『誰がための剣2』




真剣に戦うつもりがあるのか無いのか。

雲行きが怪しいマグナを他所に、アグラバインは悲痛な面持ちでルヴァイドの説得にかかっていた。が。

「貴方がいれば、父は死なずに済んだかもしれなかった!!」
アグラバインへ向け吐き出すように叫んだルヴァイドの顔にあるのは苦悩。

 音が一段と乱れた……しかし、アグラバインとルヴァイドの父が同僚とはな。
 レイムめ、知っていて今回の指揮をルヴァイドへ振ったか。
 あざとい真似をしおって。

ゼルフィルドと視線を合わせたまま、 はひとりごちる。

 そしてゼルフィルドよ。
 汝、既に選んだのだな。
 それが無駄だと分っておってもそうせずにはいられぬ。
 そう覚悟を決めた汝に我がしてやれる事はない。

「死相が浮かんでいる」と、忌憚無くゼルフィルドに告げた
の忠告に対し、ゼルフィルドは「構ワナイ、覚悟ノ上ダ」なんて応じた。

薄々ゼルフィルドもレイムやデグレアの行動に不審を抱いているのだろう。
それでもルヴァイドを守り、旅団のメンバーとして戦うと決めたゼルフィルドを助ける術は無い。

は下唇をきつく噛み締める。

 そうする結果、ルヴァイドとイオスが助かるかも知れぬと。
 本能的に察しての答なのだな。
 ゼルフィルド、汝は我が出会った中で一番男気のある者だ。
 汝が辿る運命を傍観するしかない己を恨めしく思うぞ。

つと、目を伏せた 顔横、数ミリの位置を走り抜けるゼルフィルドの銃弾。

決裂を意味する銃弾に反応し、背後のパッフェルが援護射撃を始める。

「汝は我が知る中で一番強く優しき者。今後の武運を願っておるぞ」
寂しそうに言った に、黙って首を縦に振ったゼルフィルド。

ハサハは頬を膨らませてだんまり。
それでも。ゼルフィルドと の会話を邪魔する無粋な連中を、片っ端から石化させているので、それなりに戦っていると表現しても良いだろう。

「……感謝スル」
ゼルフィルドが腰を折って深々と頭を下げたら、それが合図。

「貴様との決着をつけてやる!!」
叫びイオスがマグナ目掛けてまっしぐらに突っ込む。
イオスが目的とするのは、以前、マグナから奪還し損ねた少女からの贈り物である。
「出来るものならやってみろ!! イオス」
マグナも親の敵の如くイオスを睨みつけた。

少女の正体を知ったマグナが精神的にやや落ち着いている。
繰り出されたイオスの槍を避け、大剣を斜めに振り払い間合いを取った。

「「……はぁ」」
マグナのお守りから開放されたネスティとバルレルが地面に座り込み、互いにため息。
戦いは血の気の多いのに任せた、とばかりに休憩を取り始めた。

「ネスティさん、バルレルさん、ご苦労様です」
ネスティとバルレルの労を労い、カイナが二人を護るべく仁王立ち。

おっとりした雰囲気とは裏腹の、豪快なシルターンの召喚術。
二人を狙う黒の旅団員へお見舞いしてカイナは油断なく投具を構える。

「避けてねぇ〜、マグナ!! アグラお爺さん!!」
この騒動で一番逞しくなったアメルが天兵を召喚。

巨大な剣を両手にした天兵がマグナの背後を駆け抜け。
アグラバインの斧先を掠めて黒の旅団員達をなぎ倒していく。

「「……」」
サクサク攻撃してくるアメルに冷や汗を掻くマグナとアグラバイン。

マグナとアグラバインの能力を信頼しての攻撃だろうが。
何故か だけを助けるように放たれている気がするのは、どうしてだろう。
奇しくも二人は同時に同じ考えを頭に浮かべた。

「ど、どうしたんだ!? 聖女が壊れたか……??」
アメルの豹変振りにイオスも驚き、思わず敵であるマグナへ問いかける始末。

マグナはアンニュイな顔をして「あれがきっと本当のアメルなんだよ」と。
アメルに聞えないよう細心の注意を払ってイオスへと答えた。

「圧巻だな……アメルの召喚術」
ハサハの手を握って横っ飛び。
天兵の一撃を器用に避けた は正直な感想を口に出す。

「おねえちゃん、つよい」
自信に満ち溢れたアメルの背に光る一対の白い翼。
見詰めてハサハはちょっぴり羨ましそうに呟いた。

もし自分もアメル位強くなれたら ともっと仲良くなれるだろうか。
なんて考えて。

ハサハの胸中を知らない はハサハをケイナに預け、前線へ戻ってしまった。

黒の旅団員とマグナ一行。
それぞれに一歩も引かず戦いは長引き、それでも死者が出ていないのは奇跡である。

「しっかしアレだな。デグレアは本気でファナンを攻めるつもりなのか?」
剣を振るい と背中合わせに敵と対峙するフォルテは余裕綽々。
呑気に背後の へ疑問を投げかけた。

