『完全無欠彼女1』


飛行船でキング・レオこと須藤竜也を撃破した達哉達。
炎に包まれる飛空挺からの脱出に成功し、全身濡れ鼠になって恵比須海岸へ到達したところを。
「お願い! 私を助けて……」
両手を祈るように交差させ胸の前で組んだ、麻希によって水撃魔法を浴びる。

「ちょ、ちょっと!! 子供達も居るんだよ!」
驚くゆきのに麻希はニッコリ笑ってタオルを投げた。
ゆきのが抱えた子供達も驚いて声が出ない。
呆気にとられた顔で笑顔の麻希を凝視している。

「塩分を含んだ身体で移動する気? ムボーだよ、ユッキー」
魔法で数箇所に焚き火を作った が、腰に手を当てて人差し指を左右に振った。
「確かに。これじゃぁ、服が乾いても塩で硬く成っちゃうわね」
麻希に水を浴びせられた舞耶が納得した顔で、自分の服の上着を指で抓む。
その仕草に達哉と栄吉が仄かに頬を赤く染める。
普段なら「ずるーいっ」等と真っ先に達哉へじゃれかかるリサは何故か暗い顔で焚き火に一人あたり始めた。

「うん」
リサの落ち込み具合が尋常じゃない。
は視界の隅にリサを捉えながら舞耶に頷く。
悲しそうな、喪ってしまった誰かを思うリサの横顔が。
あの日の淳とそっくりで、 は内心で驚き。胸を覆う不安が一層増していくのを感じ取っていた。

「焚き火なんてレトロだけど、まぁ、これで我慢な」
「……」
上杉が達哉に話しかけ、達哉は愛用のライターを開き閉じ。頷いて自分も服を乾かすべく焚き火にあたる。

「サキ……? どうしたんだよ、お前。顔色」
子供達を優しく促して焚き火にあたらせる の顔色が悪い。
焚き火にあたっていた栄吉は近くを通り過ぎた を呼び止める。

「ここが燃えてるのが見えたし、ちょっと……」
言い淀む の背後で城戸の眼光が鋭く光る。顔色の冴えない へ近づきかけた栄吉は歩みを止めた。
見えない城戸からの無言の圧力に汗をかく栄吉を、ゆきのがそれとなく避難させ、これからどうするか、話題転換も兼ねて相談し始める。

 プルルル。プルルルル。

ゆきのが問題提起を行った直後、舞耶の携帯が鳴った。

「ちょっとごめんね?」
大人の女性らしい断りを入れた舞耶が焚き火から離れ携帯に出て応対する。
適度な相槌を打ちながら携帯電話を耳に押し当てていた舞耶が、慌ててペルソナ組があたる焚き火へと駆け寄ってきた。

「大変!! 皆、ビックリする事になってるわよ」
携帯電話で誰かと喋っていた舞耶が慌てて全員に衝撃の内容を伝える。
音楽堂や、スマイル平坂、及びスポーツジムGOLDで目撃された自分達が噂になっていると。
更にその噂が一人歩きして、自分達が爆弾を仕掛けた犯人となっている事も。

「このままじゃぁ、わたし達がテロリストォ!?」
暗い顔をしていたリサが驚いた表情を作り情けない顔で叫ぶ。

「おいおい、冗談だろ? その爆弾を防いで回ったのは俺達だってのに」
栄吉も口から唾を飛ばす勢いで驚愕を示す。
元々が真っ直ぐ、一本気な性格を持つ栄吉だ。
噂によって自分達の行いが歪められた事を俄には信じられないのだろう。

「大丈夫!! 良い考えがあるの♪」

 ふふふふ。

大人の女性の笑みを浮かべた舞耶が助けた子供達を集めてお願いを始める。
自分達の噂を新しく流してもらい、テロリストの噂を打ち消す作戦だ。

「噂には噂で対抗するのね」
小学生達の真剣な眼差しを遠巻きに見詰め、麻希が感嘆のため息を漏らす。
舞耶達に助けられた子供達は真実を知っている。
放火魔であり、仮面党の幹部であった『キング』なる人物が自分達を焼き殺そうとした事を。
また、自分達を助けてくれた舞耶達こそが正義の味方だと。

