『拝啓姐御様2』




 なんだか懐かしい。不思議な感じがしたの、本当に。

「本当にご免なさい」
藤井さんに謝る女の子は本当に申し訳ないって思ってるみたいで、小さな体をもっと小さくしてる。
すっかり毒気を抜かれた藤井さんも頭をかいて思案顔。
ユッキーは口を開いたり閉じたり。何かを言おうとしているけど、言葉にならないみたい。

女の子は藤井さんとユッキー、それからわたしの顔を観察した後、小さく笑った。

「……ナ」
小さく何かのお呪い? を呟く女の子。
不思議な蒼い光が瞬いたかと思うと、藤井さんの身体が傾いだ。

「藤井さん!?」
叫んで慌てて藤井さんを支えようとするユッキー。
けれど意表をついて、藤井さんの身体を女の子が片手で捕まえた。

「お客さん第二段が来たんで、巻き込めないし」
女の子はユッキーに藤井さんの身柄を引き渡し、早口にもう一度謝る。

亜麻色の瞳の奥に潜む強い輝き。
羨ましいくらいに輝く瞳が、少しだけ歳不相応に落ち着き払っているの。

でも彼女が放つ根拠の無い自信たっぷりの態度が懐かしく感じて。
初対面なのに彼女の発言を言葉通りに受け止めているわたしが居る。

「何言ってんだい!?」
「大丈夫よ、ユッキー」
混乱しながら女の子を止めようとするユッキーに、わたしは口を挟んだ。
女の子とユッキーの視線がわたしに向けられる。

「貴女は信頼できる。だけど無茶しないで」
わたしが微笑みかければ、ぎこちない顔つきで女の子は笑った。
今度は歳相応の可愛らしい少女の笑み。
つられてわたしも、無意識に彼女へ頷き返していた。





何もない空間から溢れ出す異形の者達。
須藤の差し金だということは、 だけが知っている。
の挑発を真に受けた須藤の怒り具合が良く分かる量だ。

 ざっと見積もって二十体。これなら一気にけりをつけた方がいっかな。

背に庇う形で大人しくしてる大人達。
うち二人はペルソナ使い。
眠らせたおっさんだけは一般人。

護るべき対象を前に は一歩も引く気などなかった。

《グルガアアアァアアアア》
青い身体を持つ巨大イカ? の様な風貌を持つ悪魔。
「TOWER、カナロア。……ふぅ、厄介なんだか。楽勝なんだか」
久しぶりの戦闘に浮き足立つ気持ちを抑える。
なまじ力を持て余す の前に、適度なレベルの悪魔とは。
好戦的な気持ちを開放しろと言っている様なモノ。

「逃げるんだよっ!!」
悲鳴に近い叫びを上げる帽子の女。
は返事の代わりに首を横に振った。

 心配してくれるのは有難いけど。でも、譲れないも〜ん。
 今日は麻希ちゃん風に♪

「わたしを助けて」
キメ台詞を言葉に発動するペルソナ。
麒麟に目配せすれば、麒麟は琥珀色の瞳で悪魔達を一瞥し呪(まじな)いの言葉を発した。

《メギドラ》
炸裂する核熱魔法と、瞬時に姿を消すカナロア二十体。
構えたままペルソナ発動に至らなかったゆきのは目を丸くし、舞耶は呆然と立ち尽くす。

「ペルソナ使いなのかい?」
鳩が豆鉄砲を食らった顔の帽子の女。 は首を縦に振る。
「……改めて始めまして。わたしは神崎 リアトリス  。聖エルミン学園高等部一年生です」
頭を下げる に、思い当たる節があるのか帽子の女が を指差す。
「まさか……!? 城戸や、アヤセ、麻生に稲葉。あいつ等が言ってたサキ、かい?」
震える声で、帽子の女は思い当たるただ一人の人物のあだ名を口に出した。
「はい」
の返事に帽子の女は相好を崩す。
「アタシは黛 ゆきの。聖エルミン学園の生徒だった」
帽子の女、黛 ゆきのはニッコリ笑う。
右手を差し出すゆきのの手を握り返す
二人を包むペルソナ共鳴。
暖かいゆきのの手に安堵して は嬉しそうにはにかむ。

「え? ……えっと? 貴女が噂の聖エルミンを影で牛耳る二代目?」
の堂々とした態度や、落ち着いた物腰に修羅場を経験した者が発するオーラ。
頭の片隅で納得しつつ、もう一人の女性が目を丸くする。

「あ〜、そんなに噂になってマス?」
眉を八の字に寄せて上目遣いになった に、ゆきのが噴き出した。

圧倒的な力を誇りながら態度はごく普通の少女。
アヤセと麻希から『ギャップが面白い』と聞いていたが。

 ここまでナチュラルボケに近いなんて、思わなかったよ……。

身体を震わせて笑うゆきのに、キョトンとした顔で小首を傾げる

「わたしは天野 舞耶。情報雑誌クーレストの記者よ。ゆきの、ユッキーは写真家の藤井さん……そこで眠ってる男の人ね。の助手」
信じられない光景を目の当たりにしてもこの少女は信じられる。
妙な確信に満ちた表情で、もう一人の女性は自ら名前を名乗った。

「ゆきのさん、通称ユッキー。ゆきのさんの事はアヤセや麻希ちゃんから話は聞いてます。えっと、敬語止めていいですか? ユッキー?」
手を握りながらゆきのに言えば、ゆきのは笑いを引っ込める。

「当たり前だろう? あいつ等が噂するサキに出会えて嬉しいよ」
和む二人。片や断片的にしか の情報を持たない舞耶は を観察した。

 一見平凡な女子高校生。
 自己紹介でも聞いたけど一年生で、名前を神崎 リアトリス ちゃん。
 ハーフ。亜麻色の髪と瞳を持つ、身長154センチ体重は秘密。
 影で聖エルミンを操ると噂の少女。

 でも……本当かしら? 悪党タイプには見えないわ〜。

 確かに不思議な力は使えるみたいだけど。
 安心する雰囲気を持っている子。
 不思議な子。

 でも嫌じゃないわ、こんな空気を持っている子。

興味津々にゆきのと を見詰める舞耶。舞耶の視線を感じて、 が舞耶へ顔を向けた。
「宜しくね、神崎さん。それともサキちゃん?」
人を安心させる笑みを浮かべる舞耶。
は舞耶に首を横に振った。

「サキって呼んでください。わたしは舞耶さんの事、マッキーって呼びます」
の遠慮ない言葉に一瞬だけ驚いて、ゆきのは我に返る。

城戸やアヤセに言われた。
サキは同じペルソナ使いに壁は作らない、と。
ゆきのと対等で居たいと願い出て、舞耶に普通に接するのは=で。
間違っていなければ、舞耶もペルソナ使いだということになる。

「サキ? どういう……?」
口篭りながら、今度は舞耶と握手する へ目線を送る。
ゆきのの目線に は黙って笑みを深くするだけだった。


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