『女の武器を使いましょう2』


一瞬だけ動揺を見せた克哉。
だが彼は非常に優秀な刑事である。

直ぐに仕事の顔に戻り から一通りの事情聴取を執り行う。

「神崎さん、君は未成年だから保護者を……」
言いかける克哉を突き飛ばす女性一人。
「サキ!!! 心配したのよっ!」
小柄な女性は を力いっぱい抱き締め、甲高い声で叫んだ。

克哉は手にしていた書類を取り落とし、ズレた眼鏡もそのままに。
本日二度目の硬直。

《あらあら、可愛いじゃない。刑事のお兄さん》
の頭でソルレオンが茶々を入れる。

 うん。周防弟よりかは可愛いよね、克兄の方が。

面と向かって克兄と呼んでいるのに、気がついていないらしい克哉。
を妹のような気分で見ている。
城戸とは対極的存在のお兄さん。
しかもちょっと騙されやすい。

の猫被りに気づいているけど、どうやって剥そうか困ってるもの。城戸とは違うわね〜、両方不器用だけど》

 あははは〜。そうかもねぇ〜。
 城戸っちは怖いけど優しいお兄さん。
 克兄は厳しいけど心配性なお兄さんってカンジ?

女性に抱き締められた格好で、 は至って呑気にソルレオンへ返事を返した。

「サキ〜? 聞いてるの?」

 べち。

の額にデコピンひとつ。
かまし、黒髪の髪を揺らし女性は を睨む。

「ごめん、アヤセv 迎えに来てくれたんだよね?」
茶髪は卒業。
艶やかな黒髪は肩までで切り揃えられ、化粧も大人を意識したナチュラルメイク。
ピアスも派手な光物から小ぶりの石へ。
すっかり大人のお姉さん仕様に変身したアヤセは の台詞に眉を持ち上げる。

「城戸から聞いて慌てて、よぉ? あんまりアヤセを心配させるんじゃないわよ」
口調だけは相変わらず子供じみているが、アヤセなりの配慮。
アヤセの背中に手を回して はアヤセへしがみつく。

「うん……」

 すん。

鼻を鳴らす の頭をアヤセは何度か撫でた。

「あの、この子の近所の者で綾瀬 優香と申します。神崎さんから頼まれて迎えに来ました。わたしが一番近くに居たものですから」
余所行きの顔で克哉に会釈するアヤセの姿に は目を丸くする。
笑いかける を察してアヤセは素早く の足をローファーの踵で踏みつけた。

「!?」
ヒクヒク痙攣する の口元。
アヤセは表面上、優しい近所のお姉さんチックに振る舞い克哉と身元引き受けの話をしている。

 痛いよっ! 痛いよぉぉおおぉ〜。アヤセ〜。

涙目の を無視してアヤセは克哉から書類を受け取った。
の拘束を解き、バックから取り出したペンで必要事項に記入を始める。
恨めがましい の視線をきっぱりすっぱり無視して。

《笑おうとするからだろう?》
いじけ始める にルーが呆れ声で言う。

 だってぇ〜。余所行きのアヤセって笑えるよ?
 爆笑モンだよ??? ここで笑わずにいつ笑うのさ〜。

《流石に警察で笑われたら、許してもらえないと思うけどねぇ》
頬を膨らませる をソルレオンまでが宥める始末。
書類を書き終えたアヤセが に声をかけようとして、刑事課入り口へ目線を送る。

「ほら、怒ってるよ?」
一人考え込む の肩先を指先で突きアヤセが注意を促す。
何事かと がアヤセの顔を見ればアヤセの背後には。

「城戸っち!!!」
奇声を発する と、外見は悪徳金融の職員にしか見えない城戸の渋面。
克哉は を取り巻く環境に本日三度目の硬直。
一体この子はどんな大人に囲まれて育っているのか、余計なお世話だが案じてしまった克哉である。

「あれほど言っただろうが」
ヤ○○さんも真っ青のドスの利いた声音。
凄む城戸に は口を真一文字に結び、俯いた。
刑事課の他の職員も思わず動きを止めて城戸に注目するくらいに空気が張り詰める。

「あれほど言っただろうが、サキ」
険しい顔つきで を見下ろす城戸。
声と表情からは怒っているとしか見えない城戸の態度だが、正確には城戸、 を心配していただけである。

「危ない場面に遭遇したら?」
固唾を呑んで見守る克哉とは対照的にアヤセは苦笑い。
城戸の動揺と焦りが分るだけに、揶揄することが出来ずにいる。

「助けを呼ぶ。警察へ電話する。単独行動はとらない」
小さな声で返事をした の頭に降って来るため息。
腕組みした姿で城戸は再度ため息を吐き出した。

「サキ、お前はまだ子供なんだ。無茶するんじゃねぇ」
乱暴に の髪を乱し城戸がひとりごちる。

「申し訳ありませんでした、サキが迷惑かけたみたいで」
更に城戸は硬直する克哉に向かって深々と頭を下げた。
アヤセは笑いかける の口元を塞ぎ首を横に振る。

 てか、克兄大丈夫かな? 人生驚きの連続みたいな一日じゃん。

そもそもの原因、己の所業は無視して はペルソナ達へ言う。

《ふふふ。城戸様もアヤセ様も、不器用ですが根は優しい方々です。きっと克哉様にも理解していただけるでしょう》
女神フォースからすれば微笑ましい友愛に満ちた光景。
うっとりした調子で呟くフォースの台詞に、 は心の中だけで肩を落とした。

 まぁ、そりゃぁさ〜。
 城戸っちも、アヤセもわたしを心配してくれてるし。
 美しい光景っていえば、そーなるかもしれないけどさぁ。

克兄が理解を示すかどうかは別っしょ。

「あ、いや……」
外見を裏切る城戸の筋の通った行動と態度に克哉が戸惑った顔をする。

「本当に申し訳ありません」
無理矢理 の頭も下へ下げさせ城戸は深々と上半身を折って謝罪した。

益々身体を棒のように硬直させる克哉。
彼の頭の中はパニックに陥っているに違いない。
克哉の顔を盗み見て は何度も瞬きをした。

「城戸っち……城戸さんはわたしの兄代わりの人で、同じ聖エルミン高校出身なんです。いつも妹みたいに可愛がってもらってます」

 にっこり。

固まったままの克哉に は仕方なしに微笑みかける。

 いーかげん帰りたいし〜。
 疲れたよ〜、ペルソナ発動したし。
 悪魔も退治したしぃ〜。

職業柄、克哉は と城戸の接点に対して疑問を抱くだろう。
ささやかな の助け船に、漸く我を取り戻した克哉だった。



Created by DreamEditor                       次へ
 夢主>克哉の力関係が成立した瞬間? やっぱり克哉はフェミニストだと思うんだよね。基本的に。
 んでそれが自分の弟と歳近いからもう気分はお兄ちゃん(爆笑)ブラウザバックプリーズ