『思い出と新たな枷3』



 また、このパターンなの?

空中から放り出される感覚に は諦め、着陸の衝撃に身構えるも。

「はぇ!? 周防弟!?」
自分を受け止めた腕の持ち主に目を丸くして驚く。
無論、驚いているのは を受け止めた達哉だけではない。
達哉と行動を共にしていたリサと栄吉。それから。

「「サキ!?」」
ほぼ同じタイミングで放たれる二人の女性の声に、 は奇妙な顔つきで名を呼んだ二人へ顔を向ける。

「マッキーとユッキーだぁ……久しぶり」

 へにゃり。

力なく笑って手を振る に帽子を目深に被って呆れてから。
気を取り直したゆきのが歩み寄った。

「久しぶり、じゃないだろう!? 一体何をやらかしたんだい!!」
ゆきのの言葉は半分正しい。

麒麟とソルレオンがゆきのの洞察力に感動していたりするが、 は無視。
認めるのも悔しいので口先を尖らせ反論する。

「まだ何もしてないよっ」と。

『まだ』なんて言葉を付け加えている辺りで、これから反撃する気は満々なのだと のペルソナ達は早くも悟ってしまう。

お小言を言い始めた麒麟の声が頭の中で反響して顔を顰める に心配顔のゆきの。

その間も を受け止めたままの達哉は無表情ながらも。
ゆきのと舞耶が と知り合いだった事実に静かに驚いていたりする。

「したといえばしただろーがっ。俺達を勇者だなんだって言ってただろ」
すっかり のツッコミ役と化した栄吉が、絶妙なタイミングでツッコんだ。

「お、みっちゃんとリサっちも。久しぶり〜、ていうか何処? ここ」
達哉に床へ降ろしてもらいながら は小首を傾げる。
は見慣れない何処かの屋上らしき場所に居た。

「あ、ありがとう。周防弟」
何故か一緒に居る舞耶達と達哉達。
偶然というオブラートに包まれた『必然』に吐き気を催すも顔には出さない。
はごく普通に達哉に自分を受け止めてもらったお礼を述べる。

「構わない」
憮然とした面持ちながら達哉は素っ気無く の感謝の言葉を受け入れた。

「羨ましい……羨ましいわっ!! 情人の腕の中、腕の中〜!!!」
そんな達哉の斜め後方でリサがブツブツ呟きながら拗ねてはいるが。


「あ〜!!!!」
は達哉達と対峙するように立つ二つの人影に大絶叫。
余りの五月蝿さに、ゆきのと、薄暗い瞳を持った少女が同時に耳を塞いだ。

「放火魔とおねーさんっ!! ……あんまり聞きたくないんだけど、仲間?」
随分なネーミングセンスにリサと栄吉がコケる。

コントみたいな空気を孕みながら、 は油断なく身構えた。
極めて軽い口調で二人に問いかけてはいるものの。
の双眸は細まり二人の動きを寸分も逃さず捉えている。

達哉達の前に居たのは、アラヤ神社に放火した須藤と、手下を引き連れて を襲ってきたペルソナ使いのお姉さんだった。

「……」
ペルソナ使いの『お姉さん』は相変わらず顔色を変えず。
深淵の闇に沈んだ眼差しで を一瞥しただけ。
取り立てて変化を見せない。

「もう一人の魔女か。この間は俺様の邪魔しやがって!!」
反対に須藤は怒りに顔を赤らめ明らかに に対しての威嚇? らしき怒鳴り声を上げる。

「あの〜」
は遠慮がちに須藤と少女へ声をかけた。

電波系と半分引き篭もり? 的な二人に自分の言葉が届くなんて考えてはいない。
ただ達哉達と須藤達の接触が思ったよりも早かったので、 は自分がどう動くべきかを決めかねていた。
だからこそ須藤達の注意を己にひきつけ彼等が何処まで『仕掛けて』くるかを見極める。

 冷静に、冷静に。

はまず心の中で十回唱えた。
それから諒也の性格にあやかり耳にピアスがある気分で、耳たぶを指先で抓む。

脳裏に浮かぶのはニャルラトホテプの嘲笑と、閉じ込められたアヤセと。
それから今にも消えそうな淳の関与拒絶の言葉。

 お兄ちゃん、妹は頑張れないけど諦めないからねっ。

頑張る。
この言葉の意味は好きだが多用するのは嫌いだ。

真に頑張っている人、己の心を裸にされ利用されながらも立ち直った麻希を知っているから。
だから自分には使いたくない言葉だと は思う。

せめて諒也達のように諦める事をせずに立ち向かえれば良い。

「ヒャハァ!! 丁度良い、あの方の邪魔をするお前はここで倒してやる」
須藤は唇の端を持ち上げ片手を軽く上げた。
するとあの時と同じ。
いや、アラヤ神社の時よりも威力の高い炎が須藤の腕に纏わり着く。

「だ〜か〜らっ!! 放火魔とおねーさんは仲間? なんでしょーか??」
は背後に達哉達全員を庇いつつ、もう一度先ほどと同じ問いを発した。

「……」
ニヤニヤといやらしい笑みを湛えたまま、須藤は無言で炎を に投げつける。

言葉で話して理解できる相手ではない。
分っていたから は眉根を寄せ一見すれば須藤の炎の前に無防備に立ち尽くす。
達哉達はまだ須藤には勝てないと確信し、盾となるために。

「サキ、危ないっ」
そんな を見捨てないのが舞耶だ。

を床に貼り付けて自分は の体の上に覆いかぶさって自身のペルソナを発動させる。
舞耶に宿るペルソナ・MOONマイアが発動し と舞耶の怪我を一瞬で治癒していく。

「マッキー!? ちっ、雑魚が一々吼えてんじゃないわよっ」
《マハブフダイン》
舞耶の行動に一瞬毒気を抜かれる。
それでも は誰よりも早く我に返ってソルレオンを呼んだ。
素早く氷の魔法で炎の威力を相殺する。

「ヒャハハハハハハ!!! 燃えろ!! 燃えちまえっ!!」
須藤は狂った風に笑い始め次々に炎を生み出し、 と舞耶目掛けて投げつけてくる。
背後の達哉達も須藤の炎の威力に対処できず立ち尽くすだけだ。

「うっせーぞ、電波系!! わたしは機嫌が悪いんだっ!!」

舞耶に押さえつけられている状態で、舞耶を守る為には。
一分一秒でも早く須藤達を退ける事。
舞耶を助けたいのに、舞耶は を押さえつけたまま。
懸命に を護る。

床に頬を押し当てたまま はついにキレて怒鳴った。

《光子砲》
灰色の羽が擦れ合う音と共に眩い光が須藤と少女の間を突きぬけ、数メートル背後で爆発する。
圧倒的な能力の差を見せ付けられた須藤は炎を操る手を止めた。

「ふん。まぁ良いさ。せいぜい足掻くんだな」
「……」
不敵な笑みを残して 達に背を向ける須藤と少女。
二人の背後に残ったのは、春日山高校の制服を身に着けたひ弱そうな男子生徒が一人。
須藤に指先を押し当てられ燃え上がる。
消える須藤と少女に燃えがる人。

「……まだ、大丈夫……」

あっという間に消し炭と化す『人』だった物体。
悲鳴をあげるリサと宥める栄吉。
呆然と立ち尽くすゆきのと達哉。

同じく呆然とする舞耶の耳に、悲しみに満ち溢れた の呟きが流れ込んできた。



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