『拝啓姐御様3』




眠る藤井を他所に女三人。
何故だか意気投合? の様相を呈し始める。

舞耶の持ち前の人懐こさと の開けっぴろげな態度。
ゆきのの歯に衣着せぬ発言が上手く噛み合ったからだろう。

「女の子だって知ってたけど。こんなに小さな女の子だとは思わなかったわ」
地味な髪型。両サイドの髪を後ろで結んでいるだけの、イマドキではない高校生。
の質素な出で立ちに舞耶は素直に感嘆の声を上げる。

「見た目が地味で、身長も154センチと低くて? それで、裏番張ってるような雰囲気が皆無だから。でしょ? マッキー」
唇の端を持ち上げる に舞耶が驚いたように口を開く。

鈍そうなおっとりした空気を持つ から放たれる鋭い指摘。
イマドキそうに見えて違う部分、真っ直ぐ大人の瞳を射抜く の亜麻色の瞳。

「サキ、初対面の人にもそれなのかい?」
心持ち呆れた口調でゆきのが言えば、 は悪戯の見つかった子供のように舌を出す。

「えへへ、ご免なさい。意地悪するつもりじゃなかったの」
、影ではえげつない事をやってのけるが、謝る部分ではきちんと謝る良い子である。

「でもわたしのあだ名、良く分かったわね」
ニコニコ笑う舞耶に は何度か瞬きをした。
「? ゆきのがユッキーってあだ名だったから、ついでにマッキーにしただけだよ?」
事も無げに答えた を舞耶は思わず抱き締める。
「可愛い〜vvv ユッキー、サキってすっごく可愛いv」
驚く を力いっぱい抱き締める舞耶にゆきのは微苦笑した。
「火事といい悪魔といい、訳アリ? アタシ達で力になれる事はない?」
かすかに遠くから聞こえる消防車のサイレン。
気がついてゆきのは逸れた話を本来の道筋へ戻す。

「大丈夫。一人パーティーには慣れっこだし。えっと、マッキーは無自覚ペルソナ使いなの。だからユッキー、マッキーを助けてあげて」
真顔に戻って大人二人を は見上げる。

 選んで欲しい。これから起きる全ては、二人が辿る道の前フリだけど。
 それでも二人には知っておいて欲しい。
 この世界のくだらない法則と、矛盾と、無駄を。
 大切な物は直ぐ隣にあって手を伸ばせば辿り着けると。

 わたしは無力で、これ位しか出来ないけど。
 わたしはわたしの道を行くから。
 だからマッキーもユッキーも迷子にならないでね。

訴えをどう受け止めたのか。
ゆきのと舞耶は黙って首を縦に振る。

「マッキーはペルソナ使い。ペルソナ使いってのは、ユッキーの友達達が作った造語。自分の中に潜む様々な性格の自分を引き出す力。
マッキー、ペルソナ様って遊びしたことある? あれがきっかけで目覚める人が多いんだよ」
舞耶の思慮深い瞳を覗き込み、 は舞耶の言葉を待つ。

「……ぺるそな、さま……?」
馴染みのない言葉なのに胸に染み込む違和感のない単語。
舞耶は唇に人差し指を当てたまま思案顔。

「それよりなんでこの場所に?」
考え込む舞耶を放置して、 はそもそもの疑問をゆきのへぶつけた。

「取材の一環だよ。クーレストに載せる記事でね、聖エルミンのと七姉妹学園を比較するって企画なんだ。
今日は聖エルミン取材に向かう途中だったってワケさ。聖エルミンは平穏だろうけど……七姉妹に起きた事件は本当に奇妙だね」
ズレた帽子の位置を直し、ゆきのは に答える。

七姉妹を覆う妖しい噂。
七姉妹の校章を持っていると顔面が奇妙に歪む奇病に侵される。
被害者は増加の一途を辿り、事件が収まる気配を見せない。

「うん……七姉妹に知り合いがいるけど、確かに変だって言ってた。噂によると、七姉妹の校章がキーポイントで、校章を捨てる生徒も多いって言ってたっけ」

を二代目と勝手に認知して暴走する情報屋。
七姉妹学園新聞部員、上田 知香。
通称チカリン。
を持ち上げる言動は頂けないが、彼女の情報は八割方合っていた。

チカリンの顔を思い出しながら は呟く。

「話は戻すけど、その途中煙が出ていて。見たらアラヤ神社じゃないか。驚いたよ。
燃える神社に消防と警察を呼んで、それでどうしようかと思っていたらサキが飛び出してきて現在に至るってトコロかな」
ゆきのが の疑問を打ち払えば は口先を尖らせた。

「う〜」

 納得いかない。

なんて の顔に出ていて、子供じみた の行動にゆきのは口元を綻ばせた。

 アヤセから聞いてたけど、相当クセのある子だ。
 アタシも呑気にしてられないか。

場所は違うけれどセベクスキャンダルを乗り越えた仲間。
あの過酷さと滑稽さを知っているから、相手を肩書きで判断してはいけない。

 サキも見た目通りと受け取ったらいけないね。
 あの子はあの子なりに行動を起こそうとしているみたいだし。
 マッキーへの指摘も気になる。

ゆきのは小さく唸った。

「嫌な予感がするの。わたしは……ユッキー達とは立場が違うペルソナ使いだから、制限もそれなりにある。すっごく嫌だよ、そーゆうの」

 マイちゃんとアキちゃん理想の麻希ちゃんの件もあるしね。

皆(みな)までゆきのに言わずに は途中で言葉を区切った。

わかっていて助けられなかった黒須少年。
訳アリと知っていながら無視せざる得なかった周防兄弟。
復讐を胸に仄暗い闇を抱く情報屋パオフゥ。
絡み合う糸が縺れて最悪の方角を示す。

《矢張り片棒を担ぐみたいだな〜、これじゃあ》
舞耶と同じく考え込んでしまうゆきの。
訪れる沈黙に の中に眠るペルソナが に話しかけてきた。
堕天使ルー。
のダークサイドを象徴するペルソナだ。
棘のあるルーのコメントに は肩を竦める。

《沈黙は肯定と受け取るけど?》
尚も から言葉を引き出そうとするルーに、 は頬を膨らませる。

 フィレとニャル。どっちの味方もする気はないよ。
 ただ巻き込まれるあの人達へのちょっとしたお節介。
 マッキーって自分がどうしてペルソナ使いになったか。忘れてる。

の脳裏に鮮やかに蘇る光景。
燃える神社と、悲鳴を上げる少女、舞耶。
狂ったように笑うイカレた青年と、舞耶を助けようと奮闘する子供達。
舞耶に出会った瞬間に流れ込んできた映像に は吐く寸前だった。

 見て気持ちの良い光景じゃないデショ〜、女子高校生が見て。

フィレモンの仕業か、ニャルラトホテプの仕業か知らないが。
改めてあの二人へ殺意を抱いてしまった である。


Created by DreamEditor                       次へ