『封印の森にて1』



スルゼン砦での作業、続けていた四体の竜が一斉にある方角を向く。
も同じある一点を睨み眉間の皺を深くした。

 結界が破れた音がしおる。近くにおるのは……まさか!?

の身体に深く流れ込んでくる霊界サプレスの魔力。
いち早くレヴァティーンも反応を示し瞳を細めて へ小さく鳴いた。

「カノン、ガウム、リューグ。急いで乗れ」
首を下げて翼を低く保つレヴァティーン。
顎先で示して自分はさっさとレヴァティーンの背へよじ登る。

切羽詰った の気迫に驚きながらも、カノン達は走ってレヴァティーンへ近づきその背に乗った。

「汝等は戻っておれ」
飛び立つレヴァティーンの背から が怒鳴る。
きちんと の言葉を聞き取った残り三体はそれぞれの属性の色を発しながら帰っていった。

 ……偶然なのか?
 定めにより仕組まれた宿世なのか。
 果ては元来トラブルに好かれる性質なのか。

 トウヤ兄上やハヤト兄上並みのトラブルメーカーだな。

結界から漏れ出す悪意と牙をむいているであろう、悪魔。
蠢く気配がする鬱蒼と生い茂った森。
眼下に見えて は一人嘆息する。

「この森の結界が壊れた。理由は分らぬがアメル達の気配がするのだ、同じく封印されておった悪魔の気配も。
リューグ、カノン、ガウムは三人で行動して誰かを見かけたら加勢してやれ。そして時を見計らい逃げるのだ。良いな?」
大空を高速で移動するレヴァティーン、耳元で鳴り響く風にかき消されない様。
が声を張り上げればカノン達は了承の代わりに頷いた。

「我は故知の気配もある故、そちらへ参る」
言い捨てて、上空何十メートルの高さから、 は森へとダイブした。

「!!!!」
大抵の の奇行には慣れてきたつもり。
でも、これは流石に驚いた。

腰を抜かしそうになるリューグ。

対照的にカノンは「気をつけてくださいね〜」なんて手を振っている。
「キュ」
リューグの腕に頭を摺り寄せ、ガウムが悟った顔で首を左右に振った。
ガウムの瞳が『深く考えるだけ無駄』だと言っている。

「考えても仕方ねぇか」
ガウムに慰められつつリューグは大きく息を吐き出し、無理矢理自分を納得させた。



同時刻、ネスティとバルレル、それにマグナは森から湧き出る悪魔達に包囲されて絶体絶命の大ピンチ。
アメルやトリス達を先に逃がせたのは幸いだが。

「おい、ニンゲン!! これじゃぁ、俺達がヤバイじゃねぇか」
槍を突き出しながらバルレルが悪態をつく。

「仕方ないだろ!! こうなるなんて、誰も予想してなかったんだからさ」
大剣を振るいながらマグナは苛々した口調で答えた。
ネスティは青ざめた顔のままロレイラルの召喚獣を呼び出し悪魔兵を威嚇する。

「オノレェェエエェェェ!!!! 調律者メェエェエ!!」
女性の姿に似ていても、悪魔兵。
腕力も魔力も強い。

その一体が憎しみの篭った瞳でマグナを見据え、手にした槍を回転させたその時。
音もなくソレは振ってきて、マグナを直撃した。

「あう……」
脳天直下の衝撃に、目を回してマグナが地面へ倒れ込む。
コントも顔負けの衝撃映像にバルレルとネスティは互いに動きを止めた。
マグナに襲い掛かってきた件の悪魔兵も。

「ふむ、少々着地に失敗したが……まぁ良い。バルレル、ネスティ、無事か?」

蒼い髪・瞳。
滲み出るのは神々しい魔力と、威圧的な雰囲気。

外見だけは華奢な、造形美に溢れる美少女。
手にした銃の安全装置を解除しながら、バルレルとネスティへ声をかける。

「「 !?」」
滅多にないバルレルとネスティのハモり。
顎を抜かす勢いで驚愕する二人に、そこまで驚かなくても、なんて は一人苦笑した。

「グルゥガアアアアア」
悪魔兵も一瞬だけ虚をつかれたが直ぐに立ち直り、 へ槍を突き出す。

は魔力の障壁を作り上げ槍を防御。
手で握った銃を構え、無造作に悪魔兵の眉間を貫いた。
赤い光線が悪魔兵の頭を通過し、悪魔兵は地へ崩れ落ちる。

「死にたくなくば、結界があった場所まで逃げるぞ。バルレル、マグナを運んでやれ」

うわ言を呟くマグナを銃口で示し、 は睨み一つで悪魔兵を威嚇。
銃を構えなおして近寄る悪魔兵達を悉く打ち抜き。
ついでに、彼等の進路を阻むべく周囲の木々も打ち倒す。