「少なくともルヴァイド達はそうらしい。数日前に対峙したレイムが同じ考えを持っているかは分らぬがな」

アグラバインとシャムロック。
二人がかりの猛攻も防ぎ、尚且つ反撃するルヴァイドの太刀裁き。
迷いが見え隠れする剣は確実にルヴァイドの身体に切り傷を増やしていた。

横目でルヴァイドの苦戦を眺め はフォルテへ応える。

「……デグレアの顧問召喚師、レイムか」
フォルテは苦虫を潰した顔で、例の胡散臭い召喚師の顔を思い浮かべた。

「うむ。デグレアは軍事国家だが、召喚師に対する待遇が良くないと聞いた。そのレイムがあれだけの団員を率いておるのだ。
中枢に対する発言権を有していると考えるのが妥当ではないか? 少なくともルヴァイドよりかは影響力を持っているように見受けられる」

黒の旅団員の槍を受け流し、反動で団員の腹へ未契約のサモナイト石を力いっぱいぶつける。

想像もしない攻撃を繰り出し団員を撹乱しつつ は自分の意見を言った。

「成る程、そうかもな」
の観察眼にはフォルテも一目置いている。

己の培ってきた人を見る目というのはそれなりに持っていると自負するフォルテ。
フォルテ自身、風変わりだが、輪をかけて風変わりな子供
ただの子供と高を括っていたが見事に美味しいところを持っていかれた。

 ま、頼もしい仲間になるならいいさ。

フォルテの隠し切れない品(ケイナが聞いたら速攻で否定されるだろう)を、見切っているくせに追及しない。

気障なのか、それとも兄姉の躾が良いのか。
の態度を見ている限りはどちらもと判断がつかないフォルテである。

これで性別が女だというから、敵わない。
誰よりも大胆不敵で冷静な策士。

愛想良くしていれば結構美形で、将来は美人さんに育つ事間違いなし! のパーフェクトガール。

「これでもうちょっと感情に聡ければなぁ」

マグナとアメル、果てはトリスと。
次々に魅了し、恐らく無自覚にネスティさえも虜にしている
本人は友情を育んでいると真剣に考えているから性質が悪い。

頼りになるお兄さんの立ち位置を守るフォルテとしては胸中複雑だ。

「どうかしたか? フォルテ」
フォルテの戦いの手が一瞬鈍ったので、 は次に自分から尋ねてみる。

「いんや。……ルヴァイド達の動きが緩慢で、やる気があるのに。俺達がなんだか狙って陽動されてるみてーだなー。なんて考えてるんだが?」
そもそも街道に堂々と姿を見せて戦っている自体変だ。

トライドラを陥落したとはいえ、ファナンやゼラムまで攻め入る勢いがあるとも思えない。
フォルテは戦いながら動きを見せないルヴァイド達を怪しんでいた。

「だろうな」
感情が動く様子は無い。
はあっさりフォルテの見解を肯定した。

「……なんだ、分ってたのか」
いらない気を遣ってしまった。
脱力しつつフォルテがツッコむ。

黒の旅団の動きが可笑しいと気付いたパッフェルとレナードがシオンと後方で深刻に話し合っている。
どうやら彼等の心配も無用に終わりそうだ。

「案ずるな。ファミィに『問答無用で召喚術をぶつけてやれ』と頼んでおいた。ファナンへ向かった黒の旅団本体はファミィの召喚術でお釈迦だろう」

クラレットに似た笑顔で『任せて下さいな♪』とかなんとか。
言っていたファミィの事だ。

早々簡単にファナンへ食指を伸ばせぬよう、手痛く黒の旅団本体を歓迎するだろう。
想像して は哀れみの視線をルヴァイドへ送る。

「……???」
数メートル離れた場所で戦う (敵)から頂戴する、同情の視線。
シャムロックの剣を弾き返したルヴァイドは一瞬だけ動きを止めた。

「将ヨ、余所見ハ禁物デス」
アグラバインの斧を硬い装甲で受け止めたゼルフィルドがルヴァイドへ注意を促す。
「すまない、ゼルフィルド」
早口で謝り、ルヴァイドは半身を翻す。

今頃ファナンへは本体が到着している。
罠に掛かったマグナ達の相手は十分にしたと判断して。

「さいですか」

どうして知り合う女、女、見事に強者ばかりなのだろう。

自分の女運の無さを場違いに嘆きつつフォルテは剣を横に振り払った。


遅まきながらファナンの危機に気付き、駆けつけたマグナ達だが。

彼らが目にするのは喜々としてガルマザリアを召喚し、黒の旅団が陣取った大地へ地震を巻き起こすファミィの姿だった。
「お、お母様って……やっぱり怖い」
こう言ったミニスの顔は今迄で一番怯えたモノだったという。




Created by DreamEditor                       次へ
 うろ覚えのこの話。確かゲームの展開はこんな感じだったかな……??
 違っててもこれからの話に支障はないのでこのままで。フォルテは楽しい傍観者お兄さん。
 さり気に主人公とは仲が良いのです!! ブラウザバックプリーズ