『女の武器を使いましょう1』



警察署につれて来られた を待ち受けていた者。それは?

「あー!!! 周防兄!」
びっしと指差して叫ぶ と周防 克哉へ集中する所内職員の視線。
驚きに固まった克哉だったが、直ぐに我に返って へ近づいた。

「なにをしている?」
「えーっと、放火犯を見かけて。警察に」
嘘はない。
克哉の問いかけに正直に答えて、 は背後に付き添う刑事に笑いかける。
当然の事ながら猫を大量に被った愛くるしい子供らしい微笑だ。

案の定、刑事は困った顔で克哉に苦笑してみせる。

「最近頻発している妖しい放火事件だよ、ったく、何が目的なんだか」

 これから事情聴取だよ。

克哉の視線に応じて説明する刑事。
口を真一文字に結んだ克哉はため息をつき の手を取った。

「弟の間接的な知り合いだ。悪いが俺が事情聴取させてもらう。構わないだろう?」
若干威圧的な克哉の視線に の背後の刑事はたじろぐ。

「まぁ、放火といってもボヤレベルで済んだし……刑事課のお前に頼んでも平気か?」
口の中でゴモゴモ言い訳じみた台詞を並べる刑事に、目が笑っていない笑顔を浮かべて克哉は手短に礼を述べ。
を伴ってさっさと刑事課の一角へ移動する。
も展開についていけない早さだ。

 てか? 怒ってる?? 怒ってるよ〜、克兄!!!
 なんでぇ!? わたし、悪い事したのかな〜??
 首を突っ込んじゃったし、事件に。

かつて夜の珠阯レ市で出会った と克哉。
がクラブで見かけたことのある、ワイルド系モテ男、七姉妹学園生・周防 達哉の兄。
知的で少々固い思考を持つ掲示( の認識では)なのだ。

 掲示さんに再会〜。なーんか、顔が怖いっす。克兄〜(怯)

引き攣る頬を片手で押さえて は意味不明瞭な言葉を発して唸る。
舞耶とゆきの、藤井の三人は別の刑事によって事情聴取済み。
尤も、彼等は偶然居合わせた目撃者で。
実質の目撃者は になる。

厳しい顔のままの克哉に椅子を勧められ、 はおずおずと克哉に言われた椅子へと腰掛けた。

「怪我はないかい?」
の薄汚れた衣服を眺め克哉が口を開く。
「? ……! あ、はい。大丈夫です」
緊張のあまり頭の中が真っ白になっていた は、裏返った声で返事を返した。

 はう〜!! 緊張するうぅぅ〜(涙)

膝の上に載せた手のひらにじんわり汗が滲む。
緊張してカチコチの に、克哉は軽く頭を左右に振って自嘲気味に笑う。

「すまない、怖がらせてしまっているな。弟が……昔、君と似たような体験をした事があってね。俺自身神経が高ぶっているのかもしれない」
「え? あのモテ男……じゃなかった、周防弟さんが???」
反射的に身を乗り出しかけて、他の刑事の視線に気後れして は再度椅子へ座る。
当の克哉も が弟を『モテ男』と称したのに目を丸くした。

「ほ、ほらっ。口数は少ないけど頼りがいありそうだし(チカリンが言うには)。あのルックスもあるし……人気、あるらしいですよ」
失敗した愛想笑いを浮かべる に克哉は大きく息を吐き出す。

「人気がある、か」
複雑な顔をする克哉の顔が以前に会った時と同じ。
お兄さんの顔へとなっていく。

弟の話題が絡むと、どうしても刑事としての『仮面』は崩れ落ちてしまうようだ。

 やっぱり心配だよね。
 仲があんまりよさそうじゃないし。
 克兄は心配してるけど、周防弟は鬱陶しいのかな?
  わざと壁を作ってるみたいだったけど。
 城戸っちみたいな? うん、あんな感じ。

柔らかい空気に変化する克哉の周囲。
は案外冷静に目の前の悩める掲示を観察する。

《この刑事も、あの二人の意図に巻き込まれているかな?》
冷静さを取り戻した の頭にルーが乱入。

 多分、ね。
 けど直接的な関係は薄いから、巻き込みたくないね。
 だってこっそり周防弟の為に貯金する克兄の映像が浮かぶんだもん!!
 オカシイってゆーか、涙ぐましい兄弟愛だよね〜。
 わたし、兄弟いないから羨ましいカモ。

一人遠い目をして小さくうなずく を、不思議そうに克哉が見る。
口を開きかける克哉だが婦警の一人がお茶を持って来たので口を噤む。

「さて、目撃したままでいい。説明できるかな?」
婦警が一礼して去って行ってから克哉は改めて口を開く。
「はい」
全てを話せないけれど。
放火は犯罪で彼は出来ることなら捕まえて欲しい。
は克哉の視線を真っ向から受け止めてはっきりした声で返事を返した。

「わたしが聖エルミン生だというのは、克兄も知ってますよね?」
背筋を正して克哉を見据える。
克哉も表情を引き締めて首を縦に振った。

「よくアラヤ神社には行くんです。家の用事で。学園に近いし、わたしが家族の中で一番通いやすいって言う理由で。
あの神社に、うちの家が御石様と呼んでいる石を奉納していたから、今日はバイト帰りに妖しい人影を見て……気になって追いかけたんです」
克哉が納得しそうな理由を音に出しながら、 は思い出す。

 そう。
 石に、オリハリコンに呼ばれて神社に行ったら、黒っちの気配がして。
 追いかけようとしたらあの須藤が現れた。

 火を放って、睨むわたしを『あの女』と似ていると言ったっけ。
 日に日に希薄になっていく黒っちの気配。
 嫌な予感がする。すごく。

オリハリコンは の願いに応じ黒須の気配を探していた。
意思ある石であり、負の感情に敏いオリハリコン。
オリハリコンが呼び起こした負と正。
どちらの味方もしないけれど、あの二人の手のひらで踊らされるのはもっと嫌だ。

「石が無事だったら帰ろうって思ったんです。で、ついクセで石を磨いて。人影も消えてたし、帰ろうとしたら……煙が出てたんです。
どうしてもっと早くに気がつかなかったか。自分でも分らない。
でも気がついたら火が出てて、煙の向こうに男の人が立ってました。火傷の跡がある男の人です」

たどたどしく喋る の言葉を克哉は紙に書き取っていく。
が最後、火傷の跡がある男、と表現するまでは。

「……」
克哉の瞳に走る怒りの炎。

《成る程。 、どうやら君は弟君(おとうとぎみ)と同じ放火犯に遭遇したらしいな。刑事殿が内心酷く動揺している》
克哉の表面に浮かぶ気持ちを読み取ったルーが愉快そうに呟く。

 ごめん、分ってて言った。
 絡まった運命の端っこ。
 克兄にも知っておいて欲しいと願うのは、わたしのワガママ。
 それでも。
 兄弟歩み寄って欲しいよね。


は目を伏せて足先の薄汚れた警察の床をじっと見つめた。



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