『番長繋がりの賜物3』




ソレが起きた時、リサは咄嗟に目を瞑っていて。
何が起きたのか分らなかった。

「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!! 二代目さん」
リサの視界に映るのは青い顔をして崩れ落ちる の姿と。
慌てて に近寄るハナジー。
正に『影人間』と称するに相応しい、栄吉というカス校生の子分達の姿。
あの達哉でさえ無表情だったが に近寄っている。

 ナニ……?
 何が起きたんだっけ……。
 確か、わたしとあの二人でジョーカー様をして。
 噂通りにジョーカー様が現れて。
 何故かジョーカーは怒っていて。
 わたし達のペルソナが反応して……攻撃してきたジョーカーから。

「神崎さん!!」
リサも悲鳴を上げて に近づく。

 そう、思い出した。
 庇ってもらったんだ、わたし達。

ジョーカーの攻撃をたった一人で防いだ は意識を失い倒れこんでいた。

《アイリスとはまた奇妙な》
の頭上に浮かび上がる青年。
好奇心に満ちた表情でジョーカーが打ち捨てていったアイリスの花を眺める。

「「「「……!?」」」
驚く四人を前に青年は愛想良く微笑み腕を折って軽く会釈した。

《一応 の固定ペルソナしている、ルーというモノさ。他に三体のペルソナが居るけど、まぁ、おいおい出会うだろう》
主が倒れているのに平然と挨拶を交わすルー。
自称・ペルソナからの挨拶にペルソナ使い達は目を丸くするばかり。

《信頼関係が違うからね〜、 なら心配要らない。ショックを受けて一時気を失っているだけ》
器用にウインクするルーのおどけた所作に、場の空気が和らいでいく。

「ただの気絶かよ」
ヘナヘナとその場に座り込む栄吉。
この四人の中では一番 を知っている人物だけに、心配はしていたらしい。
横暴そうな言動と態度とは裏腹だ。
リサは少しだけ栄吉を見直す。

「一体こいつは何者なんだ? 俺達を庇って何のメリットがある?」
苦い口調で達哉がルーに問いかける。

非常識的場面の連続。
ありえない、なんて言葉は心の中で何回も叫び済みだ。
これ以上常識を振りかざしても何の進展もない。
判断を下す達哉は気持ちを切り替える。

《誰かを助けるのに理由は要らないさ。 にとっては傷ついて欲しくない対象なんだ。蝶に魅入られた君達は》
「ペルソナ使いだから、か?」
曖昧に言葉を濁すルーの逃げを許さない。
達哉は畳み掛けるように再度尋ねる。
ルーは大きく息を吐き出し、腕組みした。

《何年か前の話だ。ペルソナ使いの少女がある卑劣な事件に巻き込まれ、危うく自我が崩壊する危機にあった。
はその少女と知り合いで彼女と仲良くなり、沢山悩んで沢山苦しんで沢山泣いた。 自身も、自分が忘れてしまった罪を思い出して》
ルーは遠くを見詰めて呟く。

《だから強くなった、強くなっていく。 の頭は思いの外単純に出来ているからな、君達が考えるほど殊勝な心がけがあって助けたわけじゃないさ》
少しばかりの皮肉交じりに締め括られる、ルーというペルソナのコメント。
リサは不思議な気持ちを抱えてルーを見上げた。

「汝は我、我は汝……フィレモンはそう言ってたけど?」

 貴方も なの?

リサの顔に浮かぶ純粋な疑問。
口角を持ち上げルーは両手を広げて肩を竦める。

《そう。人は様々な己を持つように も様々な を持っている。己の闇と対峙し、受け入れられる人間はそう多くないということかな》
ルーの返事を聞いて、リサは胸に引っかかっていた疑問が解けていくのを感じた。

 そっかぁ。
 情人に似てるんだぁ。

 神崎さん、おどけてるし、不思議ちゃんだけど。
 責任感は人一倍強くて正義感も強いみたい。
 ヘラヘラしてるのはフェイク。
 本当は物凄く真面目なのかも。

 だから安心する。
 信用できるって思えてくる。

 不思議。

 情人に感じる達っちゃんの面影が、神崎さんにも重なって見える。


痙攣する の瞼が持ち上がるのを見守り、リサは安堵感に包まれた自分の身体を抱き締めた。
ジョーカーが思い出せと言った出来事を、思い出すのが少し怖くて。

「う〜……はっ、はず〜」
呻きながら頭を抑える に一先ず安心。
達哉達は胸を撫で下ろした。

「恥ずかしい〜、人前で倒れちゃったよ〜。大丈夫だった??」
大きく深呼吸してとぼけた台詞を零す に全員が肩を落とす。

 そっくりそのまま、その言葉をお前に返す。

裏手突っ込み入りでお見舞いしたい台詞を全員が喉奥に飲み込み。
口火を切るのはブチョーことハナジー。

「わたしは大丈夫でした。二代目さんは大丈夫ですか?」
の顔色を窺いながら代表してハナジーが喋る。

「うん。ヘーキ、ヘーキ! 頑丈だけが取り柄だからさ〜。さてさて、ジョーカー様とやらはどーなったん???」
へにゃと崩れた顔で照れ笑いを浮かべる の顔色は冴えない。

「アイリスを残して消えた。わたし達が何かを思い出さなきゃいけないみたいで……」
逆に問いかけてきた に今度はリサが応じる。

 でも見間違い?
 ジョーカーの顔。苦しそうに歪んで、神崎さんに何かを言いかけて。
 止めたように見えた。

胸を押さえて俯くリサ。
そんなリサを他所に手際よくハナジーが事態を へ説明。
今後をどうするか、のような流れになり。
不意に は表情を引き締める。

「これからを手伝ってあげたいけど、ごめん。さっきの攻撃防ぐのでちょっと疲れすぎちゃった。でも助言は出来るからねっ!」
ジョーカーの残した言葉。
突然の攻撃。
これからの不安。
油断すれば重くなりがちな空気を払拭する の力強い口調。

わざと弾んだ声で言った
の頭へ口元を歪ませた達哉が手を置いた。

「……助言は貰う。だが、その前に座り直せ。まだ具合が良くないだろう?」
上半身を起こしただけの は不安定に座っている。
達哉の指摘にハナジーが を壁に寄りかからせた状態で座らせ直す。

 なんだ。
 やっぱ兄弟って似るのかも。
 克兄と一緒で不器用だね、周防弟。

膝にハナジーが上着をかけてくれ、ハナジーに礼を言いながら は考えた。


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