『デグレアの闇3』




きっかけは一人の召喚師だった、とレディウスは口を開いた。

「……雑音にしか聞えない〜!!!」
口を動かすレディウスの声が聞き取れない。
悲しそうに眉を八の字にしたトリスへ が手を差し出す。

「トリス、マグナ、我と手を繋げ。魔力がある程度ないとレディウスの声は聞えぬ。シオン、汝は読唇術が使えよう? それを用いて話しについてきてくれ」
「はい、分かりました」
マグナとトリスと手を繋いだ にシオンは顔色変えずに返答した。

準備が整った 達は改めてレディウスの話に耳を傾ける。

一人の召喚師が持ってきた天使の羽。
それを元にアグラバインがアルミネスの森を探索。
行方不明となる。

唯一生き残り、帰還した召喚師は何故か以前の彼とは違っていて。
元老院議会も徐々に変貌を遂げていった。

レディウスが偶然見かけた召喚師と元老院議会のメンバー。ヒトではなくなっていた彼等を目撃して始めて悟る。
ヒトの皮を被った悪魔があの森からやって来て元老院議会を、デグレアを乗っ取ろうとしているのだと。
レディウスは単身、召喚師のフリをした悪魔に戦いを挑むが多勢に無勢。
無念を抱えて命を失い、現在に至るというわけである。

レディウスの語りを聞き終え、全員が渋い顔をしていた。

「って事は? ルヴァイドはレディウスさんが正しい事をしたって、知らないで。一方的に汚名を着せられて悪魔にコキ使われてるって事だよな」

汚名を晴らし、騎士としての誇りを取り戻したがっていたルヴァイド。
彼があそこまで必死になる必要など元からない。

ルヴァイドを取り巻く罠の糸、雁字搦めに彼を縛りつける。

構図が見えてきてマグナは無意識に身震いした。

「恐らくは。加えるならイオスやゼルフィルド、黒の旅団メンバーもこの事実を知らないかと。悪魔から見て彼等は態の良い捨て駒なのでしょう」
マグナの意見を肯定してシオンが導き出せる一つの状況を口に出す。

「どうしよう!? わたし達、戦う必要なんてなかったんだよ!! だってルヴァイドにとっても、その悪魔達は父親の敵になるんでしょう? わたし達と一緒だよ……」
悲しそうに言ってトリスが俯く。

デグレア潜入スパイ大作戦☆、は思わぬ様相をみせ始めていた。

「漸くアメルを巡る戦いの絵図が出来上がってきたか。時にレディウスよ、元老院議会へ潜入する事は可能か?
悪魔の寄り代とされた者達の遺骸を弔ってやりたい。悪魔達がこれ以上彼等の身体を悪用できぬようにな」
一人冷静なのがトレードマーク、 がレディウスに願い出れば彼は薄っすら笑って移動を始める。

一人状況について行けないネスティの腕を掴み、有無を言わさず はレディウスについて歩き出す。
レディウスの案内と、デグレア崩壊という偶然が重なり 達は差ほど時間をかけず元老院議会の議場へ到達した。


「うわ……」
積み上がった人であった者達。
凄まじい光景にマグナはトリスの目を手で覆う。

「凄惨だな、これは」
ここに来て漸く事態を飲み込んだネスティが秀麗な眉を顰め一言漏らす。

シオンは周囲の気配を油断なく探り は一人ソコへ近づく。

 ゲイルを求めた罰とも云える。
 力を求めれば力によって滅びる。
 神が手を下さぬとも力に拠る者達は自滅してしまうのだ。

 だがせめてもの情けを汝等に……魂だけは再びこの地へ戻ってこられるよう。
 道へ魂を送ろう。

が瞳を閉じてそれらに触れる。
指先から漏れ出す蒼い光を持った魔力が、遺骸を包み込み次々に昇華させていく。
黒い小さな靄となって空へ還っていく幾つもの魂。

光景を眺めマグナが息を吐き出した。

「おや? 貴女も聖女に良く似た力をお持ちのようですね」
と、気配も音もなく。
品の良い言葉を使う男が議場へ現れる。

背後には眦を吊り上げたビーニャと不気味に笑う品のない男、の二人がいた。

「キュラー!! んでもってビーニャ、ガレアノも!?」
トリスがマグナの目隠しを取り去って、三人の怪しい者達を指差し名を呼ぶ。

「……どうせ憑依するならもう少しましな人相の召喚師を選ぶべきであったな? 悪鬼使いのキュラー、魔獣使いビーニャ、屍使いのガレアノよ」
事前に調べておいた情報を頭に出し、 は三人を小馬鹿にした。

安い挑発なのだが、ビーニャとガレアノを煽るには十分だったようで。
二人は血走った瞳を へ向ける。

「恐れ入ります。ですが……ここがわたし達の拠点のひとつだと知っていての挑発ですか? 囲まれている、という事実をお忘れではないでしょうね」
澄まし顔でキュラーが皮肉を返す。
は唇の端を持ち上げ、余裕の笑み。

