プロローグ



荒野に佇む子供達。

「ここ……ドコだ??」
活発そうな少年が目を瞬かせる。
柔らかい茶色の髪が風に揺れた。
「さあ……見たこともない景色だ」
思慮深そうな黒髪の少年が顎に手を当てて思案顔。

二人の少年を見上げる幼い子供は瞬きもせず無言。
荒野に制服姿の少年二人とランドセルを背負った子供が一人。
周囲に立ち込めるのは。
「血の、匂い」
制服姿の少年に気づかれぬよう呟く。

ランドセルを背負ったまま子供は周囲をゆっくりと見渡す。
表情に乏しい顔つき。
黒髪に黒い瞳。
まだ丸みを帯びた顔立ちをしているが、整っている部類に入る顔のパーツ達。
癖のない髪を揺らし子供は小首を傾げた。

 ……最近、我の守護せし地球より数名が結界を抜け、何処かに去っていったが。
 恐らくはこのように連れて来られたのか。

魔力の残滓と散っていった魂達の悲痛な訴え。
残像のようにチラつく二人の子供の姿と。
この『近所のお兄さん』達の召喚に巻き込まれた時に聞こえた声。

 タスケテ。か。
 ……異界の掟(ルール)に口を挟むのは我の流儀に反するが。
 こうも我の張った結界を穴だらけにされては……な。
 暫し様子を見るか。

 勇人(はやと)と藤矢(とうや)に不可思議なモノが憑依(つ)いたらしい事だ。

一人結論を出し、後は待つだけ。
勇人と藤矢の対応を。

「うわっ」
なんて、活発そうな茶色の髪の少年。
勇人という少年が奇声を上げる。

漸く周囲を観察し状況の異常さに気づいたのだろう。
続けて藤矢という少年も驚き呆然と立ち尽くす。

「な、なんなんだよ! ここはっ!? 気味悪り〜」
鳥肌の立つ腕を擦る勇人。
青ざめた顔を顰めつつ藤矢もうなずいた。

 ……人の血とか色々あるからな。気持ちの良い光景ではないであろう。

目を細めて子供はひとりごちた。

 しかし、こやつら何時までここでぼんやりしているつもりか。

一旦はこの二人の自由に、とは考えたが。
現代っ子にサバイバル体験は早すぎたようだ。
二人とも途方に暮れているだけで、建設的意見が出る様子はこれっぽっちもない。
子供は小さくため息をつきこの地域の気配を探る。

 こちらか人の気配がしているな。世話の焼ける。

胸いっぱいに大きく息を吸い込み、子供は叫んだ。
「うわわわわぁああぁぁぁん! 怖いよ〜!!! お母さん〜!!!」
叫んで走って消えた。

「「あっ!?」」
偉い勢いで走って消える子供に勇人と藤矢が同時に叫ぶ。
そして、慌ててその後を追いかけた。

子供が一人で見知らぬ場所で動くのは危険だと。
ほぼ同じことを考えて。



結果。
「有り金置いてきな」
薄暗い薄汚い路地裏で、いかにもな少年に絡まれる羽目となる。

子供は何度か瞬きを繰り返しナイフを手にした少年を凝視した。
短い髪と地球ではお目にかからない珍妙な衣服。
身軽そうでもある。

「……」
態とこの世界に招かれた子供にはこの世界の金などもってはいない。
ましてや。
「お金? ……これか?」
疑問系。
持っていた千円札を取り出す天然系の藤矢が、少年の怒りをきっちり買って。
「馬鹿にしてるのか!? やっちまえっ!!」
と、相成る。

子供が戦えないと判断した勇人と藤矢。
荒野で拾った錆びた剣を片手に奮闘中。
子供はする事がないので勇人と藤矢の背後でノンビリ戦闘を眺めていた。
ゴロツキト戦う二人の少年を。

 戦いの筋が良い。
 器用なのは藤矢だな。思い切りが良いのは勇人。

世界中のそこかしこから流れる戦いの匂い。
無論地球とて全てが平和なわけではないが、この世界はもっと身近に戦いが存在する。
確かめて子供は己の小さな手を握って離して。
口を真一文字に引き結ぶ。

 参戦するには及ばぬか。今はな。

不慣れな戦闘に苦戦しながらゴロツキを撃退した二人に、内心だけで頭を下げる。

「やめないか、ガゼル」
決着がついた所でもう一人登場。
レイドと名乗った青年は勇人と藤矢の事情を察すると、親切に宿を……異界での生活の場を提供してくれた。
錆びた歯車は二人の少年と神様を巻き込んで静かに回転を始める。

 あっ……兄上や姉上。父上母上に何も言ってこなかった……。

仕事を放棄して異界に飛び込んでしまった己の失態に気づく、なんとも呑気な神様。
こうして異界での時間が回り始めたのだった。



                                      次へ

  こうして始る地球の神様視点ドリーム。如何なモンなんでしょうね(笑)ブラウザバックプリーズ