『デートと仲間とライブでGO4』




言い争う声がした。

爆弾について得意げに語るのは……長年克哉が追い求めていた憎き放火犯。

反論する複数の声に弟のものも混じっている。

克哉は舞台袖から舞台奥へ駆け抜けそこで弟と、女性二人と少女一人、少年一人を発見した。
兄を発見して口を薄っすら開く達哉と、動きを止めた達哉に何事かと動きを止めるゆきの達。

リサの友達からイデアルエナジーを奪い逃亡した佐々木銀次。

贖罪の迎え火と連動して仕掛けた爆弾。
爆発した音楽堂。

再度見(まみ)えた須藤竜也ことキング・レオの狂った笑い声が耳奥に木霊する。

新たな火種と難問に一刻の猶予もならない筈なのにどうしたことか。
怪訝そうな顔でリサは達哉の肩へ手を伸ばしかけ。

「じゃまっー!!」

 ドガシャ。

脇の倉庫の扉が蹴破られ達哉と克哉の間を通り過ぎて行った。
ゆきのはブツブツ呟き頭を抱え舞耶も冷や汗を流し、ゆきのの背を撫でている。

「駄目!!」
立ちはだかる に面食らい克哉は立ち止まった。

遠くで爆音が響く。
こげ臭い匂いが漂い始めた非常通路。

は冷静に鼻をヒクつかせ、匂いに眉を寄せてから母親代わりを召喚した。
が足元から競りあがる円形状の光に包まれる。

《マハブフダイン》
銀色の毛並みを陽光に煌かせソルレオンが口から吹雪を吐き出した。
瞬きする間に凍りつく非常通路。
薄い氷は忽ち通路を侵食し触手を舞台袖から舞台、音楽堂へ伸ばす。

新米ペルソナ使いである達哉達も、ゆきのですらも。

の放った一撃に驚愕し動きを止める。

麻希だけが困った風に頬に手を当てながら、 が蹴破ったドアから頭だけ出してゆきのへ手を合わせている。

「克兄はやるコトあるでしょ? 掲示(刑事)の克兄にしか出来ない事」
須藤による爆弾の予告を暗にちらつかせ、 は両腕を広げた。
達哉に詰め寄るなら通さないとも瞳に滲ませて。

「しかし」
漂う冷気に気付いていないのか? 克哉は口篭り と達哉を交互に見遣る。

あの兄が第三者に説得されている異様な光景に達哉は内心だけで放心し。
リサや栄吉には何がなんだかサッパリだ。
早速 の独壇場と成り果てた非常通路である。

「信じてあげなよ。自慢の? 弟なんでしょ。だいじょーぶ……多分」
ニッコリ笑って克哉に断言するかと思いきや。
後半部分は頼りない発言に達哉がコケる。
克哉は掛けていた眼鏡が数ミリ引力に従って下方へズレた。

「似てるって言ったじゃん。だから、大丈夫。兄弟なんだもん……信じてあげなよ。
周防弟を止めるの難しいよ。まぁ変な事に首は突っ込んでないし、周防弟」
は口先を尖らせ数十分前に告げた言葉を繰り返し口に出した。

「……」
疑惑の眼を向けられても は怯まない。
無邪気な表情すら浮かべ、余裕たっぷりに克哉の視線を受け止める。

 変な事じゃない。因果の巡り合わせ。
 ニャルの罠。
 全てが混ざり合った、周防弟達が本当の自分を探す冒険。
 仕組まれた冒険。茶番の冒険。
 ここでヤメロっつても、やめてくれないだろーしさぁ。
 周防弟達。

胸の中だけで挫けかけて持ち直して。
は克哉へ切り札を持ち出す。


「放火魔が爆弾魔になった」
不意に が表情を引き締め目を細めた。
の眼差しに耐え切れず克哉が目線を逸らす。
そんな兄に矢張り心の中だけで驚く達哉。
ポーカーフェイスに見えて現在の達哉はドキドキ真っ最中だ。