「汝等、我を侮っておらぬか? 戦いは綺麗事を並べても所詮、勝った者が正義となる不条理を抱えておる。手段を選び正義面をぶら下げ戦うつもりなど、我にはないぞ」
薄っすら笑う は三人の召喚師よりも腹黒に見えた。

思わずネスティが一歩後退してしまうほどに。

「我は我の友を助ける為に戦っておる。悪魔と戦いリィンバウムを護る等と言った大儀など要らぬわ。器の違いを知れ、痴れ者が」
続けて放つ棘のある の台詞。

感動したトリスが場の空気を無視してパチパチ手を叩いた。

掲げるのは己の信条だけでいい。
学んだからこそ、どちらが悪か善かなんて決め付けたりはしない。
立場が違えば正義も変わる、考えも違う。
だからこそ矜持だけを譲らないよう戦うのだ。

「我が信頼する友の力、味わうが良い」
がキュラーへ顔を向けたまま、銃を抜き放ち己が立っている場所の後方を打ち抜く。

何発も打ち放たれる銃弾は威力が最大限に設定されていて、石壁で出来た議場の壁を見る間に溶かしていった。

「キェエェェイ!!!」

 ズガァン。

聞き覚えのある掛け声と、更に切り刻まれる議場の壁。

白刃を煌かせてカザミネが議場へ外から堂々と入ってくる。
カザミネの出現に身構えたビーニャの足元、寸分の違いもなくめり込むのは一発の銃弾。

「いや〜、緊張しますねぇ。こういうの」
照れながらカザミネに続くのがパッフェル。
パッフェルに全員の視線が集中して恥ずかしいのだ。

態度の割に軽口を叩いて空いた穴から議場へ足を踏み入れる。

「売られた喧嘩は四倍返しがセルボルト家の家訓なのだ。悪く思うなよ?」
セルボルト、というよりかこれは旧オプテュスの掟である。
自分の暴言は棚に上げて は堂々と先制攻撃を行った。

早撃ちで戸惑うキュラーの腕を狙い、次に屍兵を呼び出したガレアノのサモナイト石を撃ちぬく。

「せいっ!!」
出現した魔獣をカザミネが居合いで斬り、シオンはマグナ達を庇いつつ穴の開いた壁まで後退。
キュラー達と十分な距離を保ってから投具を構える。

「よし、俺だって!! 行くぞ、トリス」
マグナが大剣を掲げトリスへ合図を送り。
「うん! マグ兄!」
トリスも杖とサモナイト石を取り出し力強く頷く。

マグナが の援護にと走り出し、トリスは惚けて使い物にならないネスティをカバーしながら、魔臣ガルザマリアを召喚。

激しい地震を巻き起こし敵の足場を不安定にさせる。

パッフェルの銃弾が足場が不安定なビーニャの肩を貫き、 が撃ちはなった光線はキュラーの召喚した悪鬼の額を貫通した。

「たああああ!!!」
致命傷を負ってまだ微力な命を灯す悪鬼・魔獣・屍兵へトドメを指すのがマグナ。
シオンはトリスとネスティを庇いつつ素早い動きで敵を翻弄する。

達を 本人を侮っていたキュラー達は完全に出鼻を挫かれた。

が示す躊躇いのない殺生。
相手がアメルならば多少隙が出来たかもしれないが、 相手には無効である。
確実に圧されキュラー達は議場の隅に追い詰められていた。

戦いながら戦況を客観的に判断する が、パッフェルとカザミネに目配せ一つ。

気付いたパッフェル・カザミ、ネマグナを引っ張り後退。
自身も身軽さを活かし、屍兵の肩に手を置き、それを台として後方宙返り。
ユエル並みの柔軟と器用さをみせて床へ着地した。

「これは餞別だ、受け取っておくが良い」
ネスティからサモナイト石をもぎ取り、 が召喚するのは憑依攻撃が効かないロレイラルの召喚獣。

ヘキサアームズは多腕型の機体を動かし、 達を傷つけようと攻撃を繰り返すキュラー達が立つ天井を破壊し、瓦礫の雨を彼等へ降らせた。

「ちょ、アンタ!? 殺す気!?」
甲高い声を張り上げビーニャが怒鳴る。

「互いに相容れず利害が衝突するならば致し方あるまい。勘違いしておらぬか? 先程申したとおり我は正義の味方を気取るつもりもない。
まして、はいどうぞと我が命を差し出せるほど大人でもないからな」

大人びた仕草で肩を竦め はヘキサアームズへ目線で合図。

ヘキサアームズは更にキュラー達の立つ場所の側壁をも破壊。
岩が崩れ落ちる轟音を響かせ残骸が降る。

「本気で相手をして欲しいなら、死ぬ気で挑んでこい。返り討ちにしてサプレスへ送り返してやるわ」
立てた親指を地面へむけ、 は挑発してからマグナ達へ合図をして撤退する。


一部始終を見守っていたレディウス氏、 に深々と頭を下げて彼女が作り上げた道へと続く光に手を伸ばしたのだった。




Created by DreamEditor                       次へ
 デグレアを探ったんだか喧嘩を売りにいっただけなのか。果てはレディウス氏を助けただけなのか?
 謎は付きませんがツッコミはなしで(笑)ブラウザバックプリーズ