『正義を掲げる男曰く2』




は悪魔の笑い声と上杉の寒いオヤジギャグを聞きながら、意識を浮上させた。

「フが十個でトーフッ!!」
上半身を起した の視界に飛び込む、上杉のライブ(生)トーク。

ジャックランタンが腹を抱えて笑い転げている。
ジャックランタンが笑う度に周囲が仄かに緑色に色づく。
悪魔に酸欠死は存在するのかな。
結構どうでも良い事を頭の中で考えながら は注意深く周囲を見渡した。
人気の途絶えた恵比須海岸。達哉達や麻希達の姿はない。

「お早う、 。疲れは取れた?」
上杉の爆笑? トークに耳を傾けていた舞耶は、瞼を持ち上げた に視線を戻す。
「マッキー?」
は自分の顔を覗きこむ舞耶の顔をぼんやり見上げた。
別行動を取って葛葉探偵事務所へ向かったのじゃないか?
というより、別の違和感を覚えて が舞耶の名を疑問系で呼ぶ。

「うん?」
舞耶も に釣られて疑問系で相槌を返す。
意識がハッキリと覚醒していない の姿に内心だけで『可愛い』と思いながら。

も一度は探偵事務所に戻るでしょう? だったら一緒に行こうと思って」
舞耶は至極当然のように、またアッサリと に理由を説明した。

「どうして?」
は自分の回復を待っていた舞耶に感じたままを尋ねる。

キングは四つの洗濯(宣託)の場所をきちんと爆破した。
しかもまだ予言は続いていて。
JOKERも動きを活発化させているのに。
時間がないのは舞耶の方じゃないか?
それなのにどうしてダウンした自分を待っているのか純粋に不思議に感じる。

「達哉君達とは七姉妹学園から行動が同じだったでしょう?
には詳しく説明していないけれど、ゾディアックって言うクラブに潜入したり。春日山高校の防空壕跡に閉じ込められたり。
色々冒険したのよ」
の疑問には具体的に答えず、舞耶はこう切り出した。

「う……ん」
舞耶が何かを語りたがっているのは雰囲気で察せられる。
は曖昧に相槌を打ち舞耶が何を喋るのか待つ。

「防空壕は大変だったのよ〜。噂で『出口が見つからない』って変化した話題の恐怖スポット。同じ場所を何度もグルグル回って……まぁ、脱出できた生徒が居るっていう噂に助けられちゃったけどね」
苦労を微塵も感じさせない舞耶の語り。

防空壕での細かい話は簡単に省き、その攻略が如何に意地の悪いモノだったかを に説明する。
どれだけの事件を達哉達と乗り越えてきたのか に伝えたくて。

「音楽堂に入るのに、隣の公園から侵入したり。
宣託をユッキーのお友達に解いて貰ったり。
スポーツジムではうらら……私のルームメイトね? がペルソナ使いだって分ったり。沢山の爆弾を見つけたり。
空の科学館ではアイツの……キングの炎に包まれながらの脱出劇。短い時間の間に沢山の事があったのよね」

知らなかったゆきのの凛々しさ。
偶然という名の見えない糸に引っ張られて出会った、三人の高校生達。
外見や言動や行動が『イマドキ』の子供達であっても。
きちんと向き合って喋り、問題を解決していくごとに彼等が『普通』の子供達だと理解できて。
逆に時々こちらが仰け反り驚く位。
頼もしくて、弱い大人でも良いのだと慰められ励まされ。
舞耶は初対面時の彼等に対する印象を何度も塗り替えてきた。

「沢山の事件を通して達哉君や皆の素を少し見た気がしたの。
栄吉クンはビジュアル的な外見を裏切る正義感の持ち主だし。
達哉クンはポーカーフェイスが上手だけど、実は照れ屋な頑張り屋さんだったり。
リサはとても優しい子で。口調はきついけど誰よりも私達仲間を大切にしてくれる」
少しでも に達哉達の本当の部分を知ってもらいたい。
無意識に舞耶は行動を共にする子供達の長所を挙げた。

舞耶自身、JOKERを追う事が、奥深い事件に繋がるとは思っていなかった。
取材で訪れた七姉妹学園で偶然出会った達哉・リサ・栄吉。
JOKERから感じられる強烈な孤独感と懐かしさ。
達哉達からも感じる懐かしさ。

見逃してしまった何かの正体を突き止めようと、舞耶は仮面党とJOKERの謎を追う。

「アリが十匹で、アリが十(ありがとう)!」
《ギャハハハハ》
軽快にオヤジギャグを飛ばす上杉と笑い転げる悪魔の声。
舞耶も も一瞬、奮闘している上杉へ目を向け、再度、互いへ視線を戻す。

「でもね? のことは何にも知らなかったなぁ〜。ううん、自分から知ろうとしなかったな。って思って。
具体的に指摘してくれたのは上杉君や麻希さん達なんだけど」

 コツン。

自分の頭を軽く叩いて舞耶はおどけた。

なら大丈夫だと決め付けてしまったのは舞耶にしては痛いミス。
初対面の時の が余りにも飄々としていて。
芯の通った強さを持っていたから。
危うい達哉達よりは大丈夫だろうと。
自身が胸を張っていたこともありそう受け入れた。

「私は魔獣王の が知りたいんじゃないの。
ペルソナ使いの が知りたいんじゃない。
聖エルミンの二代目の が知りたいんじゃないの。
神崎  という名前の女の子を知りたいの」
舞耶はまだ少々冷たい の両手を自分の手で包み込む。

そもそも最初から間違えていたのだ。
不思議な能力を持った女の子が放火魔に追われている。
こう考えた自分が。
どんな側面を持っていても彼女は普通の女子高校生。
人より少し違った体験をしただけの女の子なのだ。

「マッキー、どうして急にそう思ったの?」
は心底不思議に思えて正直に言葉を飾らず直入に問う。

としては寝耳に水。
少なくとも舞耶や達哉達は自分の力を知っている筈だし。
情けなくも疲労で今回は倒れたが。
そこら辺の悪魔に倒される程度のちゃちな能力しか持っていないわけじゃない。
この混乱期、しかも仮面党が企みを進める中、いきなり『 と言う名のオンナノコ』を知りたいだなんて。
酔狂としか には思えない。

って、肝心な部分を何一つ喋ってくれてないじゃない。
今回の仮面党が起した事件をどう考えているのか、とか。私達の行動をどう思ってるのか、とか。
達哉君達を冒険者として名指ししたのは根拠があるんでしょう?」
悪魔とのコンタクトに使うマイクを取り出し笑顔で に迫る舞耶。
伊達に記者はやっていない。
取材回数だってそれなりにこなしているつもりだ。
半分カマをかけ へマイクを近づけていく。

すると、キョトンとした顔の の顔色が、舞耶の発言を理解してあっという間に下降していった。

「嘘がつけない正直な顔してる、

 にこぉ。

してやったりの笑顔を浮かべ舞耶は の額に己の額をくっつける。

「貴重な意見として受け止めておく……」
年の功には勝てないのか。
等と某噂HPの主が聞いたなら何となく腹を立てそうな暴言を内心で吐きつつ。
は舞耶の指摘を謙虚に受け止める事とした。




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