「さっすがは記者サン。頭の使いどころが違うなぁ」
上杉が自分の頭に人差し指を当てて感心しきり。麻希の隣に立ち相槌を打つ。
「お前とは違うだろう」
城戸は を視界の隅に置きつつ上杉へ牽制を放った。
城戸とて上杉が根っからの『フェミニスト』だとは承知している。
だが幾らなんでも。
諒也に頼まれたとはいえ、 の奥深くにまであっさり触れようとする上杉の処世術が羨ましくも、憎らしい。簡単に触れて良いものじゃない。
は。
ついつい保護者の気分になってしまう城戸だ。
「城戸っち、さり気に俺様をいじめて楽しいのかーっ!! さっきも言ったけど、俺様も諒也に」
上杉は上杉で城戸の苛立ちの原因を明確に捕らえ、一応の説得を試みる。
黙っていれば可愛い部類の だ。コンプレックスも昔の自分と似た部分を抱えている。
自分の名誉のために弁解させてもらうなら、上杉はハッキリ言うつもりだ。
出会って間もない少女を軽い気持ちで口説いて回るほど自分の頭は軽くないと。
「はいはい。上杉君だって十分に頼りになってるから」
麻希が上杉の憤りの意味を正しく把握して肩に手を置く。
口先を尖らせ黙って憤る(周囲の目がある為)上杉と仏頂面の城戸を見遣りながら。
麻希は当時の諒也の偉大さを改めて痛感したのだった。


その間に舞耶の説明は終わり、子供達は各々噂をばら撒くために街へと戻っていく。

 成る程。噂には噂で、ね。
 わたしは流石に考え付かなくって黒きガイアと一緒に噂ごとフォースの呪文で浄化しちゃったけど。

恵比須海岸から去っていく子供達の背を見送り、 は抱えた膝に顎先を押し当てた。
力押しの自分とは違うインテリジェンスを滲ませた舞耶の手法。
行動では示さないものの心の中だけで盛大な拍手を送る。
《ヒトの数だけ方法があるさ。どれが正しいとは云えないだろう?》
少々凹み気味の へ、 の裡から成り行きを傍観していたルーが発言した。
《臨機応変》
麒麟にしては珍しく を労わる発言を口にする。
元より の分身であるペルソナ達は の精神的・肉体的な疲れを敏感に察知していた。

 うん、ありがと。
 わたしはマッキーじゃないし、マッキーにはなれないもんね。
 あの明るさとかお姉さんらしさ、とかはかなり憧れちゃうけどさ。
 わたしは、わたし。
 背伸びは出来ても成長は遅い臆病者だもんね。
 はぁ〜。少し前ならアヤセと一緒にフツー笑っていられた気がする。

でも今は? 舞耶の様な大人のお姉さんとは縁遠かった だ。
なんとなく、辛い場面も冗談を口にして乗り切ってしまう舞耶を羨ましく感じる。
自分なら相手の言葉を真に受けて怒って、怒鳴って、喜んで。
馬鹿正直な反応しか返せないから。
怖くても決める時は決めて立ち向かえる『大人』な舞耶が羨ましい。

《自覚があるなら大丈夫よ。休める時にきっちり休んでおきましょう》
ソルレオンに話題を打ち切られ は口に溜めた息を少しずつ吐き出した。
その間に舞耶は持ち前の『ポジティブシンキング』を発揮して城戸や麻希、上杉といったセベク組達と熱心に話しこんでいる。
焚き火にあたりながら舞耶の行動を静観していた は口角を持ち上げる。
子供達が去り、一定の静けさを取り戻した海岸に 達と達哉達だけが残った。



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