う。
「そうだな。ネスの言う通り油断できない相手だ。でも ? 君の事は絶対に俺が護るから! 俺頑張るよ」
一際気合を入れたマグナが何故かここで『 を護る』宣言。
「? 我は己の身くらい護れるぞ」

 しかも護るのはアメルやトリスではないのか??

は疑問を抱きつつ小首を傾げる。

ネスティとバルレルが謀った様にタイミングよく蕎麦を喉に詰まらせた。

「分ってるけど、友達として心配なんだ」

ゲイルの素体に向いていると言われてたし。
自分の目を覚まさせる為に殺されかけてみたり。

無謀としか思えない の行動は、マグナの庇護欲を大いにかき立てている。

「気持だけ受け取っておく。有難う、マグナ」
マグナの無自覚の好意に気がつかない の返事。

何故か遠い目をしてため息をつくカザミネとエルジン。
基本的にボケ属性同士、マグナと の意思疎通は道のりが遠いかもしれない。

微妙に噛み合っていない とマグナである。

「マグナ……頑張りますね……」
「うん! 頑張れ、マグ兄」
の性別を早くから女の子だと認識しているアメル&トリス。
早くもマグナの気持を察してトリスは小さな励ましを、アメルは率直なコメントを送ったのだった。


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 あれ? 吟遊詩人は?? なんてツッコミはスルー(笑)ブラウザバックプリーズ