『番長繋がりの賜物1』




は舌打ちしながら、携帯のダイヤルを回す。
バイトを休む旨を伝えるためだ。

 ったくもぉ〜!!! みっちゃんのバカバカバカバカ……!!!!

春日山高校のみっちゃんは、番長で とも面識がある人物だ。

彼はどうやら一騒動を起こしたらしい。
正確には彼の子分達が。

みっちゃんこと三科 栄吉はバンドをしている。

そのバンドの知名度を上げるべく七姉妹学園一のイケメン、周防弟に謎めいた決闘状? らしきものを叩き付けたという。

みっちゃんの実家の寿司屋が居場所と豪語する、城戸の同僚。
元聖エルミン生横内の口コミで知った情報を元に は走っていた。
チャリンコで。

「あ〜!!! バイクが欲しい、バイクが欲しいっ! 去年の冒険からすればマシだけど、人力は辛い〜」
一人薄闇の中をママチャリで疾走しながら叫ぶ。

どうせ誰も全てを聞けやしないのだから、大丈夫だ。
珠阯レ市・平坂区。スマル・プリズン。
汗を掻きながらチャリを走らせる は嫌な予感を胸に急いでいた。

「みっちゃん!!!」
この際だ。
鉄の扉は蹴破るべし。
春日山高校の番長のあだ名を声高に呼び、スマル・プリズンの扉を は蹴破る。

 ズガァン。

ハリウッド映画も真っ青。
ひしゃげて凹んだ鉄の扉がスマル・プリズン内部へ派手な効果音を立てながら落ちていった。

「……ってぇ!? か、か、神崎!?」
腰を抜かして驚いている栄吉。
肩で大きく息をした は目をまん丸にして叫んだ。

「メット頭!!!」
凡そ初対面の人間が。
しかも年頃の少女が、大声を発しながら発言すべきコメントではない。
指名されたメット頭(失礼!)こと、周防 達哉は目を丸くする。
同じく、周防についてスマル・プリズンにやって来ていた、リサ・シルバーマンも驚いた。

「はぁ〜、大事にしてないんだ。まだ」
胸を撫で下ろす とは対照的に、栄吉は疲れきった顔で壊れた鉄製の扉を一瞥する。

「てかなぁ、お前がしただろうが! お前がっ!」
上擦った声で指摘する栄吉に、 はあはははは〜なんて誤魔化し笑いを浮かべた。

「非常事態だしv」

 えへ。

言い切った に栄吉は諦め、栄吉の子分達は土下座する。

「「す、すみません! 二代目!!」」
まざまざと の力を見せ付けられて改めて畏怖の念を抱く。
子分達が萎縮する中、 は入り口から地下部分へと身軽に舞い降りた。

「あー、別にわたし、二代目じゃないし。周りが勝手にそー呼んでるだけだから、あんま真に受けない方がいいよ?」
困った顔で が言えば、床に額を擦りつけ子分達は「「はいっ」」と。
これまた硬い調子で返事を返す。

 だから……そーゆう態度をやめて欲しいって思うんだけどねぇ。

チョッピリ切ない。
はため息をつき、己を興味深そうに眺めるポッチャリ系へ目を向けた。

「えっと、チカリンの先輩さんですよね? 七姉妹学園のブチョーさん」
「はい、そうです」
髪の長い愛嬌のある顔のブチョーはニッコリ笑う。

「何がどーなったの? みっちゃん……ペルソナ使ったっしょ〜、駄目だよ〜、素人にペルソナ使っちゃさぁ〜」
前半はブチョーへ。
みっちゃん〜は、栄吉へ向けて。
目が笑っていない笑顔を浮かべる は小さいながら迫力がある。
醸し出している雰囲気が尋常じゃない。

「この方の子分の方達に間違えて連れてこられてしまいました。七姉妹を取り巻く噂の検証に出向いたつもりだったのですけど」
ブチョーがはにかんで微笑みながら、己がスマル・プリズンに来た経緯を話す。

「お、俺だって不可抗力だぜ。変な共鳴が起きて、フィレモンとかいう奴が。噂が現実になるって。業を断ち切れって」
激しく動揺しながら栄吉は口早に言い訳した。

「……」
栄吉の言葉に は腕を組み、口を真一文字に結ぶ。

 フィレモンが動き出した。
 メインはみっちゃんと、メット頭と……えっと?
 金髪のおねーさんも!?
 錆びた歯車が動き出す。

「ふぅん。噂が現実になる、ね。で……確かめるの??」
肩を竦める を漸く我に返ったリサが指差した。

「ちょっと! ちょっと! 黙って聞いてれば、何? アンタ何者なの!? 突然やって来てなんでこの場をしきってんのぉ!?」
ブルーアイを更に丸くする。
食って掛かるリサを眺め は小首を傾げる。

「すっごい流暢な日本語喋るんですね〜」
外見が完全に海外の人、だけにつっかえもせず日本語を喋るのは凄い。純粋に感動してしまう。
惚れ惚れした の的外れな台詞にリサは毒気を抜かれた。

「あ、まぁ、日本育ちだし」
歯にモノが挟まった調子で答えたリサに は改めて頭を下げる。

 うんうん。
 初対面の人への挨拶は大事って麻希ちゃんも言ってたモンね!
 (非常事態に何を悠長な、と突っ込める豪胆な人間はこの場にいない)

頭を下げて上げて。 はリサを見上げて挨拶を始めた。

「そうなんですか? あ、わたし、聖エルミン学園一年生。神崎 リアトリス  と申します。一応……番長? なのかなぁ……」
頼りなさそうに小さく唸る のギャップは激しい。

栄吉を脅したり、扉を蹴破ったり、妙に礼儀正しかったり。
途端にシリアスになったり。
リサには理解不能生物のように映る。

「お姉さんは? メット頭の恋人?」
人懐こい表情で が尋ね返せばリサはたちまち頬を染める。

「み、見る人から見れば、こ、こ、恋人に見える??」
両手で頬を押さえるリサの横で達哉はさり気に首を横に振っていた。

「初対面だよね、メット頭。克兄から話は聞いてる?」
一人動揺するリサを放置。
達哉に向き直って改めて言えば、 の言葉に表情を硬くする達哉。

 不器用周防兄弟ズめ。

内心激しく毒づきながら は感情を表に出さない。

「コイツと知り合いなのか?」
やっと冷静さを取り戻した栄吉が会話に加わる。
「んにゃ。メット頭のお兄さんって掲示(刑事)サンで、あだ名が克兄〜」
「は?」
マイペースに説明した のイントネーションが変だ。
栄吉は首を傾げたのだった。



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