『女の武器を使いましょう3』



ズリ落ちた眼鏡を直し、克哉は何度も深呼吸を繰り返した。

「好奇心が強いわたしをいつも心配してくれるんです。バイトで夜遅い時なんか家まで送ってくれたりするんですよ」
更に言葉を続ける にアヤセも小さく肩を竦めて援護射撃。

「それと、わたしと同じ学年だったんですよ。城戸は」
仏頂面の城戸を挟み とアヤセで克哉に説明。

「それから……怖い外見だし、雰囲気も怖いけど。でもとっても優しいんですよ」
つま先立ちして克哉の耳元に囁けば、克哉は表情を崩し の頭に手を置いた。

「頼もしい先輩に囲まれているんだな、君は」
辛うじて搾り出す克哉のコメントに は心持ち胸を張る。

「頼もしくてすっごく仲の良い大切な友達です」
破顔する の表情に目を細める城戸と、口元を緩ませるアヤセ。
揃って の両耳を引っ張る。
奇妙な顔になった を今度は穏やかに笑い克哉は眺めた。

「だから……諦めないで下さいね。色々」
克哉が背負うモノ。周防弟が背負わされたモノ。
重さも何もかもは違うけれど、兄弟の運命を大きく狂わせてしまったモノだから。

「わたしだったら頼もしいって思うんだけどな、克兄みたいなお兄さんが居たら」

 えへへ。

照れ笑いを浮かべながら面と向かって克哉に告げる。

「……ありがとう」
不思議な少女だ。
改めて感じ、克哉は自然と感謝の気持ちを言葉に起こしていた。

歳相応に調子の良い部分を持ちながら、歳不相応に無邪気で。
掴み所がない。
それでも嘘はついていない様子で、刑事である克哉にも懐く。

「では失礼します」
潮時だ。
はまだ克哉で遊びたいらしいが、これ以上は付き合えない。
アヤセは判断を下し の襟首を掴む。
城戸へアイコンタクトをとれば、城戸も頷く。

「お騒がせしました」
猫の子宜しく背後に引きずられていく
見送って克哉は奇妙な親近感を へ抱いていた。


警察を無事出られるかと思いきや、そういかないのが世の中である。


「おや?」
いかにも偉そうです。
制服も階級章も中年の身分の高さを示す。
ドラマで見そうな制服姿の中年男性は、奇妙な三人組を警察署入り口で見咎める。

「……富樫所長……」
ついつい頭の中に浮かんだ単語を口にした は、目の前に飛び込む映像に目を丸くした。
周防という名の刑事とコンビを組む若かりし頃の富樫。
追っているのは須藤という名の代議士。

放火犯を追う二人。犯人は……。


「須藤……竜也」

あの壊れた笑い。
人と違う何かを見詰める濁った瞳。
己の脳内電波を頑なに信じる怪しい言動。
現に現在も『魔女?』とやらを捜し火を放ち悪魔を操る。

乾いた唇を意識して、口に出した言葉は無意識のもので。

どこか遠くを見詰める の異変に、城戸とアヤセは素早く察する。
が望もうと望むまいと人に関する映像が見えてしまう。
ペルソナ使いでありながら二つ名を持つ の背負ったモノ。
一歩間違えば誇大妄想が激しい思春期の少女とも思われるが。

 これはヤバい。

恐らく目の前に居る『富樫』なる人物の過去を視ている。
富樫なる中年警察官が驚愕に目を見開いていることからして明らかだろう。
だがこれはマズイ。
子供の戯言と誤魔化して逃げるのは難しい。
ココはまだ『警察署』内なのだから。

 仕方がない。

アヤセは口から大きく息を吸い込み、鼻から吐き出し。
盛大に悲鳴を上げた。

「安心したら怖くなったのね! ご免ね、直ぐに迎えに来なくて!!!」

 がばっ。

を窒息死させる勢いで抱きしめ、富樫から見えない位置で目薬装備。
目元に流し込みこれ見よがしに泣き声を上げる。
城戸は演技派ではないので、下手に口を挟まず沈痛な面持ちを装って黙り込む。

「「????」」
突如始まった何かに、ハテナマークを盛大に飛ばす富樫と

 えーっと??? ナニをアヤセは泣いてるのぉ〜????

抱き締められて酸欠寸前。
は顔を真っ赤にしてぼんやりする頭で懸命に考える。

《一瞬意識が飛んでいたぞ、 。ほら、中年の刑事が己の過去を見透かされて驚いてるじゃないか》
ルーがのんびりと の意識を落ち着いたものへ戻していく。

 もしかして。
 このおっさん、富樫とか言うおっさん。偉いのかなぁ?

ワンワン泣き叫ぶアヤセに首を絞められ、 は蛙が潰れた様な悲鳴を上げた。


《偉いだろう。克哉が署長と呼んでいるぞ?》

 ……はい???

《克哉も驚いているなぁ。富樫が克哉に君の素性を尋ねているぞ》

 えっ!?

《面識のない少女に己の秘密を呟かれて、心中穏やかじゃないだろう。普通なら》

 はうっ。


ルーとの脳内漫才ここに極まれり。
麒麟が二人の噛み合っている様な、合っていない遣り取りに鼻を鳴らす。
やっと己の失態を自覚する
アヤセに倣い激しく泣き始めた。

「怖かったよ〜、お姉ちゃ〜ん」
の悲鳴に城戸が小さく息を吐き出す気配がする。
呆れ果てて言葉もないし、フォローも出来ないといった態だ。

 ううっ。ごめん、ごめん!! アヤセ、城戸っち〜。

「本当は焼け死んじゃうんじゃないかと思って、怖かったよぉおおぉぉぉ〜」
一応念の為に叫んでおく。
の目元にアヤセがこっそり目薬を投入。
二人して激しく泣き叫び、警察署内の注目を一身に集める。

「……すみません」
城戸がしきりに克哉と富樫に頭を下げている。

「緊張の糸が緩んだんです」
強面の城戸が取り付く島もない風に言い切って とアヤセを連れて去る。
風を切って誰の追及も眼光一つで封じる城戸の姿は。

 神取みたい〜!!
 母親違いの兄弟だけあって、年々似てくるよねぇ〜。

わざとしゃくりあげながら は内心、結構失礼なことを考えていた。


「一体あの子は……」
富樫は眉根を寄せ城戸に連れて行かれる の後姿を見送る。
「彼女は警察に世話になる子ではありません。放火事件の目撃者です」
の名誉の為に克哉が、富樫へこう言ったのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 所謂伏線ってヤツだね。罰の。
 アヤセと城戸、中々良いコンビネーションを持ってるかと。
 ゲームの罪でアヤセと異聞主人公が出てこなかったのが詰らないと思ったので。ここでは出したいです。
 ブラウザバックプリーズ