『話題休閑・デグレアの闇3後』
ネスティとレナードと三人で見るファナンの月夜。
母、ファミィへ事態の報告へ走っていったミニス。
その付き添いのシャムロック&シオン。
ケイナはカイナと食事を作り、矢張りフォルテが茶々を入れてケイナにぶちのめされる音がした。
「矢張り大気が汚れておらぬリィンバウムは月が綺麗に見えるな」
の黒い髪が闇に溶ける。
柔らかな肌色を持つ
の指先が月を指す。
「そうだな」
口に合わないが贅沢は言っていられない。
レナードは精神的な焦りを表に出さず、あえてタバコに火をつけた。
目まぐるしく変わる状況と事態。
敵が実は敵ではなくて、その背後には悪魔と来た日には。
世も末だとレナードが嘆いてしまっても仕方がない。
異界の生活、しかもトウヤやハヤトの様に現実を拒絶していた訳ではないレナード。
彼の苛立ちはいかばかりだろう。
タバコの煙に少々立腹しながら は考えた。
この場にネスティが居るのは無理矢理
が引っ張ってきたからで、本人の意思ではない。
・レナード・ネスティ、傍から見れば奇妙な組み合わせである。
「……二重誓約を使って汝を元の世界へ戻せぬか考えた。但し、名も無き世界。地球への通路は不安定で、高い魔力を有する者が通るだけで精一杯の場所。
送還される汝の魔力値の高さも要求されるのだ。意味は分かるか?」
同郷だと分かってから、レナードの に対する態度は軟化の一途を辿っている。
もう二人、サイジェントに地球出身の兄代わりが居ると聞きレナードは大いに期待していたのだ。
元の世界へ戻る手がかりが掴めるかもしれないと。
「なんてこった! ってことは、何だ? 俺が召喚師に弟子入りでもしなけりゃ駄目って事か……」
口振りは大袈裟でも表情に落胆の色は少ない。
レナードは微苦笑して、天を仰ぐ仕草をした。
レナードなりの精一杯の虚勢、分かったからこそ
は何も言わず頷く。
「この騒動が治まったらサイジェントに居る兄上達と合流し、魔力値を早くに上げる手立てを考えよう」
遠巻きにレナードを労わり困った顔で微笑む 。
彼女なりの不器用な励ましにレナードは
の髪をくしゃくしゃに乱した。
「悪いな、助けてもらうぜ」
ニヤッと笑いレナードが言えば、 は顔を輝かせ目を細める。
微妙な間合いは同じ地球出身だからこそとれるもの。
ネスティは自分を場違いに感じつつもう一度息を吐いた。
吐いたと同時に
の人差し指によって眉間の皺を突かれる。
「単なる迷信だが我等の世界では『ため息をつくと幸せが逃げていく』とある。悩みは尽きぬだろうが、マグナとトリスを見習い前向きに生きよ」
メッ!
母親が子供にしてみせる顔をして はネスティを嗜める。
の顔が面白くてネスティは顔を歪め笑う。
本心から笑えないのは、矢張り自分の持つ蟠りがまだ凍ったままだから。
ネスティ自身、自覚はある。
「あー……なんだ、俺達の世界じゃ異種族は存在してなくてな。人種の違いはあるが、リィンバウムに召喚されるまで俺には縁遠い世界だったんだ。異種族ってのはな」
レナードの腕がネスティへ伸び、ネスティの髪がレナードによって乱された。
「いいじゃねぇか。皆は、あいつ等は。どんなネスティでも、それがネスティという存在を構築するモノなら許容すると言ってんだ。
一種の個性だと、己の気質だと思ってもう少し肩の力を抜けや。それから、もっと目上を頼れよ?」
目を丸くするネスティと、珍しく幼い表情を浮かべた彼へ抱きつく 。
神経質な異種族の青年と、豪胆な同郷の少女。
思考回路のベクトルも、物事の捉え方も何もかもが違うが。
「いいコンビかもしれないぜ? ネスティと は。 、魔力値の件は、これが終わったら一先ず
の兄姉の意見を伺うって事で頼むぜ」
ネスティにしがみ付いたまま、首を縦に振る を視界の隅に収め、レナードは片手を上げて屋根から去っていった。
レナード本人に他意はない。
はぐれになった己を助けてくれたマグナ達に感謝するのと、リィンバウムに感謝するのでは大いに意味が違う。
ましてレナードは自由の国アメリカ生まれの育ちである。
大なり小なり存在する人種の壁に関してはリィンバウムの者達よりも遥かに理解があっただけだ。
大人の意見を残して去っていた後の屋根。
ネスティは自分にしがみ付く
を見下ろす。
「……
、君は何がしたいんだ?」
ぎゅうぎゅうネスティに抱きつき、擦り寄る の行動が弟妹弟子のものと同じ。
らしくない態度にネスティは本人へ尋ねた。
「ネスに飛びつけるのは、マグナとトリスだけの特権であろう? 実は我も味わってみたかったのだ。知的好奇心が疼いたのでな」
大真面目な顔で答える 。
純粋にネスティの低体温が気になり抱きついている。
「? これはマグナとトリスの特権なのか?」
「違うのか? 種族も抱える問題も、立場も同じではないが。汝等は家族であろう?」
ネスティの問いに質問で返す。
意外そうな顔をしたネスティを、これまた意外といった態で見上げる 。
二人の視線がぶつかり合う。
「まったく……
には敵わないな」
本当は誰かに認めて欲しかった。
己が存在しても良いと、必要だと。
罪人の子孫としてではなく自己を認知してくれる誰かを。
ネスティが意図しない部分で、ネスティはマグナとトリスによって受け入れられ。
そんなマグナとトリスを周囲が受け入れる。
巡り巡って出来上がる血の繋がらない『家族』の輪。
見えない『絆』の糸が全員を強く、強く結びつける。
ネスティはここにきて初めて。
の言葉によって己がとうに認められていたのだと悟った。
「だとしたら、マグナやトリスと親友である君は。僕の親友でもあるわけだ」
の小さな身体を抱き締め返し、ネスティは諦めの口調でぼやく。
脳裏に
を取り巻く濃い面々が過ぎったりもしたが、この瞬間だけは彼等の存在を頭から追い出す。
「今頃気付いたか」
対する はニンマリ笑いネスティとひっそり笑い合ったのだった。
翌日
『ネスは俺(わたし)達の兄弟子でお兄さん代わりなんだよ、どうして今更疑うのさ(よ)』
等と叫び。
いじけたマグナとトリスに押し潰されたネスティが居た事を記しておく。
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