『仲間続々? 2』




怯えた風に絶叫しながら悪魔が達哉の目の前を通り過ぎ。
通り過ぎようとして。

力尽き口から泡を吹き倒れ込む。

仲間と別行動を取り、爆弾の起爆装置を捜していた達哉は痙攣して魘される悪魔を見下ろした。
スマイル平坂3Fにて。

「?」
訳が分らず達哉は首を傾げる。

リサの英語コンプレックスを克服し、贖罪の迎え火=珠阯レ市爆破予告を阻止。するべく動く達哉達。
仮面党と名乗る謎の集団の首領であるらしい竜也のつきつけてきた挑戦状。
宣託を阻止すべく、ゆきのの古くからの友人・モデルの桐島英理子の助言に従う。

蓮華台から見て水瓶座の位置、西南西にあるスマイル平坂にやって来ていた。

何も知らずショッピングを楽しむ客を避難させるべくとった行動。
タバコの火でトイレの火災報知器を作動させたまでは良かったのだが。

「うらうらうらうらっ!!! 雑魚が一々吼えてんじゃないわよっ!!」
《光の裁き》
酷く聞き覚えのある少女の怒声と、発動されるペルソナ。
呆然と立ち竦む達哉の前を灰色の物体が通り過ぎようとして。
今度は止まる。
お馴染み聖エルミン制服姿の二代目番長こと神崎  だ。

「間に合った!! やったよ、わたしはやったよ! お兄ちゃん」
惚ける達哉の前で立ち止まった はガッツポーズを決めて、その場で飛び上がり。
全身で何かの喜びらしき感情を表しジャンプし続ける。

「神崎??」
達哉はただただ の奇行に戸惑うだけで。
恐る恐る の名を呼ぶが、 からの反応はない。
達哉の呼びかけはあっさり無視された。

「もう少し待ってあげて? 元に戻ると思うから」
の背後から遅れてやってきた麻希が控え目にこう告げる。

「ストーカーじゃないからねっ!!
知り合いが仮面党に入っちゃったみたいで、ちょこーっとお仕置きしなくちゃいけなくてさ。だから来たの」
説明は要領を得ているようで得ていない。
は一人鼻息も荒く周囲を見回す。

目を点にする達哉と処置ナシとばかり肩を竦める麻希。
その間にも は手にぶら下げたソレを口元へあてた。

「今なら許す!! とっとと出てこないと逆さに吊るすぞコルァ!!」
地下一階の食品売り場から無断で持ち出してきたのだろう。
拡声器を使って が誰かに向かって怒鳴る。

空気がビリビリ震え達哉の足元の悪魔が恐怖に涙を流して身を縮ませた。
一体何に驚けば良いのか呆れれば良いのか。
自分の感情を極力抑えてきた達哉は途方に暮れる。

その間も は喚き怒りその声に驚いた舞耶達が集まってしまった。

《ゲグルゥゥゥルルゥゥガガアアア》
集まったのは舞耶達だけでもない。
の怒声に呼応して、スマイル平坂を徘徊していた悪魔達が一斉に へ襲いかかってきた。
咄嗟に達哉は を援護しようと身構えるも。

邪魔っ!!」
《メギドラオン》
の冷たい一言で悪魔の群れは瞬時に消える。

「ま、魔王降臨……かも」
自分もペルソナを召喚できるよう構えていたリサ。
ヘナヘナと床に崩れ落ちながら、怯えた風に言った。

「あはははは」
「あのキレ易さは城戸直伝かい? まったく危なっかしいというか、無茶というか」
乾いた笑みを漏らす麻希に寄りかかってゆきのが項垂れる。

激怒した を止めるには自分達では役不足。
矢張りアヤセや城戸、諒也といった の理解者が居なければ難しい。
傍観者と成り果てた麻希とゆきのに成す術はない。

「サキのヤツすげぇな」
栄吉だけは の非常識さに多少の免疫がある。
一人しみじみ感心して腕組みした。



襲い掛かる悪魔・悪魔・悪魔。
引くに引けない立場に居るだろう少女の精一杯の牽制と抵抗を諸ともしない。
は適切なペルソナを呼び出しながら、時には自身の呪文を駆使し出現する悪魔達を瞬殺していく。

やがては根を上げたのか。

褐色の肌を持つ不可思議な服装をした少女が、恐怖に慄きながら の前へと歩み寄ってきた。

「……」
緊張した面持ちの少女を見下ろし は唇を真一文字に引き結ぶ。

「どーりでみつからねぇ訳だ。女子トイレの中じゃぁな……」
少女が現れた場所を目線だけで辿り栄吉が深々と息を吐き出す。
「確かに。アンタが入ったらヘンタイだしね」
コソコソと栄吉とリサが喋る。
リサの棘ある台詞に栄吉の額に青筋が浮かび、リサも挑発するようにファイティングポーズを決めた。
リサと栄吉の間に入って宥めながら舞耶は の小さな両肩に魅入る。

 一体どれだけの秘密を抱えているの?
 ううん、どうしてあんなに寂しそうな瞳が出来るんだろう。
 サキは。
 優しい人達に支えられているのに。
 時々とても寂しそうな瞳で何処かを視てる。

孤高で本当はとても誇り高い。
でも繊細で不器用で優しくて。
の少女らしい一面を垣間見てきた舞耶は、一人何かと戦う の実像と初めて向き合い始めた。

 あの行動と発言ですっかり。
 そう、すっかりサキの勢いに流されちゃっていたけれど。
 サキはまだ高校一年生なのよ。
 全部を全部自分の中で納得して消化するなんて無理があるわ。

舞耶は小柄な の小さな背中を不安に揺れる心の命ずるまま凝視する。
の心配をするゆきのの友人達の気持ちが分る気もした。

「仮面党の行いをわたしは許せない。だから敵対する。イーちゃんとは敵同士だね」
少女に対する憎しみは欠片も感じられない。
は穏やかに少女へこう切り出す。

「はい」
緊張した面持ちで少女がしっかり首を縦に振る。
仮面党員であることも否定しなかった。

「じゃぁわたしを殺しなさい、敵なんだから」
エルの銃を無造作に投げ捨てて は両手を広げた。

 カラン・カラン。

二度ばかりエルの銃は床の上を跳ね通路の奥、薄暗くなっている方へ滑っていった。

「!?」
少女は、戦いは覚悟していてもこれは流石に想像すらしていなかっただろう。
目を驚愕に見開き無防備に立ち尽くす を呆然と眺める。
その横を麒麟が駆け抜けていく。
目的は当然エルの銃だ。

《否!!》
「駄目、麒麟。邪魔しないで」
エルの銃を口に咥えた麒麟が高速でこちらへ戻ってくる。
角を輝かせる麒麟に、 は厳しい命令口調でペルソナの動きを封じた。

唇の端から牙をちらつかせ麒麟は低く唸る。
けれど の命令は絶対なので、頭を低く保った姿勢のまま少女を牽制するに留めた。

「で、できな……」
怯えて少女は二・三歩後ずさりする。
少女の逃げを許さず は少女との間合いを詰めていく。

「自分の掲げる『正義』が正しいなら、反対の事をしてるわたしは悪だ。殺せば良い。戦士なんでしょう? イーちゃんは」
「わたは……わたしは人を殺したいわけじゃないっ!」
涙目で言い訳を口にした少女を は容赦なく平手打ちした。



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