『仲間続々? 4』



一般人へと戻った星あかり。
新しい友達となったあかりを見送り、 達は当初の目的地・珠阯レTVへ向け出発した……。
かに見えたが。

「機嫌直してよ〜、麻希ちゃん。このとーりっ」

 神様・仏様・麻希様!!

謂わんばかりの態度で はすっかり剥れてしまった麻希を先ほどから拝み倒している。

場所は平坂区を通り過ぎた夢崎区手前の幅広い歩道の中央。
自転車を止めて不機嫌な顔をした麻希を は只管(ひたすら)に拝み倒していた。

「……諒也君を留学先から呼び戻そうかと真剣に考えた」
ここまで来れば、ゆきの達と再会する事はないだろう。
麻希は考え狙って厳しい口調を作り を非難し始める。
どうして一人で勝手に自虐ネタに走るのかと。

「や、お兄ちゃんをですか? そ、それは……ですね」
諒也の単語に は怯えて思わず怪しげな丁寧語を麻希へ遣い始める。

にとって頭の上がらない人物・栄えあるナンバーワンが麻生諒也だ。
曰くの『実は怖い人』だそうだが、麻希が見る限りではなんだか仲の良い兄妹風に見えるこの二人。

まぁ、理想の園村麻希が唯一心許した相手がこの二人なのだ。
諒也が喰わせ者なら だって喰わせ者なのだろう。

話は逸れたが城戸よりもアヤセよりも、稲葉よりも。
誰よりも を効果的に『抑えられる』のが諒也なのである。
諒也の名前を出されてしまえば、 が挙動不審になるのも当然だった。


「どうしてそう、卑屈になるかなぁ」
麻希はこれみよがしにため息をつき、そのため息に は益々怯えた。
その の様子さえ麻希には腹立たしい。

「少しは精神的にも頼りにして欲しいんだけど……。そりゃ、諒也君ほど頼もしくはないけど、ね」
諒也から教えて貰った 攻略法。
押して駄目なら引いてみる。
寂しそうな顔をして麻希は に告げた。
たちまち は目を見開きバツの悪そうな顔でオロオロし始める。

「イエ、十二分にタノモシイですよ」

 お兄ちゃんに似て怖いトコとか!!
 怖いトコとか!!!

頭の中で麻希の意見を全否定しながら はまたもや怪しげな片言で応じた。

「そう?」
怪訝そうな顔になる麻希の疑問系の相槌に、 は首をブンブン縦に何回も振る。

危うく目が回りそうになったところで気まずい沈黙が訪れた。
麻希は経験上、これ以上 の気持ちに踏み込めない事を悟っている。
それでもこの非常時、 だけが一人何もかもを背負うのは駄目だと考える。

あの時の自分のように悲劇のヒロインをさせる気もない。
ましてや不要な肩書きに踊らされるのを傍観するつもりもない。

 仲間なんだから。私達。
 助け合える時に助け合わなきゃ意味無いよ。
 そうだよね、諒也君。
 諒也君の代わりには遠いけど、ちゃんとサキと向き合うって私も決めてるから。

