『完全無欠彼女2』


一頻り休息を取ったゆきのがタイミングを見計らって口を開く。
「この後どうする? キングは一先ず倒したけど、こっちがテロリスト扱いだなんて……。噂の力を、仮面党を侮りすぎたのかもしれないね」
ゆきのの自戒を込めた一言に、冒険最中である達哉達がゆきのに注目する。
「……もう少しだけ休んでから。移動した方が良いかも」
噂の広がりには多少の時間が掛かる。暗に言って麻希はゆきのに休憩を勧めた。
「その方が安心だね。それで良いか? 周防」
ゆきのは穏やかに笑い服を乾かしながらの更なる休憩を仲間に提案し。
満場一致で一先ず濡れた服を乾かす事にした。

各々が仲間や、かつての仲間と語らいながら の作った焚き火にあたる。

一人全員と距離を取っていた に達哉が近づいた。
「すまない」
「何が?」

 音楽堂。

短く言った達哉に は首を横に振る。

「ううん。逆に羨ましいもん。わたし一人っ子だから、兄弟の居る感覚って分からないし。弟や妹が居たら……うーん、あんまりお姉さんらしいコトはしてあげられないだろうけど。逆だったら凄く嬉しいから」
  のユルイ笑いに達哉が複雑な顔になった。

克哉が褒められて恥ずかしい部分もあるが、何より の疲れきった態度に驚いていたのだ。
彼女は自分達よりも内面が強い無敵の二代目だと勝手に決め付けていたから。
最初は五月蝿い少女だと思っていたリサは、本当は寂しがり屋の努力家だと知った。
意表をつく外見と言動が目立つ栄吉は一本気な江戸っ子で、筋を通す男だと知った。
舞耶は記者でありながら、立場上、大人として自分達を励まし、自身のトラウマも克服し。
とても強くて温かい女性だと知った。
ゆきのは頼りになる一面を持って居たり、雇い主に対して奥ゆかしい一面を見せたり。
先輩ペルソナ使いとして最大限に自分達をフォローしてくれていると知った。

では神崎は?

彼女もキングに『魔女』呼ばわりされ、殺されかけ。
ジョーカーからは自分達を守り、一人裏で忙しく動き回っている。
現に今だって海に落ちた自分達を心配して駆けつけてきている。
幾ら凄腕ペルソナ使いだといっても、彼女は自分よりも年下の少女なのだ。

体力だってペルソナ使いだからこそある程度付いているだけ。
元々体力があるタイプには見えない。
そんな彼女が疲れないわけがない。辛くないわけがない。
自分自身の先入観に舌打ちし、最適と考えられる言葉一つ放てない自分に達哉は奥歯を噛み締めた。

「言い方はキツいし遠慮もないけど。家族のコトとか凄く大切にしてる良いお兄さんじゃん。だからわたしは巻き込みたくないって思ったし、巻き込めないなって思ったの」
  は表情を曇らせる。
揃えた己の膝に顎を乗せたまま眉を八の字にし、何やら落ち込む へ達哉は口を開きかけ閉じる。

矢張り自分は克哉の様に彼女に釘を刺す言葉を持ち合わせていない。
まして、舞耶の様に柔らかく彼女を慰めてやる事も出来ない。
彼女の事を自分の知識だけで『こう』だと決め付け、距離を取り、壁を作った。
けれど彼女は一言も自分を責めず(揶揄は、していたのかもしれない)。
淡々と自分がしたい事(傍から見れば自分達の手助けになろうと動いていたのは明白だ)をしていた。

自分はただただ胡散臭いという理由だけで全員を拒絶しているだけで。
リサも栄吉も、舞耶も、ゆきのも。ちゃんと自分と向き合っているのに。
自分はどうだろうか? 達哉は無意識にライターの蓋を開き閉じるを二度ばかり繰り返した。

「あ〜!!! サキが情人に絡んでる!!」
まだ少し暗い顔をしているリサが、目敏く達哉と のツーショットを見咎めた。
「絡んでないよぉ、リサっち」
頬を引き攣らせ は応じる。

