『デートと仲間とライブでGO1』




 落ちません様に!!!

と祈る の願い虚しく、噂によって具現化した空間から放り出される。
浮遊感、というよりかは落下の感触に滂沱の涙を零しつつ。
は達観の域へ陥りかけて。

「はぇ!?」
春日山高校屋上へ落下した時同様。
誰かに身体を受け止められ、 は目を白黒させた。

セベクスキャンダルの時はこれでもか!!
某白蝶々の陰謀かと勘ぐってしまう位、硬い地面などへ落下していた である。
自分を抱きとめる意外と逞しい腕に頭の中で疑問符を盛大に飛ばす。

「大丈夫か?」
呆然とする の視野に飛び込む整った顔。
細身のスーツに身を包んだ、掲示(刑事)に見えない苦労性兄、周防克哉が の顔を覗きこんでいる。

「あ、ああああぁぁぁああぁ!!!!」

 うっそ!! うっそー!!!!

気持ちを込めて は遠慮なく大声で叫んだ。
叫びというか雄叫びに近い音量で。

「……」
を受け止めた手前、耳が痛くても我慢。
克哉はキンキンする耳に眉間の皺を深めながら静かに耐えた。
至近距離で大声で怒鳴られ を落とさなかったのは流石である。

「ご、ごめんなさいっ!! 克兄!! つい驚いちゃって。てゆーか、驚くよ!! ねぇ、驚くよね??」
俗に云う『お姫様抱っこ』をされた状態で、 は克哉の上着を握り締め叫ぶ。
自分も混乱していて普段よりも意味不明瞭な呼びかけとなっていた。

何もない空から突然降って湧いてきた(文字通り) を克哉は目撃していたに違いない。
でなければ の着地点を確かめ抱きとめる事など到底できないだろう。
見られてしまった事へのショックと、巻き込んでしまうかもしれない恐怖が の身体を襲った。
アヤセ二号はノーサンキューだから。

「正直……驚いた。眼鏡を買い替えようかと考えた程度には」

非科学的にも程がある。

けれどこの少女なら人とは違う部分があるんじゃないか?

克哉としては目の前から降ってきた少女の存在を否定したかった。
が、受け止めた瞬間に諦める。
質量を伴った存在が実際に腕の中にある。
これを否定する材料を克哉は持たない。

何かをしくじった風な顔をしている という少女に尋ねた方が早そうだ。
こうも考え多くを語らず答える。

「うう〜」
は無常な克哉のお答えに低く唸った。

《彼の姿に何かが重なって見えますの。不可思議な感覚ですわ》
グルグル考える を無視して、フォースがこの間から感じていた違和感を吐露する。

ペルソナ使いの微弱な気配を撒き散らすこの刑事。
てっきり弟の気配が残り香の様に移ったのかと思えばそうでもない。
ペルソナである己達の何か、に引っかかる空気を持った男なのだ。

《それよりも先ず、どうやって誤魔化すか。よねぇ》
ソルレオンは世間話を持ち出す要領で本題に話を持っていく。

《何もない空間からポイっと落ちてきたんだからな。彼にはドッキリより性質の悪いドッキリだったろう》
爽やかに笑えない事実を指摘するのはルー。
麒麟は呆れ果てて声も無い風に吐息を吐き出している。

 み、皆酷いよ!!! 言い訳するのわたしなんだよ!?
 ちょこーっとは役に立つ嘘とか言い訳とか考えてくれないの!?

脳内で展開される無責任な役立たず脳会議に は悲鳴をあげる。

《ああ、無理無理》
ルーは のペルソナの代表として、ヒラヒラ手を左右に振りつつ能天気に笑う。
どれだけの嘘を重ねても が何もない空から突如現れ落ちてきたのは『事実』なのだ。
バッチリ目撃されて嘘も言い訳もないだろう。
ルーの偽らざる考えだ。

 爽やかに笑って手を振るなぁああぁぁぁぁぁ!!!!

それはそれ。これはこれ。
は頬を膨らませ頭の中の彼らに怒りの声を発し、大きく息を吐き出す。

 分ってますよ。無理無理。
 克兄に二度目の誤魔化しは効かないってゆーのはさっ。
 覚悟してたけど、何もこんな状況で怪しまれるのっていーやー!!!

「ここって何処なんでしょう?」
心の中だけで身悶えしても現実は待っちゃくれない。
現に克哉は物問う眼差しでずーっと を見詰めているのだ。
は弱々しい愛想笑いを浮かべ、取り合えず誤魔化に挑戦してみる。

「青葉公園だ。なんでもTVすら入れないコンサートが行われるとかで、警察も借り出されてこの様(ざま)さ。
警察も暇じゃないんだが……時間交代で全員が警護にあたる羽目になってね」
苦りきった克哉の表情から、この仕事が本意ではないと は悟る。
無理もない。
彼は確か殺人課。
このような警護の仕事より大切な仕事を山ほど抱えているのだろう。

ぼんやり考え は公園越しに見える青葉野外音楽堂へ視線を移す。

「野外音楽堂でコンサートか」
はリサの苦痛に歪んだ表情を思い出しながら。
誰に言うとはなしに呟く。

「説明したくないのか?」
「……」
気遣いつつも核心を問う克哉に は沈黙を守るしかない。
黙り込んでしまった を克哉は責めなかった。

「どうも最近の珠阯レは可笑しい。それに」
刑事として市を多角的に見ているからこそ、感じるのだ。
率直に尋ねるのも気が引けて克哉は遠まわしに伝える。
この少女なら答を持っている。
刑事として培った勘が克哉に教えていた。

「周防弟も、でしょう?」
は諦めの混じったツッコミを克哉へいれる。

途端に顔色を変える克哉は矢張り筋金入りの『兄馬鹿』らしい。
達哉はきっと迷惑しているだろうが、 からすれば羨ましい。
こんなに心配してくれる兄弟がいるというのは。
憧れてしまう。

「えーっとついこの間正式に知り合いました。
克兄が心配するほど無茶するタイプじゃないし、無愛想って訳でもないですよ。似てるなって思ったし」
克哉の剣幕に少々引きながら。
は事件の渦中に放り投げられた達哉のフォローを試みた。

口が裂けても掲示(刑事)さんの弟は悪魔と戦ってマス。
なんて言えない。

「?」
克哉が の台詞に小首を傾げる。

「不器用なところ、誰かを巻き込みたくないところ、でも優しいところ。一人で頑張っちゃうところとか。すごく似てる」
含むところなど微塵もなく。
はただ感じたままを克哉へ告げた。

似ているからこそ反発してしまう部分もあるだろう。
けれどこのまますれ違うのも悲しい。

余計なお世話だと周防弟に怒られるのは覚悟しよう。

は腹を括って敢えて告げる。

「ありがとう」
昔は家族団欒の中にあった言葉達。
しかしその家族の絆は切れてしまった。

思わぬ存在から改めて『似ている』と指摘され、克哉はある種の擽ったさを覚えつつ素直に感謝の気持ちを伝える。
ほのぼのした空気が二人を包み込んでいた。




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