『最初の戦い2』



真っ青な顔をして真っ先に戻ってきたのはリプレで。
暫くしてエドスとレイドが消え。
何故かトウヤはレイドを連れて。
ハヤトがエドスを連れて戻ってきた。

「……むぅ」

 面倒に巻き込まれたのは分るが原因がさっぱりだぞ、お前達。

胸打ち渦巻く不満はともあれ、ハヤトとトウヤの無事を喜ぶべきか。
は邪魔にならない位置でハヤトとトウヤの怪我の具合を確かめる。

どちらも掠り傷ばかりで、特に重傷と思えるような怪我はなかった。
ほっと胸を撫で下ろす。

夕闇も迫った異界の夜。
日が暮れきったかきらないかの内に、 の疑問の答がノコノコやって来た。

「手前ぇに用があるんじゃねぇよ」
聞き覚えのない第三者の声音。

ガゼルもかなり尖りっていたが、ガゼルを上回る尖り具合の声音。
玄関で問答を繰り返すガゼルと謎の声。
だが、ハヤトとトウヤが互いに目配せをし、リプレの静止をふりきって玄関へ姿を消した。

「いいか? 外に出てくるんじゃないぞ?」
慌てて剣を掴んだレイドがリプレに言い置いてフラットから出て行く。
続いてエドスも。

「うん。ほら、皆は子供部屋に。 !?」

こっそり抜け出そうとして失敗。
リプレに襟首を掴まれる。
アルバに気の毒そうに見詰められ、ラミには首を横に振られ、フィズにはため息を頂戴した。
まったくもってふんだりけったりである。

「皆が……心配だから。それに、誰かを助けるのに理由は要らない。ついでに歳も余り関係ないと思う。無理はしない」
あの声音の尖り具合からして、相当捩くれた性格の持ち主と はみた。
レイドもエドスも居るが、外から聞こえる怒声はフラットの不利を証明中。

珍しく長く尤もらしい言葉を発した にリプレびっくり。
キョトンとした顔で を凝視する。
は笑みを。
この世界に来て初めての笑みを浮かべた。

「だいじょうぶ」
しつこいようだが、 は神様である。
顔立ちは当然整っているのである。

それが満面の笑みを浮かべたらそれは綺麗だ。
突然の の笑みに驚くリプレを余所目に、 はアルバとラミとフィズに「行って来る」と言い置いて、玄関から堂々とフラットの外へと出て行く。

「あっ……あれは反則でしょう……!?」
ドキドキする胸を押さえてリプレは呟いたのだった。





外ではバノッサの圧倒的な横からの斬り付けに全員大苦戦中。
バノッサの手下達はやたらと筋肉馬鹿ばかり(失礼)で、その腕から繰り出される一撃は容赦がない。

「うわっ」
鼻先を掠めた短剣を避け、ハヤトが悲鳴をあげる。
ハヤトに気を取られていた手下は、背後から近づいたガゼルに撃沈された。

「……マズイな」
斧を剣で弾き返しつつレイドが冷静に言う。

何時の間にかバノッサは高みの見物を決め込み、フラットのメンバーが疲れる様を眺めていた。
このままでは技量も経験も劣るフラットが圧倒的不利である。
悔しさに奥歯を噛み締めたレイドの耳に、ここに居てはいけない人物の声が飛び込んできた。

「そうか。尖った声音は御前だったのか」

闇の中。フラット周囲に散乱するゴミや木箱に紛れてバノッサに近づく人影。
緊迫感など微塵も感じさせないゆったりした喋り口。

「「「 !?」」」

ハヤト・トウヤ・ガゼルの声が見事にハモる。

「なんだぁ? 手前ぇは」
ドスの利いたバノッサの声が に向けられた。
敵意むき出しの声音にフラットの面々は焦る。

だ。フラットに世話になっている。汝の名は?」

フラットメンバーの焦りを他所に、 はバノッサの近くの木箱に登りバノッサの視線を真っ直ぐ受け止めた。

「関係ないだろう、ガキには」
声を聞いて少し驚いたが、姿を見ればどうだ。
ちっぽけでひ弱そうなただのガキではないか。
侮蔑の表情を浮かべてバノッサは を鼻で笑う。