リサの剣幕は分からなくもない。
自分だって諒也に馴れ馴れしい気に入らない女がいたら意地悪する。絶対にする。
城戸の奥さんになる女性との相性は良いが、アヤセの恋人との相性が良いとは限らないのだ。
アヤセがどんな人と結婚しようがそりゃ、アヤセの自由だが。

 意地悪するよねぇ、わたし。
 相性が悪いと会話も噛みあわないしサイアクだもん。

城戸の奥さんになる女性とのサイアク初対面を回想し、 は口先を尖らせる。
なんとなく。
城戸を、仲間を『盗られた』気がして。
随分可愛げない発言を繰り返した に、女性はただ笑っていた。

玲司さんの本物の妹さんみたい。可愛いわね。

なんて口にした。

一枚も二枚も上手……基、器の広い彼女の発言に は己の子供じみた言動を後に酷く恥じた。

だって城戸は自分にとって大切な兄のような人。
恋愛感情はないのに、自分だけが独占するつもりもないのに。
勝手に彼女を邪魔者扱いして僻んで。
本当に子供としか表現しようのない行動を取った は、彼女を前に落ち込み。
彼女によって慰められるという不名誉も頂戴していたりして。
リサの気持ちはなんとなく分る……気がするのである。

《いじめっ子の本領発揮かい?》
達哉の心の揺れを計りながら。おくびにも出さない。
ルーは茶化す口調で の意識を無理矢理自分へ向けた。

 まさか。うーん、ほら!!
 チャットするパオフゥみたいなのが、アヤセの旦那だったりしたらそりゃー、相性悪いって!!
 合理的なのも否定しないし、あーやって潜ってるのも自由だけどさぁ。
 ヤな感じっ!!
 って人種は男女問わずいるじゃん。って話。

  はルーの思惑通り。
達哉から意識を逸らしルーへと答える。

「駄目駄目駄目駄目駄目!! 達哉はわたしのなんだから〜」
達哉の腕に自分の腕を絡ませリサが に突っかかってきた。
珍しいなぁ? 不思議そうな顔をする と、成り行きを見守る麻希・舞耶・上杉。
出刃亀に近い見守りにゆきのと城戸が額に手を当て息を吐き出す。

「達哉はモノかよ……」
栄吉が肩を竦め裏手でリサにツッコんだ。

「サキには仲間もいるし、格好良い『お兄ちゃん』だって居るし。それにサキは強いじゃん!!」
自分の弱さを突きつけられて自覚する自分達とは違う。
何が自分の弱さか分っている は凄く強い。
達哉に似た芯の強さを持ちながら、少し不思議ちゃんだけれど、舞耶のように柔らかな女らしさも持っている。
突飛な行動が目立って達哉や栄吉は気づいていない。
でも、上杉や、達哉の兄や。
城戸という無口な男性は のそんな『オンナノコ』らしい部分を知っている。
だから に手を貸す。
自分の罪も公言し自分を小さいと言い切れる
自分の罪に怯え逃げ続ける自分。
達哉はどちらを好ましいと思うのだろう?
空の科学館で竜也に突きつけられた言葉。

 あのお方は女神のように美しい。

脳内でリフレインするソレに怯えながらリサは尚も言い募った。

「リサっち……?」
  は切羽詰ったリサの訴えに目を白黒させる。
リサが達哉に恋しているのは周知の事実。
鈍い にだって理解している。
しかもこちらは達哉を深く知らない上に、愛情が芽生える切欠さえ手にしていないのに。
どうしてリサが頑なになるのかが分らない。

「おい、ギンコ! 一人盛り上がってんだよ」
流石に栄吉もリサの剣幕に内心だけで驚きながら。
とリサの間に割って入り眉根を寄せギンコを宥めようとする。

「達哉だけはどうしても譲れないの」
胸に手を当てて俯くリサ。悲しそうな、それでも強い決意が表れたリサの表情に栄吉が口を噤む。
「周防弟はモノじゃないとゆー、みっちゃんの意見にわたしもサンセーかな」

『え!? 恋のトライアングル発生??』なんて言いたげな。
麻希と舞耶から頂戴する生温かい目線を背中に浴びつつ。
は無難に番長仲間の栄吉の意見に賛同するのだった。



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