『話題休閑・封印の森にて2後』
気がついたら森の外側。
アルミネスの森の結界を見張る召喚師・ルウの家に居て。
疲れきったネスティとバルレルと。
エルゴの守護者だという三人が居た。
途中から記憶が途絶えた己を、双子の妹が大層心配してくれたが。
森の真実を知ったアメルの疲れきった顔の方が心に痛い。
中途半端に寝てしまった身体は睡眠を求めておらず、マグナはルウに許可を得て小屋の外へ出た。
「はぁ……」
星空を見上げマグナは嘆息した。
自分の望んだ結末とは大幅にずれて行く毎日。
召喚師として成功できなくても、ネスティとトリスに迷惑を掛けないよう頑張る。
決めたのに、何一つ成しえないで居る己。
苛立ちが募る。
「……疲れた顔」
白いフワフワしたモノがマグナの視野を掠めたかと思えば。
いつぞや、ゼラムであった不思議な美少女が微笑みながらマグナの真正面に立っていた。
白いワンピースの裾が夜風に煽られて小さく膨らむ。
「????」
目を擦り、何度も瞬きをしてマグナは少女の姿を確認する。
鳩が豆鉄砲を食らった顔のマグナに少女はクスクス笑い。
マグナの真正面へ座り込む。
鈍く回転する頭で、マグナはこれはきっと夢なんだと結論を下した。
どんな偶然が重なろうとも、ゼラムに住む少女がこの場所に居るわけが無いのだから。
「悩んでる顔」
マグナの眉間の皺を指先で突いて茶化す少女の言葉は穏やかで。
つられる様にマグナのささくれ立つ心も落ち着き始める。
「うん……そうかもしれない。分らない事だらけで凄く焦ってるんだ」
夢なら何を相談してもいいや。
内心考えて気持ちを切り替えたマグナは本心を零した。
「アメルのお祖母さんの村は森になかったし。森はアルミネスの森で。凄く昔に悪魔が封印された危険な森だったんだ。
結界がアメルに反応して解け悪魔が沢山出てきて。俺をろうらーって呼んだ」
膝の上に乗せた両手を組み合わせ、マグナは目を伏せる。
「ろうらー?」
少女は不思議そうな声音でマグナの発した単語を反芻した。
「そう。ろうらー。聞いたこともない言葉の筈なのに、胸の奥底は納得してる。ストンって落ちるんだ、心の中に、その単語が。
俺はその言葉を知っている。俺じゃなくて、もっと奥深い何かがそれを知ってる」
奥歯をきつく噛み締め、マグナは目に力を込める。
そうでもしなければ、落とした目線に納まっている少女が消えてしまうような気がした。
「こんな時、
だったらどうするんだろう? もっと上手に完璧に問題なんて解決しちゃうんだろうな」
どうして、そう言いたくなったのか。
マグナ自身にもサッパリだったが。
思わず愚痴混じりのやっかみが口をついて出る。
「
とマグナは別人」
少女が小首を傾げてマグナに告げた。
「でも時々、
みたいになれたらなぁーって思う。強いし、頭も良いし、なんでも出来る。魔力も中途半端で剣の腕も中途半端な俺とは違うから」
自嘲気味に言い捨ててマグナはもう一度ため息をつく。
少女はマグナの言葉に目を丸くして、それから苦笑して。
マグナの手に自分の手を重ねた。
「マグナはマグナだから大切。
と違うから、大好き。皆はマグナを大切に想っている。……わたしも」
淡く笑う少女の屈託ない表情。
彼女の顔と台詞に赤面して、マグナは口を開いたまま固まった。
真夜中の月明かりだけが頼りの周囲の景色に溶け込む、少女の蒼い髪。
瞬くように光りマグナの赤く染まった頬を照らし出す。
「一人じゃない、皆居る。勿論わたしも。悲しみを一人で抱え込まないで、苦しいなら頼って欲しい。皆を、わたしを」
微妙なバランスで保たれているマグナの心。
これが深い闇に染まってしまえば、 にだって成す術は無く。
マグナの無自覚魔力が高いせいで、 の加護も届かないのが現状だ。
トリスは明るさを取り戻しているが、マグナは未だ迷いの中を彷徨っている。
「ありがとう」
少女が真に自分を案じてくれているのが分る。
例え夢でも、幻でも。
自分の願望が見せているものだとしても、嬉しくてマグナは素直に感謝の気持ちを少女へ伝えた。
少女がゆったりした仕草で首を横に振る。
マグナは知らないのだが、 とマグナの会話の最後の方。
ちゃっかり聴いている出刃亀が三人。
ルウの小屋の死角から交流を深める二人の様子を探っている。
あの尊大な神様の意外な一面。
目撃してしまい、なんとも言えない気持ちになっているのがネスティ。
眉間の皺が通常比1.5倍。
「……
さんは純粋にマグナさんを助けたいんですよ」
ネスティの複雑そうな様子。
盗み見てカノンが小声で注釈を入れた。
「だろうな」
妙に悟った顔のバルレルが顔を引き攣らせて、鼻の下を伸ばしたマグナを見据える。
なんとも無謀な存在へ恋をするものだと、半ば呆れながら。
「おにいちゃん……ズルイ」
そこへ小さな、小さな不満の声。
三人がギョッとして下を見れば、両頬を膨らませたハサハがムッとした顔でマグナを睨んでいた。
「ハサハ、ちゃん?」
何時からココに?
気配を感じさせずにちゃっかり観察会に参加していたハサハへ、カノンが恐る恐る喋りかける。
「ハサハも、おねえちゃんにぎゅっとしてもらいたいのに」
些か怒気が篭ったハサハの発言に男共は一斉に口を噤む。
ハサハの細まった双眸が、不機嫌さを顕著に現している。
「「「……」」」
互いにアイコンタクトを交わし、今のは聞かなかったことにしよう。
そう、三人は結論を下したのだった。
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