「血を分けた者から与えられた名、即ち音は汝を示す世界で唯一の音だ。世界で最初に汝が手にした音だ。僕は汝の名を、音を尊重したい」

のマイペースにガゼルが呻いて顔を引き攣らせる。

相手がバノッサ以外なら通用する手段かもしれないが、相手はあのバノッサだ。
の無謀とも取れる勇気にガゼルは背筋が凍る。

「ごちゃごちゃうるせぇ! 俺を知りたければ、俺に勝ってからにしろ」
剣を早抜きしてバノッサが斜め前方に立つ へ斬りかかった。
は冷静に二歩下がる。

瞬きする間も与えないバノッサの剣戟。
昼間の苛立ちもあって への攻撃は一番激しいものになっていた。

「……ふむ」
正面や脇ではなく、斜め方向から繰り出されるバノッサの剣先。
紙一重で避けながら は感嘆の声を零す。

 素性は知らぬが、腕は中々だ。
 しかし……闇よりも尚暗き魔を抱えてもおる。尖った声音は致し方ないか。
 しかし、色白な男だな。

 地下室が好きなのか?

さん、見当違いです。なんて誰もツッコめる訳がない。

 魔術は使えぬ。
 街ごと壊しては洒落にならぬからな。ならば……手助け、か。
 我の現在の姿ではこれ位が程よい立場であろう。

何戟目かを入れてきたバノッサの剣先をかわし、バノッサの懐に潜り込む。

「なっ!?」
驚いたバノッサの隙をつき、 はバノッサの背後に回った。
トレードマークと思われる無駄に長いマントをバノッサの頭に被せる。

「すまぬな」
突如己のマントに視界を遮られたバノッサに詫び。

呆然と立っているトウヤとレイドに合図を送る。
の意図を理解したトウヤとレイドは刃のない部分でバノッサを打ち、彼等を見事に追い払ったのであった。



「こんのぉ馬鹿! どうして出てきた!!!」
一息ついたのでお説教タイム。
何故か真っ先にガゼルが を叱り始めた。

「皆が……心配だから。それに、誰かを助けるのに理由は要らない。ファ○ナルファン○ジー9のジタンの台詞だ。この状況に相応しい名台詞ではないか」

己の所業に満足そうに表情を少しだけ緩めて が応じる。

「FF!?  、お前ゲームもするのか?」
の発した単語に反応を示すハヤト。
は少し胸を張った。

「子供だけど、僕自身は僕をゲーマーと思っている。プレイしたゲームは偏っているが」

目を点にしてるトウヤの眼前で。
ゲームマニアのハヤトと のちょっとマニアニックな会話が始まる。

説教をしていたガゼルはレイドやエドスを顔を見合わせていた。

「げーまーって何だ?」
サイジェントにゲームはないだろう。
テレビもないし。
素朴な疑問を口に出すガゼルに、トウヤはどうやって説明をしようかと頭を抱える。

「そうかぁ、そうかぁ〜。 はゲームが好きか」

なんだかとっつき難くて、この先 とどうやって接していこうか。

ハヤトなりに悩んでいた矢先の事だ。
同じ趣味があると分れば心強いし、何より話も弾む。

幼馴染のトウヤはどこかおっとりしていて、自分とは正反対の性格。
ゲームもプレイはするが、ハヤトほど遊びはしない。

嬉しくなったハヤトは笑顔で の頭を撫でたおす。

「オンラインゲームは未プレイだが、適度に遊んでいる」

神様は娯楽が少ない。
人を見守るっていっても、 の担当は地球の結界である。
護るべきは結界で人ではないのだ。本来は。

 兄上達にデータを消されていなければいいが……。

独断でトウヤとハヤトに着いてきてしまったので、制裁と称してゲームのデータを消されていそうだ。
思わぬハヤトとの接点に もまた喜びながら、不謹慎にも地球に残してきたメモリーカードの心配をしてしまった。

「えーっと、ゲームってのは一種の遊びで専用の装置を使うんだよ」
考え考えトウヤがガゼル達にゲームの説明をしている。

「卑怯な手段を使ってしまったが……あの者、何者だ?」

諍いの後の平和的和み空気。
まったり漂う中、 は肝心な事実に気づいた。

あの色白のマントが何者で、何故ハヤトとトウヤが狙われたのかも分らない。
加えるなら、フラットのメンバーがこうして協力的なったのも何故だか分らない。

 ま、マズイではないか!?
 我は仮にもハヤトとトウヤの護神なるぞ!!
 外野的に関わっていてはこれからの事態に対処できぬではないか〜!!!!

突如怒りのオーラを噴出する に怯えるハヤト。
驚く他のメンバー。

「ええいっ!!! 経緯を話さぬか!!!! 経緯を」

少し間の抜けた神様は、思わず目の前に居たハヤトの首を思いっ切り絞めたそうな。




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 神様、バノッサと見えるの巻〜。ブラウザバックプリーズ