「神が銃を使うのか……」
色々な意味で想像を砕かれたネスティ。
騙された気分になってついつい本音を口にした。

「悪いか? ヒトが作った武器全てが危険なわけではない。使い方一つだ」
飄々とした態度を崩さず言い切って、 は後退を始める。

「誰かを守る為に結局は他の何かを傷つけてしまうのだ。大層な理由があったとしても、結局、力を振るう事は当人のエゴ。それだけ理解しておれば良いではないか?」
正面を向いたまま後ずさりつつ、 はネスティへ応えた。

バルレルがマグナを担ぎ上げ、先頭に立って結界位置まで戻るべく歩き出す。
その後をネスティが続き、戦闘能力の高い が最後尾。
悪魔兵も の強さを察知して迂闊に攻撃はしてこない。

「……」
の台詞にネスティの表情が一層険しくなる。
何かを堪える、耐える者の顔。

 キール兄上に似た顔をしておる。
 音も乱れ、最高潮の不協和音を響かせて……誰にも頼らぬのがネスティらしいが。
 それはそれで愚策よ。
 頼る者がおるからこそ、強くなれる。
 頼られるからこそ強くなれる。

 覚悟なく流されてきただけのネスティにも、そろそろ己と向き合ってもらわなければな。

ネスティがどんな秘密を抱えているのか。
に詮索するつもりはない。
ただ、この先ネスティが後悔しない選択をする為には。
ネスティ自身の損得を捨てた決断が必要だと感じるだけ。

「何かを傷つけてまで戦えぬのなら、トリスもマグナもアメルも。皆を見捨てて蒼の派閥へ戻れば良い。戦う覚悟が出来ないのなら、な」

冷たいようだが今しか告げるチャンスがない。
銃を連続して撃ち放し、 がネスティだけに聞えるよう小さな声で言った。

 ビクリ。

ネスティの肩が激しく揺れる。

「それから、義務感だけで生き続けるのは止めるのだな。生きたくとも生きられぬ命に失礼だ。生きるも死ぬも本来は汝の自由。
何に縛られているのか分らぬが、第三者が汝の全てを支配出来る等と思い込むでない」
が狙って挑発すれば、ネスティの顔色が変わる。

怒りと悲しみと憎しみが入り乱れた顔へ。
悪魔兵の掲げた剣へ銃を打ち込み は薄っすら笑った。

「我個人の意見としては、汝には死んで欲しくないがな?」
外見を裏切らない可憐な微笑み。
戦闘中にその笑みを見せるのは非常識だと、マグナを運ぶバルレルは思った。

案の定、ネスティは口を開いたり、閉じたり。
陸に上がった魚のように口をパクパク動かしている。

「汝の魂の音色は本来とても涼やかなのだ。消えてしまうのは悲しいし、辛い」

背中に仕舞った羽が広がった。
は羽を広げ青い光を周囲に放つ。
異界の神が放つ光は聖(ひじり)の力に満ちている。

悪魔兵達は怯んだ。

「結界封印」
が放つ光が一段と輝きを増し、透明な何かが悪魔兵達を森の奥深くへと追いやった。



「流石だね、 さん」
ゴーグル姿の子供がのんびり笑って へ近寄り。
「久シイナ」
赤い機体の機械兵士も子供と揃って に近づく。
気配無く現れた二人組にバルレルとネスティは身構えた。

「案ずるな。彼等はサイジェントで知り合ったエルゴの守護者だ」
銃を懐へ仕舞い が子供と握手を交わし、次に赤い機体の機械兵士と握手。

「は……?」
ずり落ちた眼鏡の位置を直し、ネスティが間の抜けた問いかけモドキを声に出す。

バルレルといえば腕組みして胡散臭そうに二人組みを眺めている。
が発した単語にありえないというか、信じられないモノが混じっていたような。
気がして。

「機界ロレイラルのエルゴの守護者・エスガルドと、その庇護者・エルジン・ノイラーム。我の知り合いだ」
混乱するネスティの様を観察しつつ、駄目押と謂わんばかりに はもう一度言った。

「始めまして、エルジンです」
「えすがるど、ダ。宜シク」
ネスティが混乱を極めていると知っていて、笑顔で挨拶する辺り。
エルジンも、エスガルドもちょっぴり性質が悪い。

バルレルが不機嫌な顔で鼻の頭に皺を寄せ。
気を失っている真っ最中のマグナに目線を落とす。
このニンゲンの運の無さに関心すら覚えながら。

「エルゴの……守護者? そんな馬鹿な」
「目の前に居るであろう? 汝こそ馬鹿か」
呆然と呟いたネスティ。
はネスティの十八番を口真似して、ニヤリと笑った。




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