『デートと仲間とライブでGO2』




のほほんとした、穏やかな空気を発している二人は気付かないだろう。
というより、忘れてしまっているのかもしれない。

二人が居るのは青葉公園。

公共の場であり、人目も多大にある場所だという事を。
その証拠に数人の人間が好奇に満ちた視線を二人へ送っている。

ショートカットの女性は一瞬だけ呆気に取られ、二人を眺めるも。
口の中で何かを呟き深呼吸を一回して。

それから二人へ……お姫様抱っこされている へ声をかけた。
「良かった。間に合って」
不自然にならないよう慎重に女性は言う。

肩までの髪は切った。
頭の上のリボンもしない。
コンパクトはお守り代わり。机の引き出しに仕舞われている。

あの頃の自分より目標も出来て毎日を楽しく送っている。

すっかり健康を取り戻した園村 麻希がそこに居た。

「……嘘!?」

 ありえねぇ!!

なんて叫びそうになって寸止めで踏み止まる。
の奇声に麻希は表情を変えず穏やかに微笑むだけ。

微笑むだけなら良いが額に薄っすら青筋が浮かんでいる風にも見えなくもない。

「こらこら、助っ人に対してその態度はないでしょう? そこにいる神崎 の先輩で、園村 麻希と申します」
「どうも」
麻希から挨拶され克哉も頭を下げた。
が微妙に目の前の女性に怯えている風に見えるが、挨拶を無視するわけにはいかない。
何処までいっても克哉は律儀だ。

「麻希ちゃん! まぢどーしたの??? バイトじゃなかったっけ???」
は目を丸くして麻希に尋ねる。

麻希は臨床心理士目指して邁進中の大学生。
しかも少しでも多くを学ぼうと、柊サイコセラピーというカウンセリングルームでバイトをしていた。
普段なら今もバイト中の時間だ。

「うん。少し前にゆきの達がバイト先に来てね。一応話は聞いたし、あの二人からも少し話は聞いたんだけど。
どうしてこういう時に私に連絡が来ないのかなぁ? って考えたら大人しくバイトなんて出来なくなっちゃって」
追っかけてきた( のペルソナ反応を探して来ました)。
暗に含ませ再度ニッコリ笑った麻希の笑顔が怖い。

「「……」」
今度こそハッキリ怯えた
を抱き締めていた克哉は無意識に抱きしめる腕に力を込めた。

底知れない女性・園村 麻希と良い。
ヤ○ザも真っ青の城戸という青年と良い。

どれだけ個性豊かな面々に囲まれているのか。

改めて の凄さというか、なんというか。

表現しがたい感動めいた気持ちが克哉の胸に沸き起こる。
弟の、あの孤高を貫く姿と正反対のこの少女が羨ましくも思えてくる。

「ああ、それともお邪魔だった?」

 ポン。

自分が勘違いしていたのか。
麻希は手を叩き二人の頭の先から靴先を眺めた。

「「?」」
揃って首を傾げる と克哉に麻希は二人の姿勢を凝視する。
出来る事なら目線で事態を察して欲しいと願いを込めて。

「あ、すまない」
克哉は漸く己の失態に気付き を地面へゆっくり降ろす。
「い、いえ。ありがとう御座いました」
対する もどもりながら返事を返し、耳まで真っ赤にして克哉へ頭を下げた。

「あーゆうオニイサンタイプに弱いもんね、サキちゃん」

 サキちゃんの普段のレベルが城戸君と麻生君だし。
 男を見る目はありそうだもん。

愉快そうに輝く麻希の瞳がそう物語っている。

「ち、チガイマス」
は冷や汗を大量に掻きつつぎこちない片言で否定した。

「あはははは。そういう事にしておいてあげる♪」
首を竦めた の頭を撫でて麻希は心底楽しそうに笑う。

当事者ではない今回。

ゆきのが居る。

こんな単純な理由だけで彼等に手を貸して良いものか。

麻希自身もかなり迷った。
自分の心の闇は他人に覗かれ暴かれるモノじゃないから。
立ち直る強さを自分で見つけるしかないから。
手助けは貰えても、実際に頑張らなければならないのは自分。
自分の弱さを見つめる勇気を持つ事。

ぼんやり考えていた麻希を動かしたのは他でもない である。

利害や損得など考えていないだろう。
見てしまったものを見捨てて置けないだけ。
ただそれだけの理由でニャルラトホテプの罠に掛かった彼等を助ける。

助かったから、自分にとっては過去だからなんて言えない。

麻希は思う。

あの時の諒也達のようになれなくても。
僅かでも手助けできるなら動く。

こう決めたからバイトを途中で中断して の元へ駆けつけたのだ。
もう一人の自分であるアキとマイの助言に従って。

「でも助っ人って? 麻希ちゃんに手伝ってもらう事って……あったっけ??」
「アノ城戸君が私にまでメールくれる訳だ。野外音楽堂でリサちゃんがコンサートするんでしょう? 見に行かないの?」
この期に及んでボケる に麻希は深々とため息を吐き出す。

麻希から見て当事者にされたリサという少女は相当動揺していた。
それに不自然に何かに怯えていた。
ジョーカーから名指しで復讐すると言われている少女が、アイドル。
裏がないという方が無理がある。
だからこうして近くに落下しているだろう を捜しに来た。

見知らぬ男がお姫様抱っこしていたのは麻希の想像外であったが。

「行きたいけど……さっき、TVスタッフも入れないって克兄が、あ、周防弟のお兄さんで刑事さんね? が言ってたよ? チケットとかってもうないでしょ」
は小声で麻希に耳打ちする。

困った現実には慣れっこだ。
潜り込むなり強行突破なり方法は多種あるが克哉の手前口にはできない。
無難に麻希へ応じる。

「うーん、どうするかな」
麻希も緊迫感欠ける調子で腕組みをして考え込む。
「コンサートに行きたいのか?」
ズレた眼鏡の位置を直しながら克哉は探る風に へ口を開く。

「コンサート自体は興味ナシです。正しくはコンサートに参加させられちゃう、メンバーの一人で知り合いのリサっちを励ましに。それと良くない事が起きる気がするから」

燃え上がるステージ。
影人間になる誰か。
笑う放火魔。
付き従う胡散臭い男。
対峙する達哉達。

の脳裏に浮かび上がるイメージはどれも楽しいものではない。
渋い顔をして正直に答えた をまじまじと見つめる克哉。
薮蛇になるので黙る麻希。

「こっちだ」
「え?」
形の良い顎に手を当てて逡巡した克哉は音楽堂へ通じる道を指差した。
行き成り展開する現実に は間抜けた相槌を返す。

「交代時間まで少ししかないが、会場の隅に居る位咎められやしないさ。入れるように僕も同行しよう」
の手を取って歩き出す克哉に迷いはない。

何故だか知らないが は克哉の信頼というか信用? と思しきモノを得てしまったようだ。

は引っ張られて歩きながら理由が分らず戸惑う。
こんな胡散臭い高校生信用できるのか?
我が事ながら、感じずにはいられなかったから。

「ほらほら、やっぱり好みど真ん中?」
「違うって!!」
そんな の困惑を切るのが麻希で、ニマニマ笑いながら に囁く。
当然、 は河豚の如く頬を膨らませ即座に否定した。




Created by DreamEditor                       次へ