「珠阯レに住む無関係な人が爆発に巻き込まれちゃうかもよ? 放火魔に襲われた、わたしみたいに」

おどける に克哉は深々と。
マリアナ海溝より深いのでは? と、似たような苦労を味わった栄吉が同情するくらいには。
深々とため息をつき顔を上げた。

「不審な物があったら警察に連絡するんだぞ。勝手に触るんじゃない」
「はーい……や、真面目に答えてるって〜!! 信じて! 克兄!!」
揉み手をしながらヘラリと笑う の姿に『説得力』の『せ』の字もない。
皆無と表現しても良い。

克哉はもう一度深く息を吐き出した後、達哉を盗み見ただけで非常口から慌しく出て行った。
無意識に力を込めていた拳を解き達哉が小さく息を吐く。

「まーったく世話の焼ける兄弟だね。あ、周防弟、克兄にはこの氷見えないよう小細工したから。そこんとこヨロシク☆」
は腰に手を当て仁王立ちで走り去る克哉の背中を見送る。

さり気に弟の目前で、毒を含ませた彼込みの評価を下した。
続けて言った の配慮は有り難いがそれはそれ。
これはこれ。
別問題だ。
無言で額に青筋を浮かべ「お前には言われたくない」と静かに怒る達哉に思わず怯えて、栄吉が半歩下がる。

「サキちゃんほどじゃないよ」
しかしながら強者には上がいた。
くすくす口元に手を当てて笑いながら麻希が容赦なく即座に。
に対して言い返す。

「し、信頼を下さい」
胸を押さえて呻く と笑顔の麻希。
あちゃー、と帽子を目深に被り視線を逸らすゆきの。

美しいバラには棘が……等と考えるリサと栄吉。
舞耶は仲が良さそうな と麻希を微笑ましく見守り。

達哉はあの不思議生物を超える兵をキョトンとした顔で見つめる。

ここに二人の上下関係を垣間見る五人だ。

「頼ってこなかったサキちゃんが悪い〜。城戸君にもばっちりメールしてあるからね♪」
益々楽しそうに麻希がトドメを刺す。
自分の携帯を上着のポケットから取り出しながら。

「まぢっすか?」
が恐る恐る尋ねる。
心持ち顔色は青く声も震えているようだ。

「まぢまぢ」
にこにこ笑って麻希が答える。

「終わった……わたしの人生終わった……」

眉間の皺通常比2倍。
額の青筋やっぱり通常の2倍。
の城戸の姿が瞼にクッキリ浮かぶ。

真っ白に燃え尽きる

一世を風靡した某ボクサー漫画の主人公のように燃え尽きている。
思わずタオルを投げ込んで遣りたくなる程の落ち込み具合だ。

《燃え尽きるのは勝手だけど次が控えてるわよ、
克哉には視えていなかったが、他のペルソナ使いにはしっかり視えている。
ソルレオンがここで漸く口を開いた。
克哉がこの光景を見れば の頭の心配をしてしまうだろう。
等とソルレオンなりに配慮しての結果だ。

「余韻くらい浸らせてよ!!」
頭を抱えてイヤイヤなんて悶える

頭の中の城戸は拳を突き出して燃えている。
悲鳴をあげて城戸から逃げる( イメージ) はそれどころじゃなく。
一人の世界へ突入。
そんな へ五人は誰もツッコめない。

《タイムイズマネーって言うじゃない》
ソルレオンはニマニマ笑って鼻をヒクヒクと動かした。
ついでに尾尻も揺れている。
人の不幸はなんとやら。といった態である。

「やっぱりフィレとニャルはぶっ潰す!! 元々はあいつ等が悪いんじゃー!」
頭を両手で抱えた格好で上半身を左右に振り は絶叫した。
俗に言う『逆ギレ』

「うわ〜、頼もしい〜」
麻希が一人白々しく手を叩いて褒める。

美人サンなのに底知れない黒さを感じさせる麻希。
逆らってはいけない人と頭のメモにインプットした新米冒険者四人(ゆきの除く)であった。



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