決意を固める麻希の視線の先。
は一人百面相をしていて、顔を赤くしたり蒼くしたりと忙しい。

また色々と余計な事でも考えているのだろう。


こうして膠着する と麻希だったが。
二人の均衡を破ったのは、逃げる男と追う女だった。

顔面蒼白になって走る男と、ボクシンググローブを手に装着した状態で男を追う赤毛の女性。
互いに鬼気迫る勢いで疾走してくる。

「……ペルソナ使い?」
男女から感じる独特のペルソナ共鳴に麻希が小さな声で に問う。
の耳は麻希の呟きを拾上げており、 は無言で首を縦に一回振った。

「でもなんだか変。悪魔に追いかけられてる訳でも無さそうなのに」

 仲間割れ? 仮面党でも無さそうだけど……。

続けて喋って口篭る麻希を横目に、 は自転車のカゴからコンビニで購入したばかりのペットボトルを取り出す。

「そこのお姉さん!! まったー!!!」
叫び、 はペットボトルを男性の後頭部目掛けて投げつけた。

縦に回転するペットボトルはまるで事前に計算されつくした如く。
映画のワンシーンの様に、男の後頭部を強打する。

 グヘェ。

なんて情けない悲鳴をあげて男は前のめりに歩道へと倒れ込んだ。

「ん? あら、ありがとう。助かっちゃった」
目立つ赤毛の女性は男が倒れたのと、転がったペットボトルを見て。
慌てて立ち止まる。
ペットボトルの主である へ人懐こい笑みを浮かべた。

「いえいえ、困った時はお互い様です。そのキレのあるパンチとペルソナの波動を見れば、嫌でも加勢せざる得ないってゆーか」
はやや口篭りつつも言うべき部分はしっかりと、赤毛の女性へ伝える。

《同じですわ。あの刑事の方と発する空気がまったく同じ。まるでセベクスキャンダルを共に戦った、わたくし達ペルソナ同士が持つ共鳴のよう》
赤毛の女性を間近で感じ、 の裡のフォースが不安げに告げてくる。

 うん、分ってる。
克兄と同じ波動をこのお姉さんから感じるの……。
 接点なんてない筈なのにどうして?

ペルソナ使いではない、達哉の兄で掲示(刑事)の克哉。
彼が持つ独特の雰囲気とは別の波動を は感じていた。
克哉から感じるのと同じ不思議な波動を。
また、同じ波動を赤毛の女性からも感じる。

だからこそ は女性が追いかけていた男の動きを封じる事(有体に表現すれば強襲)で女性との接点を作り上げたのだ。

彼女から感じる波動の形を確かめる必要があるから。

《……嫌な予感がします。目の前で起きている事件だけを追っているだけでは済まされない何かが起こる。
そんな気がしてなりませんの。思い過ごしでしょうか?》

 ううん、フォースの嫌な予感当たると思うよ。
 だってわたしも嫌な予感してるし。
 マッキーのアレだけでも吐きそうだけど。
 それを上回っちゃうよーな、そうじゃないよーな。
 お腹の中がモヤモヤする掴み所のない嫌な予感がしてるの。

 でもどうしようもない、何が危ないのかが分らないんだもん。

 注意しているしかないよね。

フォースの考えを肯定し、 は互いに注意し合う事をフォースに提案した。

《ええ、そう致しましょう》
の意見を考慮してフォースも優美な態度に切り替え答える。

目の前では赤毛の女性が男の両足首を手にしたタオルで縛り上げていた。
無用な追いかけっこをしない為だろう。

「何があったか知りませんけど、半殺しで留めておいてあげて下さいね?」
は意識を眼前の女性へ戻しこう忠告した。

赤毛の女性から漂う殺気。
キングが放つ悪質なものでないにせよ、彼女はペルソナ能力を持っている。
彼女が能力を全開にして殴ったら相手の男は死ぬだろう。
男が同じペルソナ使いであったとしても。

この二人の因果関係は分らないけれど無暗な殺生は絶対に良くない。
セベクスキャンダルの一端を知るから はこう考えるのだ。

「大丈夫よ。犯罪者にはなりたくないもの」
の発言に気を悪くした風もない。
赤毛の女性はにこやかに笑って片手を上げる。

彼女から感じるのは純粋な怒りであり、憎悪などの後ろ暗い感情は微塵も感じられなかった。

「済みません、余計な横槍を入れてしまって」
麻希もこれなら大丈夫と踏んだ。
の保護者の顔をして赤毛の女性へ頭を下げる。

「ああ、気にしないで。私は大丈夫だから」

 ヒュッ。

手にしたグローブで空を切ってみせ赤毛の女性は唇の端を持ち上げる。
その姿のなんと力強い事か。

 頼もしい。

と麻希は同時に考える。
事後処理を当事者である女性に任せ、今度こそ珠阯レTV目指して自転車を走らせるのだった。



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