『番長繋がりの賜物4』




スマル・プリズンで を囲む達哉達。
彼女の助言を拝聴すべく背筋も伸ばす。
この中で一番歳若い だが威厳だけは誰よりもあった。

「勇者達よ、いよいよ旅立ちの時が来た」
目を細める の第一声に栄吉は乾いた笑い声を立てる。

「勇者か?」
己の青い髪を指先でつまみ栄吉が小さな声で に突っ込む。

「じゃあ、問答無用で当事者にされたっぽいけど。実は理由があって冒険する羽目になった無自覚の冒険者」
歯に衣着せぬ の物言いに達哉が眉を顰めた。

「神崎さん流に言ってるだけなんだから、そんなに怒らなくたって」
胸の上に手を上げてリサが達哉を宥める。

「理由はどうあれ、三人は巻き込まれてアイリスの謎を追わなくちゃいけない。わたしも手伝える部分は手伝うから、それまでガンバ☆」
親指を立てて他人事風に笑う に、リサはなんともいえない顔をした。
リサの隣では達哉が静かに怒っている。

「え〜、コホン。みっちゃん、周防弟、リサっち。多分君達ペルソナ使いが特に狙われると思うから、準備と情報収集は忘れないように。
ペルソナについては街中にある青い扉・ベルベットルーム。あそこで聞くのが一番。イゴールっていう、鼻の長いおっさんが仕切ってるから行ってみるといいよ」

セベクと同じなら、主立って襲われるのはペルソナ使いだけ。
悪魔の気配もしているし、三人がとりあえずドコまで頑張れるかにもよる。

この場で一番柔軟なリサが律儀に携帯に の情報をメモしている。
達哉は半分信用・半分懐疑的。栄吉に至っては胡散臭そうに を見下ろす。


誰も彼もがジョーカーとの邂逅を重大視していなかった。


「噂が現実になるという現象は、さっきのジョーカー様出現で証明された。即ち、こちら側に有利な情報を流すのも可能だというコト。
わたしがバイトをしている葛の葉探偵事務所の轟所長に頼んで、噂を流してもらうといいかも。
手始めに七姉妹学園を襲う奇病の噂の書き換え、とか」

がゆきのから奇病の噂を詳しく聞いてから一ヶ月。
奇病の勢いは留まるところを知らない。
この奇病ですら、高校生達の口に上る『噂』を土台に成立している病かもしれないのだ。

セベクを乗り越え後日談を知るからこそ疑う。
自我を失わず目を見開く。
知りたくない事実でも知りたかった現実でも。

 全てを受け入れなければ本当には辿り着けないもんね。

虚構の御影町で対面した己の闇の仮面。
は自分の胸に手を当てて自嘲気味に笑う。
それも一瞬のことで誰も の笑いを見逃していたけれど。

「一理あるな」

 頭が良い? いや、似たような現象を経験している?

達哉は の意見に動揺したが、表には出さずに短く意見を返した。

「自分のバイト先の宣伝にも聞こえなくないが、確かに利用できるかもな」
顎に手を当てた栄吉が何度も首を縦に振る。
「ってかさ、リサっちって……わたしのあだ名?」
今更己の呼び名の変化に気づいてリサが に問いかけた。

「うん。あ、わたしのコトはサキって呼んでね〜。神崎のサキ。さん付けは恥ずかしいし。リサっちのあだ名、駄目??」
小動物のCMを髣髴とさせる の愛くるしい眼差し。
喋りさえしなければ外見は只の可愛い女子高校生である。
綺麗系の女子高校生リサとはベクトルの異なる可愛い系女子高校生の だ。

「……うっ、だ、駄目じゃないけど」

 クゥン。

なんて犬の幻聴まで聞こえてきそうだ。
リサは思わず了承してしまう。

「じゃぁ決まり」

 コロッ。

縋る眼差しが一転、悪戯の成功した子供みたいな輝きを纏った。
嵌められた? リサが疑問に思う間もなく、 のリサに対する呼び名が『リサっち』へと決定。

「ま、負けた……」
冷たい床に両膝を付き両手も付いて。
リサは形容しがたい敗北感に打ちひしがれる。

「勝てねーよ、あいつのペースには」
経験者の栄吉が妙に黄昏た調子でしんみり呟いた。

「まぁ、まぁ! 所詮はあだ名なんだしさ〜」
ここで張本人の がヘラヘラ笑い、栄吉の怒りに火をつける。

「じゃあなんで俺様がみっちゃん、なんだ! みっちゃん!! ミッシェルだと言ってるだろうが!!」

 ウガー!!

目を剥いて怒る栄吉に は小首を傾げた。
なぜ栄吉が怒っているのかいまいち分っていない所か。
完全に分っていない顔で。

「はえ? ミッシェルだから、友愛の意味を込めて『みっちゃん』なんじゃん。仲良しの証拠だよ?」
の解説に今度は栄吉が完敗。

黙って見守っていた(面倒なので傍観していた)達哉が堪えきれずに肩を震わせ、 達から顔を背ける。

会話がコントだ。コント!
キャラじゃないので爆笑はしないが、不思議っ子聖エルミン二代目番長。
案外天然ボケなのかもしれない。

笑いを噛み殺しながら達哉は密かに思った。

「まずはわたしのバイト先、葛葉探偵事務所だよ? 忘れず尋ねて『噂が現実になる』ってゆー現象を確かめたまえ!
今後の冒険に欠かせないルールになるからね」

無駄に座ったままふんぞり返る は背骨を伝う痛みに顔を顰める。

《そこで見栄を張っても無理だと思うぞ、
の助言を見下ろしていたルーが手痛い指摘を入れる。

「はうっ……王者は常に孤高なのだよ、ルー」
口を薄く開けて呼吸を繰り返し は分かるような、分からないような理屈を繰り出した。
の反論にルーはおどけて肩を竦める。

「逝け! 冒険者達☆ あの扉を自ら開き旅立つのだ〜」

 びっし。

が自分で壊して押し入った、スマル・プリズンの入り口を指差す。
さり気に行けと逝けを間違って使っているあたり。
らしい。

《自らって……その扉壊したの、 じゃないか》
蹴破られた扉を見詰めるルーを無視して は達哉達を追い払った。




「それでハナジーさん、なにか?」
先ほどから何かを言いたそうにしていたハナジーに は声をかける。

「春日山の番長さんに、わたしの本名を教えないで欲しいんです」
眉根を寄せるハナジーに は痛む身体に鞭打って笑顔を浮かべた。
ルーが察してハナジーの上着を本人へ返す。

 うんっ。
 理由はよく分らないケドさ、乙女の事情ってヤツだよね。
 こーゆうのは黙っておいてあげるのが親切ってモンでしょ〜。

「分りました。内緒にしときま〜す」
教育番組の子役タレントのように返事を返した
ハナジーは「御願いします」なんてもう一度行ってから姿を消した。



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