『デートと仲間とライブでGO3』




 贖罪の迎え火だぁ!?

なんじゃそりゃ。
はダイレクトに飛び込んでくる電波男の妄想を聞き齧り。
手にした携帯電話を硬い音楽堂のコンクリート床へ落とした。

発想の大胆さは、もうこの際だ。
阿呆につける薬はない。

馬鹿馬鹿しさに眩暈を起しかける を克哉がさり気なく支える。
その横で意味深な含み笑いをしつつ、麻希が の携帯を拾い上げてくれた。

「どーやらココは爆破するみたいよ?」
舞台が暗転し司会のアナウンスが入る。

暗くなった舞台に人影が現れた。

シルエットでしか分らないが十中八九リサとその友達だろう。
彼女達はMUSESとしてステージに立つ。
客席は水を打ったように静まり返った。

「「爆破?」」
麻希と克哉の声がハモる。

麻希は の単語を純粋に反復し、克哉は から飛び出した突拍子もない台詞に驚愕して。
異なる二つの感情が乗った反応に は薄く哂った。

「うん。ほぼ間違いなく」
流れ始めるイントロダクションと歌い始めるMUSESの三人。
は一瞥してゆるーい笑顔を顔に貼り付け二人へもう一度言う。

「えーっと予言の成就とやらに必要らしいよ? 思い出すだけで本当、馬鹿らしくてしょーがないんだけどさ。
放火魔の電波系が云うには、食材(贖罪)の迎え火。
マイヤの洗濯(宣託)をじょーじゅさせる手順の一つなんだってさー。
つーか、爆破って犯罪っしょ……。そーゆうの麻希ちゃん詳しくないよね?」

の謎々を解こうと考え込んでしまった克哉はスルー。
は克哉から数歩分距離を取り麻希の耳元で喋り始める。

至近距離でなければ、コンサートで高まった歓声に声がかき消されてしまうからだ。

「オカルトは流石に詳しくないかな……あ、でも」
麻希は腕組みをしながら首を傾け考え、考え言って何かを閃く。
表情を心持ち輝かせて へ顔を向けた。

「エリーなら何か分るかも。ここの事件を抑えたら上杉君に会いに行こう」
告げる麻希の声が一瞬掻き消される。
困った風に眉根を寄せ麻希は再度喋り直す。

会場に広がっているのは観客と響く歓声。
話題性抜群のミニコンサートだけあって否応なしに空気は盛り上がっていく。

「上杉サン?? えーっとブラウン?」
は記憶の片隅から人物の名前を引っ張り出し、声に出した。

「そう。エリーがモデルしてるのは知ってるよね? 上杉君はタレント。エリーと会った時、上杉君が気になる事があるって言ってたのを聞いた。
それにエリーを先に頼るのはゆきの達でしょう? 邪魔しちゃ悪いよ」
麻希は に同行する気満々である。
顔を一瞬顰めた に首を横に振って見せた。
瞳が の拒絶を無視するとも云っている。

 うううぅ〜、麻希ちゃんには何故か勝てない!!
 ケッコーお兄ちゃんと似てるんだよねぇ。麻希ちゃんてさー。

「確かに」
奇妙な敗北感に包まれた が口数少なく麻希に応じた処で、克哉が再起動を果たした。

「……君は」

果たして何処までこの少女は知っていて、何を目的としているのか?
そもそも何を知っているのか?

頭の中を渦巻く疑念が克哉を捉えて離さない。
懐疑的な眼差しを受けても尚、 は克哉と距離を取る素振りはみせなかった。

「克兄、 で良いですよ〜。一年前、封じていた自分の力を取り戻しちゃった馬鹿な小娘です。
気取るのは正義じゃないけど。別に怪しい宗教勧誘じゃないですよ?」
最後を慌てて付け加える に克哉は無言で頷く。


声を大にして云えないが、実は弟も。
ある時期を境に不可思議な力を使っていた……節がある。

近所の年上の男の子達にちょっかいをかけられ当時の達哉は耐えていた。
なのにある日、唐突に。
近所の少年達の攻撃が止んだ。
それからだろうか?
達哉が人付き合いを避け、孤独を好み、誰一人、身内さえも近寄らせない。
あの空気を纏いだしたのは。
方向性や考え方は違う。

けれどこの少女は驚くほど弟に似ている。

不意に気付いて克哉は内心だけで苦笑した。

気になる。
当然だろう。
外見や吐き出される言葉は違っても根底が達哉にとても似ているのだから。
とてもじゃないがこの少女をこのまま見捨てては置けない。

「悲劇や悲しみを回避できるなら、やれるトコまで走ってみよう。ってゆー、へなちょこコンセプトなの。
絶対阻止とかじゃなくて。しかもわたしが知ってる人だけ笑ってくれてればいーや。って考えなの」
の耳を通り過ぎていく曲名は『JOKER』
カリスマプロデューサーの佐々木銀次が大々的に宣伝していたモノ。
滞りなく歌い上げていくMUSESの三人。
眉を顰めた克哉に両手を合わせて謝って はリサ達が歌い終わるのを待つ。



 ふーん。結局ソロパートは日本語に変更したんだ。
 リサっちから迷いが消えた?
 うーん、コンプレックスは解消されたってコトで良いのかな??

すっきりしたリサの雰囲気だけは伝わってくる。
は己のダークサイド代表のルーへ問いかけた。

《ある意味吹っ切れてはいるみたいだな。こちらで感知すべき問題ではないが》
人の負・闇に近い感情には鋭いルーが、リサが踊って歌っているだろう方角へチラリと目を動かしただけで素っ気無く反応を返した。


 自分で気がつかなきゃ駄目だし……。
 海外生まれの両親の子供が、英語喋れないなんて。
 ケッコーびっくりしたけどさ。
 日本びいきの両親が帰化しちゃうんだもん。
 英語に触れ合う時間なんてなかったよね……リサっち。


堂々とソロパートを歌い上げたリサに小さく拍手を送る。
がまったりしているとMUSESのデビューミニコンサートは終わり……同時に、栄吉の声が会場に響き渡った。

アナウンス室からだろうか。

爆弾が会場に仕掛けられている。
早く逃げろと切羽詰った声音で喚く栄吉の声に、人々のざわめきが漣のように響いた刹那、爆弾の一つが爆発する。

観客から悲鳴が上がった。

無理もない。
爆弾だなんて。

克哉は呆然と一瞬だけ立ち竦みと麻希はアイコンタクトを交わした。

高笑いを響かせ舞台から去っていく佐々木銀次とリサを守る様に現れる達哉達。
弟の姿を前に克哉は黙っていられなかった。

「達哉!!」
駆け出していく克哉の素早さに頬を引き攣らせるも、 は自身のペルソナを呼び出す。

「ペルソナー!!」
《天上の舞》
女神フォースが の喚びかけに応じ現れ動揺する観客を次々に魅了していく。
一種のチャーム状態に陥った観客はフォース誘導の元、一糸乱れぬ隊列を組み音楽堂出口へ歩き始める。

「お願い、私を助けて」
麻希も続いて自身のペルソナ『ラクシュミ』を召喚する。

ラクシュミが所有する万能魔法『ザンダイン』を用いて落下する音楽堂の壁面を粉々に打ち砕いていく。
数十分もせず観客は無事退場。
と麻希は克哉の後を追いステージから舞台裏に足を踏み入れた。




Created by DreamEditor                       次へ