エピソード ファイナル 『あの時の答えを』



未唯は大人しくソファーへ座っていて。
僕といえば落ち着きなく左右を行ったり来たり。

「お、落ち着かない・・・」
僕は頭を抱えてため息と共に正直な気持ちを声に出した。

「緊張するね」
身体を硬くしてソファーに座る未唯の言葉も、少し舌が回ってない感じで。

僕らはソワソワしながら豪華な洋風の応接室で待機中。
こーゆー感じの部屋も落ち着かないんだよ。
慣れてないし。

「ごめん、こういう家のつくりだから我慢してね」
音もなく開く扉。
滑り込むように応接室へ入ってくる人物。
僕は慌ててソファーへ座った。
そんな僕を見てクスクス笑うのは。

「せーちゃん、相変わらずノンキってゆーか。マイペースだよね」
慣れた動作で真向かいのソファーへ腰を下ろすせーちゃん。
僕は相変わらずマイペースなせーちゃんの行動に身体の力が抜けた。

「彩程でもないよ。さてさて、あんまり時間が無くて悪いんだけど。
結論から聞かせてもらおうかな?あの時訊いたよね?
小瓶の持ち主が誰かってコト。それとわざと海央に行く彼にソレを持たせたのか」
せーちゃんは人懐こい笑みを湛え僕と未唯を見る。

「小瓶の持ち主はせーちゃん。
ミィーディーの全てを知っていながら、あえて素人の涼へ小瓶を託した。
これは最後に知ったけど、ミィーディーに選ばせる為に」

僕が言えばせーちゃんは無言で指を鳴らす。

テーブルの上に瞬時に出現する紅茶のセット。
カップに入った紅茶は良い香りを漂わせてた。
魔法とは違う部類に入る力らしい。
原理なんか分からないけど、これが本物の紅茶だってのは分かる。
「ご名答。でもこれだけは信じてよ?本当に偶然知ったんだ。彩に魔力があるっていうのは。そこまでは計算なんてしてないからね」
「うん。分かってる」
せーちゃんに答えて僕は紅茶に口をつけた。はー、落ち着く香り。
「魔法使い協会の長老達には悪いと思ったけどね〜。こっちの都合で君を振り回すのがちょっと?うーん、結構許せなかった。だから子供なりの反乱をしてみたり」
未唯を見て悪戯っぽく笑うせーちゃん。
「そのとばっちりを僕が受けたんだね・・・」
今となっちゃ昔話みたいだけどさ。

ああ、この1年間の災難が次々に僕の頭に浮かび上がる。
よく生き残れたよ、偉い自分!

「あはははは、ごめん、ごめん」
あんまり悪いと思ってないせーちゃんの笑い声。

ま、でも。楽しそうだからいっか。

僕も手に入れたものの方が多いし。

「僕の答え。電話で先に伝えた通り、このまま未唯と一緒に努力していくよ。
ミィーディーだって願ってた。自由になりたいって。
封印が一番良い方法なのかもしれない。
だけど僕が居る限り中和はできる。人生長いしね、ゆっくり考えるよ」
宮殿で聞いた未唯の本音。
ミィーディーの本音。

『自由になりたい』

僕はその気持ちを優先できるならしたいと思う。
僕が出来る範囲で。

「了解。彩がそのままでいいなら、これで帰るよ。
その代わり、失われた中和魔法を伝授しておくから。有効活用の程よろしく?」
せーちゃんは得意そうに目を細める。
「ごめん。無駄足みたいで」
わざわざ日本に戻ってきてくれて。面と向かって話を聞いてくれて。
忙しいのに、なんだか悪い気がする。僕はせーちゃんに頭を下げた。
「そうでもないよ」
せーちゃんは嫌な顔一つしてない。本当、楽しそうな顔してる。
「色々こっちにも用事があったしね。それじゃ、またね?」
せーちゃんは腕時計の時間を確認するとソファーから立ち上がった。


「ありがとう」
黙りこんでいた未唯が突然せーちゃんに叫ぶ。
せーちゃんは一瞬立ち止まり。
未唯を見てニヤリと笑う。

「こっちこそ『ありがとう』幼馴染(彩)の良さを君が理解(わか)ってくれて」

格好良すぎだ、せーちゃん。
せーちゃんは去り際に一番せーちゃんらしい台詞を残して僕等の前から去った。
そんなこんなで迎えた春休み初日。
緊張の対面を終了させた僕らがすることと言ったら。

「心配してる皆へ報告に行かないとね」
僕は自分から手を未唯へ差し伸べる。具現化する時とは逆に。僕から。
「うん」
僕の手を握り未唯は僕の頬にちゅーをした。
これくらいなら、災難でもないでしょ。


なんて余裕に考えるようにしながらも。
僕が耳まで顔を真っ赤にしていたのは・・・未唯だけが知っている事実だ。


今日もこれからも。二人でゆっくり歩いていこう。
僕らのペースで、ね。

小春日和の今日。

僕と未唯は新たな一歩を踏み出したのだった。

終わりました〜vvラストの友情出演は今回のお話の仕掛け人せーちゃんとの対面。小瓶の持ち主です。本当にここまで読んでくださった方、ありがとうございましたっ。次回予告をかねた言い訳(後書き)はこちら。ブラウザバックプリーズ